#567/3137 空中分解2
★タイトル (NFJ ) 90/ 8/24 21:57 (125)
赤き不滅の星の民(4) KY
★内容
赤き不滅の星の民(4)
並木きょうすけ
そこは廊下のようだった。やわらかい照明が壁を照らし、優しい音楽が私た
ちを包んだ。そして、両側の壁にはマントを着て色とりどりの耳飾りをした人
々の絵が描かれていた。
森の人に違いない。
「これ、宇宙船よ」
ヨーコが指さしたのはロケットの背中に半円形のドームのようなものが並ん
でいる物体で、後方に光の筋らしいものを放っている。これを描いた人たちが
乗っていったのだろうか。
その隣には球形の絵−まさしくわれらが母なる星、テラが描かれていた。そ
れは人類学の時間に習ったとおり真っ青できれいだった。
さらに進むと赤味を帯びた星が描かれていた。レッドクラウだ。私が三年前
に家族といっしょに二泊三日の宇宙旅行をした時にシャトルから見たのと同じ
ように両極に白い氷をのせていた。
「そうか、森の人はテラから来たのね」
「ということは私たちと同じ人類ということよ、アキナ」
今では森の人は私たちと大きく異なっていた。私たちはハイパースペース航
法を開発して今や太陽系以外に五つの星系に進出している。そのひとつがこの
レッドクラウだ。それにくらべて森の人はこの星に来たものの現在の生活水準
は未開人のそれだ。
「でも宇宙船を作ったのは森の人じゃないわね」
ヨーコの言うとおりだ。左右の壁に描かれている絵から判断して、森の人が
レッドクラウへ来たのは石器時代の頃であろう。とても宇宙船なんか作れっこ
ない。
両側の絵は続いている。半裸の男たちが弓矢を持ち槍を携えて鹿のような動
物を追っている。またテントのような住居の中で女たちが赤ん坊をあやし毛皮
を繕っている。
「異星人たちは森の人をこのレッドクラウに残してどこへ行ったのかしら」
その時、床がぐらっと揺れた。地震だ。こんな地下深くで地震に会うのはぞ
っとしない。さいわい地震はすぐにおさまった。
「さあ、兄貴たちを捜しましょう」
ヨーコの声にせかされて私たちは先へ進んだ。
しばらくすると通路はひとつの部屋に達した。そこは今までとは全く異質な
空間だった。小型宇宙船のコックピットを思い浮かべてもらえばいい。
コンソールの上には十個ほどのスイッチ類があり、たくさんのランプが点灯
していた。ちょうど目の高さにはモニタ画面がいくつもあってこの洞窟の中の
いろいろな場所を映し出している。
「兄貴!」
ヨーコの叫び声はいつも唐突だ。でも今度は声に切迫した響きがある。
ヨーコの視線は右端のモニタに釘付けになっている。私は急いでそのモニタ
の前に行った。
「兄貴、死んじゃいや」
モニタにはトシオさんたち五人が映っていたが全員中腰である。何故かとい
うと画面のこちら側から例のビームがトシオさんたちの頭を狙って発射されて
いるからだ。五人ともできるだけ姿勢を低くしてビームをかわそうとしている。
トシオさんの顔は真剣だ。額に汗が光っている。鋭い目。引き締まった口も
と。なんて素適なんだろう。
いや、感動している場合ではない。
「何とかしなくっちゃ」
ヨーコは叫ぶが早いかコンソール上のスイッチをあたりかまわず押しだした。
「ヨーコ、やめなさいよ。そんなに無茶苦茶に押したら何が起こるかわから
ないじゃない」
私は必死でヨーコを押え込もうとした。
「でもこのままじゃ兄貴は...」
たしかにトシオさんは学者で、私みたいにレイガンの名人だという話は聞い
たことがない。だからヨーコの気持ちもわかるが先ほどの神殿のこともある。
この洞窟は異星人が作ったのだ。何が起こるかわかったものじゃない。
「.....」
ヨーコが森の人の言葉で何か叫んだ。
その時、ものすごい音とともに通路とこの部屋との境が壁の両側から現われ
た金属製の扉によって塞がれてしまった。
やばい。
と思った瞬間、さっきの十倍はあろうかという轟音が私の耳を打ちのめした。
ヨーコの口がパクパクしているが私には何も聞こえない。私も大声でヨーコを
ののしるがヨーコには聞こえていないみたいだ。
突然、鋭い衝撃が私の全身を襲った。
私の体は壁ぎわに叩きつけられる。
激しい痛みで思わず涙がでた。
衝撃の後は加速度が私のかよわい体を押さえつけた。
加速度?
一体どうなっているの。
私は壁に押さえつけられたまま遠くなる意識の片隅で必死にトシオさんに助
けを求めていた。
頭が痛い。割れそうだ。
意識が遠く近く揺れている。目の焦点が合わない。ここはどこ。
「大丈夫ですか。お怪我はありませんか」
目の前に煤けたドラム缶が突っ立っていた。何と言ったっけ、このロボット
の名前は。そうだケンタローだ。
「ケンタロー、ここはどこ」
「宇宙船の中です、異星人の作った」
宇宙船って何よ。頭の中がどうもまとまらない。確か私たちはヨーコと三人
で洞窟の中へ入ったはずよ。そして神殿が急に下降して。それから蜂ロボット
のいる広間を抜けて壁画のある通路を通りコックピットのような所でモニタに
トシオさんたちが映っていて。
そうだ、トシオさんはどうなったの?
「ここは小型宇宙船のコクピットそのものだったんです。ヨーコお嬢様がス
イッチを入れたものだから宇宙船は発射されてしまったんです」
「ということは、ここは宇宙空間なの?」
「はい、先ほどまでモニタにレッドクラウが映し出されていました」
そういえば体が軽い。というより私は浮かんでいた。
「これからどうなるのかしら」
「くよくよ考えても始まらないわ」
ヨーコの声だ。事態がここに到った責任はすべて自分にあるという割には声
が明るい。
「さっきね、レッドクラウと無線が通じたの。ケンタローが持っていた無線
機のアンテナ線を適当にコンソールの端子につないだらうまくいったのよ。向
こうは驚いていたわ。すぐに兄貴たちの捜索隊をだすって言ってた」
トシオさんは大丈夫かしら。トシオさんが無事だったらこの私はどうなって
もいいわ。とは言うものの、やっぱりトシオさんと結ばれるためには私もレッ
ドクラウに戻らなきゃね。
「無線が通じたのなら、この宇宙船を何とかレッドクラウへ戻す方法を聞い
てみたんでしょうね」
「わかんないって。だってレッドクラウの連中だって異星人の宇宙船の操縦
方法なんか知らないわよ」
そう言われればそうである。
「それにね、この宇宙船はさっきハイパースペースへ入ってしまったのよ」
そうしたら、どうやってレッドクラウに帰るのよ。ハイパースペースから出
る方法もわからないし、もし出れたとしても異星人の待つ何万光年のかなたの
星。そもそもここには食料も水もほとんどないんだから。冗談じゃないわ。ハ
イパースペースでのたれ死にするなんて。
「アムハールの崇りね」
私は力なくつぶやいた。
(続く)
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赤き不滅の星の民(4)
並木きょうすけ