AWC ブリキ怪人 13・最終回   永山


        
#517/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  90/ 7/16  20:24  (134)
ブリキ怪人 13・最終回   永山
★内容
 「人形だった? そんな無茶な。」
 「そうと言い切れるか? 話をしていたのは、メイドの方だろう?」
 「桐場さんは時々、首を動かして、メイドに耳打ちしていたんだ。」
 「それはメイドに化けたこの男が、車椅子の後ろから操作していたのだ。」
 「そう言われると・・・。」
有り得るな。私は思った。
 「車椅子に座っていたのが人形なら、消失は簡単になる。人形の間に入った
らすぐに人形のガウンを脱がし、仮面を外してから、天井に吊るすなり、床に
転がすなりすればいい。君や太川さんが部屋に入って来たときには、消失は完
了している。
 次はメイド殺しか。動機の点は、さっき明らかにした。だが、方法は、君と
向坂が考えたやり方でない事は明らかだ。秋元老人だったかな、人形の間の天
井の高さが変わっていると言ったのは? それがヒントになるんだ。犯人はメ
イドを殺すと、人形の間の天井に吊るしておいた。ただし、横向きにね。そし
て、壁紙か何かを使って、新たに天井を作成したのだ。二重の天井という事だ。
メイドの遺体は本物の天井と壁紙に挟まれ、見えなくなる。秋元夫妻が気付か
なかったのも、無理はない。秋元夫妻が部屋を出ると、犯人は屋根裏から、木
造建築特有の隙間を利して壁紙を外し、遺体を床に落下させたのだ。天井板に
ある節穴をうまく使えば、遺体を吊っているロープ状の物を操るのも、難くは
あるまい。
 三番目は山脇さんだっけ? 崖の向こうに死体が出たというやつだ。これは
水溶紙の橋なんて物じゃない。仮にそんな橋を作って、崖下に落としたとして
も、相当分厚いはずだろうから、簡単には溶けずに発見されると思う。」
 「では、どうやって、崖の向こうに死体をやったんだ?」
 「桐場さんの部屋とされる所には、何があった?」
 「何がって、T字の棒とたくさんの鉄球だ。それが?」
私は思い出しながら答えた。
 「それと長めの丈夫なロープを使えば、崖の向こうに渡るのも可能だ。まず
なるべく向こう岸までの幅が狭い場所を選び、T字棒を備え付け、麻袋か何か
に詰めた鉄球を重石代わりに固定したのだ。T字の先の部分にはロープを結ん
でおき、ターザンよろしく向こう側に飛び移った。以上は、犯人が山脇さんの
目の前でやってみせた事だ。山脇さんはしきりに脱出したがっていたそうだか
ら、犯人に<貴方だけは逃がしてあげよう。こうすれば脱出できますよ。>と
でも言われりゃ、すぐにやったんじゃないか。そうそう、ロープを一度、屋敷
側に戻さなければならないんだった。そのために、あらかじめロープには鉄球
を一つだけ、結び付けておいたと思うね。振子のようになって、戻るはずだ。」
 「そんな事ができるのか!」
私は叫んでいた。これは疑問の意味ではない。感嘆の意である。
 「できるさ。少し実験をして、練習を重ねておけば。それで、犯人に倣って
こちら、つまり崖向こうに移って来た山脇さんを待っていたのは、死への道だ。
犯人は殺したのを確かめると、同じようにして戻った。仮面の件は日中に行っ
たはずだから、わざわざこの装置は使わずに、投げ輪みたいにして投げたんだ。
うまい具合いに仮面が顔に被さったんだろうな。ペタンクの腕が、ここでも生
きてくる訳だ。
 太川さんのはもっと簡単だ。これは、犯人が他の者に罪を擦り付けるための
偽アリバイを作るためのものだったから、真犯人としては、それほど気を使わ
なくてよい。太川さんを毒殺し、椅子に縛り付けるところを見つからなければ
いいんだ。氷は適当に置いておけばいい。溶けない内に見つかってもいいんだ
からね。
 五番目は木沢さんだったな。半密室内での、矢に射ぬかれた死体とは傑作だ。
こんな言い方をするのは悪いが、木沢さんも利己的な、ある意味で許されない
事をしていたんだ。許してもらうか。で、謎解きだが、犯人は犯行当夜、また
T字の仕掛で崖の向こうに渡り、弓矢で木沢さんを狙った。」
 「ちょっと待ってくれ。窓はどうなるんだ。ガラスを通り抜けたとでも言う
のかい。」
私はおかしいと思って質問した。が、地天馬は落ち着いたものだ。
 「ガラスを通り抜けたとはいいな! うん、詩的な謎でさえある。けれど、
残念ながら、この謎はそれほどじゃない。偶然の産物だ。その夜は蒸し暑かっ
たんだったね。」
 「ああ、そうだったな。関係あるの?」
 「あるとも! 蒸し暑ければ、普通は窓を開け網戸をするものだ。犯人はそ
れが狙いだった。網戸越しに狙い撃とうと思っていた。が、途端に雨が降って
きたので、中止にしようかとも考えただろう。しかしその時、木沢さんが目を
覚まし、網戸を開けて雨の勢いを手で確かめてから、雨を避けるため窓を閉め
ようとするのが見えた。これはチャンスだと思った犯人は、すかさず木沢さん
を射ぬいた・・・。網戸は反対側に動かされていたので、弓の跡は遺らなかっ
たんだ。進道とかいう人は、木沢さんが死んでしまったのを知らずに、雨が降
っているのを気に止めて、窓を閉めて鍵をかけただけで、犯罪そのものには関
係ない。君の話を聞くと、彼女は自覚していなかったようだがね。」
 「なるほど・・・。」
私は感心した。雨だったのだ、カギは。それに密室状態の謎も納得が行った。
何故、密室状態にしたのか。偶然、できてしまったに過ぎなかったのだ。
 急に、桐場が地天馬に聞いた。
 「さすがだな。では、秋元さんが毒殺された事件はどうなる?」
 「簡単だ。あんたがどこにいたかを考えればな。」
 「何?  私は屋根裏部屋で監禁されていたんだ。さっき何か言っていたが、
私はメイドに監禁されたんだ。」
 「いい加減にしてほしいな。あんたは屋根裏部屋を動き回って、秋元さんの
頭上を見当付けて天井に隙間を作り、秋元さんの皿に毒を垂らしたんだ。乱歩
の<屋根裏の散歩者>だな。ペタンクの得意なあんたにとったら、狙いをつけ
るのも簡単だったろう。メイド殺しの死体出現といい、屋根裏ほど便利な場所
はない。」
 「そうか! その手があったんだ。」
私は興奮していた。こんなにも見事な別の解釈があるなんて・・・。
 「これと同じ要領で、屋根裏から、犯人とされるかわいそうな女性四人の部
屋に、メイドから着たように見せた<殺しの勧誘状>を落としたんだ。こんな
ことをしたのは、あんたの推理に決め手を与える効果はあったが、逆に容疑を
増したとも言える。もしメイドの勧誘状だとしたら、考えるまでもなく、不自
然だ。四人の女性達が、その手紙をここに持って来る訳がない。
 あんたは、メイドの計画だと思わせるために偽の証拠を置き、自分の犯行の
証拠となる物は全て隠滅したようだが、屋根裏を始末するなんて、無理だろう。
調べてもいいんだぜ、桐場さん!」
 「・・・屋根に節穴があったところで、何の証拠になると言うんだ?」
桐場は開き直ったようだ。もう桐場ではないとは思っていたが、名前が分から
ないのだ。桐場で通そう。
 「まだ抵抗するのかな。あんたも桐場さんの復讐のためにやったんなら、も
っと潔くしたまえ。それにね、僕を招いたもう一つの理由は、犯罪を解いても
らいたいという意識もあったからじゃないのか。君にはメイドと違って、悪に
成り切る事はできなかったようだからね。自分がやっている事は悪だという意
識もあって、名探偵を呼んだ。一つの裁きのつもりだと思う。名探偵でも解け
なければ、自分は赦されたとしよう。解かれたら潔くしよう、と決めていたん
じゃないか。その決心が揺らいだのは、やって来ていたのが替え玉だと知った
からだ。気抜けすると共に、もう自分は赦されたんだと思い込みたくなっても、
無理もない。復讐は聖書さえ認めているし、わずかであるが同情できる部分は
ある。だが、あんたは関係ない人までも、自分が罪を逃れるために殺した。秋
元昭代の立場は微妙なところだが、残る三人の犯人とされた女性達は完全に無
関係だ。その人達の人生に勝手にエンドマークを置いたのだけは、絶対に許せ
ない。」
 「・・・分かった。そこまで分かってもらえたのなら、悔いはない。潔くし
よう。私はあなたの言う通り、桐場さんの親友だった者だ。」
男は仮面を外し、顔を見せた。その顔はまだ素顔ではなく、火傷の跡らしき物
が見えた。
 「!」
 「驚かなくていいのですよ。これはメーキャップです。」
ぺりっと音がして、火傷跡が剥がれた。やつれた素顔が、そこにはあった。
 「随分と悩まれたんでしょうね。顔を見れば分かる。」
地天馬が、哀れみを感じたかのような言い方をした。
 「ふふ。やっと解放された思いですよ。私は映画に凝ったことがありまして。
作る技術の方ですよ。火傷跡を作るのも、メイドに化けるのもそれほど難しく
はなかった。僕は元々女性に化け易い顔かたちですし。」
彼は自嘲的な笑みを浮かべた。そして続けた。
 「桐場に成り切るために、色々と調べていたんだが、どうしても家族構成と
か親戚については詳しいことは分からなかったんです。桐場は忌まわしい火事
の事から数年間を全て忘れ去ろうとしたのか、記録を処分したようですね。例
え、あなたが来なくても、すぐにばれていたと思います。」
 「桐場家は落ちぶれたとはいえ、少しばかりの財産−−殺人の動機の一部と
なるような財産なら取り戻したはずだ。だから火傷跡は、程度にもよるだろう
が、手術をすれば元に戻せていたはず。それをしていなかったのは、桐場さん
にとって当時の忌まわしい記憶は、顔に残った火傷だけで充分だったからだと
思う。だからこそ、記録も処分したんだと思うね。」
 「そうか・・・。」
桐場の身代りは静かに言った。そして、先ほど外した仮面にそっと手を置いた。

−この章終わり−




前のメッセージ 次のメッセージ 
「空中分解2」一覧 永山の作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE