AWC ブリキ怪人 12       永山


        
#516/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  90/ 7/16  20:13  (147)
ブリキ怪人 12       永山
★内容
 仮面をした男は、屋敷で独り、書類を調べていた。
 大量九人の死者を出したあの大事件も、彼の推理・証言によって解決し、マ
スコミ等の騒ぎも収まってきていた。
 「どこにあるのだ・・・。」
捜している書類が見つからないのだ。かなり前から捜しているのだが、未だ見
つからない。
 「何だ? 臭うな。」
不意に仮面の男は感じた。部屋を見上げると、天井に煙が渦巻いている。煙は
開け放しておいたドアから流れ込んで来ているのが分かった。
 「火事か!」
仮面の男は慌てた。反射的に、彼は車椅子から「立ち上がり」、部屋の外に飛
び出した。煙の出所を確かめようと見回し、安全な道を選ぶ。どこをどう進ん
だか分からないが、いつの間にか、彼は庭に出ていた。
 「・・・? 火なんか出ていない・・・。」
仮面の男は不審に思った。その彼の背中から、呼びかけた者がいた。
 「桐場さん! あなたは歩けるのでしたっけ? いや、本名はなんと言うの
か、それから伺いたいね!」
仮面の男はうろたえてしまっていた。

 「桐場さん! あなたは歩けるのでしたっけ? いや、本名はなんと言うの
か、それから伺いたいね!」
 地天馬が叫んだ。さっき、ブリキ屋敷に近付き、開いていた窓から発煙筒を
放り込んだところである。すると、桐場が飛び出して来たのだ。何故、彼は歩
いているのだ?
 「誰だ?」
すぐ外にいる私達に向かって、桐場が叫んだ。地天馬は、その台詞はこちらが
先だ、とでも言いたげだ。
 「お忘れですか。本物の地天馬鋭。あの日に、少しだけだが、顔を合わせた
でしょうが。」
 「ああ・・・。何の用です、今ごろ。それより、あなた達の仕業か、このシ
ョーは。」
煙に巻かれた自分の屋敷を顎で示しながら、桐場は言った。
 「そうですがねえ。こちらの質問にも答えてもらいたい。繰り返そう、あな
たは歩けるのか?」
 「こ、これは・・・。緊急事態に驚いて、無我夢中で逃げてみたら、歩いて
いたんだ。君も聞いているだろう? 私の足は、精神的な障害で動かないだけ
で、機能としては回復しているのだと。」
 「ええ、聞いています。それで、今のショーで火事の思い出が蘇り、足が動
くようになった訳ですかね。ならば、感謝状をもらいたいな。」
地天馬は臆面もなく、こう言った。桐場はずかずかとこちらに寄って来て、大
声で怒鳴った。
 「冗談はよしてくれ! いたずらにしても、ひどい。」
 「いや、僕はあの事件を結末まで仕上げようと、こちらに出向いただけです
が。今の演出も必要なんでね。」
 「な、何の事だ。いまさら、何が結末だって?」
 「どうです? こんな所で立ち話もなんだ。そちらの屋敷に入れてくれませ
んか。」
 「・・・何ももてなすことはできんが、よかろう。話は聞いてやる。」
桐場は地天馬の強引さに立腹しつつも、承知したようだった。

 「ちょっと、煙の量が多すぎたな。」
広間の椅子に座るなり、地天馬が言った。これを聞いて、桐場はまた怒ったよ
うだ。
 「あなたがやった事でしょうが!」
 「そうだったな。では、時間を無駄にしたくないので、すぐにこちらの話を
するかな。聞いてますかね?」
地天馬は相手の仮面を見据えた。やがて反応がないのを見ると、すぐに話し始
めた。
 「これから話す僕の推理は、全て、こちらの話を元に築いたものです。」
彼は私を指さして言った。桐場は、何の反応も見せない。
 「桐場さん、あなたの推理・証言が警察に認められ、この事件は解決しまし
た。しかし、本当に解決したのか。僕は疑っている。まず、おかしいと思った
のは、あなたが犯人だと指摘した四人の女性が、最後に一度に自殺してしまっ
た事だ。いくら追い込まれたと言っても、性格の違う四人の女性が揃って自殺
するとは思えない。これも犯人の仕業だと考えたいのです。」
 「毒を入れたのは、真犯人だと?」
桐場が口を開いた。
 「そうです。やり方は極めて奇術的。ペタンクという遊び、あなたは知って
いるんじゃないかな。」
 「知っている。私は足が不自由で、一人で出来るゲームを漁るように集めた
のだからな。」
何故だか、桐場はびくっとした態度で答えたようだ。
 「そうだろうなあ。それでも一応、説明しておくと、小さな球を投げて、地
面に置いた的に命中させるゲームだ。一人でやらなければいけないことはない
がね。と、話がそれた・・・。そのペタンクの室内版・ミニペタンクと呼べる
ようなゲームがある。それを応用して、あなたは女性がグラスを取ろとした瞬
間、球状にした毒をグラスめがけて指で弾いた。」
 「見てきたような事を……。私を疑っているのですか。」
 「その通り。分かりましたか?」
 「そんな漫画みたいな事、証拠はありますか?」
 「ないですね。でも充分可能でもある。」
 「・・・根拠を聞こう。」
 「僕があんたを犯人だとする根拠ね。それは、僕を招いた事さ。」
 「は?」
私の方があっけにとられた。地天馬は構わずに続ける。
 「桐場さん、あんたの推理が正しいのならば、メイドが犯行の総計画者にな
るはずだ。僕が不審に思ったのは、その計画で、どうして名探偵を呼ぶ必要が
あるのか、という事だ。メイドは金を四人から受け取って、自分だけ逃げるつ
もりだったんだろう?  僕を招待する意味がない。ただ事件の証人として呼ぶ
のであれば、もっと他に適当な人がいるはずだ。名探偵を招待するなんて、か
えって危険が増すだけだ。それならば、僕を招待したのは、メイドではないと
思われる。言い換えると、別に犯人がいて、どうしても探偵が必要だったと考
えるべきなのだ。この事実だけでも、あんたを犯人だとしてもいいんだが、そ
れでは不満でしょうね?」
 「当り前だ。」
 「よろしい。今の時点では、メイドが計画をたて実行した殺人商法のような
犯罪は存在しなかった、とだけ認めてもらいましょう。それはいいですね?」
桐場は答えない。無言の承諾か。
 「お互い見ず知らずの十人が集まって、殺人が起こるとなると、それはもう、
招待主を疑うしかないと思うんですがね。動機を考えると、それが一番、合理
的だ。ここで言う招待主とは、もちろん桐場さんの事だ。あんたは、復讐のた
めに四人を殺し、その罪を隠すために残る四人を殺した。僕達を招待した理由
の一つは、さっきも少し触れたが、犯行全体の証人にするためさ。私・桐場は
犯人ではないという証言をさせるためのね。ま、実際は僕は行けなかったけど
ね。行けていたら、すぐに解決していた。」
 「事件の間、私は足が不自由だったんだ。その上、屋根裏に監禁されていた
のだ。それでも私を犯人だと言うのか。」
 「そうだ。足が不自由というのは、カムフラージュだと思うね。監禁なんて、
手錠によるものだろうが。復讐のための四人を殺した後、自分で手錠をかけた
らいい。夜を選べば、屋根裏に行くのも簡単だ。」
 「事件の時、仮に私が歩けたとして・・・。」
桐場がそう言いかけた途端、地天馬が制した。
 「あんたは歩けるんだ! 最初っから足が動かないというのは嘘なんだ。」
 「それはひどいな。++病院で調べてみろ。ちゃんと記録があるはずだ。桐
場國児は幼少の頃、両足に大怪我をして・・・。」
 「それは桐場國児の、だろう? 僕はね、あんたは桐場ではないと思ってい
る。犯罪を重ねたのはあんただが、あんたが桐場だとしたら動けないから話が
合わない。たとえ肉体的には治っていても、精神的に治っていないんじゃね。
そこで桐場ではないと考えたんだ。多分、何年か前に亡くなったという桐場さ
んの親友だと思うんだがねえ。」
 「彼は転落死したんだ!」
 「その時、現場に居合わせたのは? あんたとメイドさんだけだろう?」
 「そ、そうだ・・・。」
 「もし、転落死したのが桐場さんで、あんたがその時に入れ替わったとした
ら、どうなるかな。あんた自身の意志か、メイドがそそのかしたのかは分から
ないが。」
 「・・・。」
桐場は沈黙した。地天馬は話し続ける。
 「今度の事件から考えると、メイドにそそのかされたのもあるが、生きてい
る内に桐場さんから恨み事を聞かされていたんじゃないかな。太川・山脇・木
沢・秋元の四人に対する恨みをね。その恨みを晴らせずに死んでしまった桐場
さんの事を、親友のあんたは気の毒に思ったんだ。復讐を代わりに果してやろ
う、と誓ったかもしれないな。その代わり、桐場家を乗っ取ると言うか、桐場
の家の恩恵に預かっても罰は当たるまい、と考えたんじゃないの? そうそう、
メイドを殺したのもあんただ。桐場さんに対して不誠実な行為をしたメイドを、
あんたは許せなかったんじゃないかな。
 そうそう、ペタンクは、桐場さんにつき合って、一緒に遊んでいる内に得意
になったのかな。元々得意だったあんたが、桐場さんに教えたとも考えられる
な。」
 「話としては面白い。認める気はないが。」
 「いつまで言ってられるかな。それでは、事件一つ一つに移ろう。まず、桐
場氏消失だが、これは手が込んでいる。自称桐場さん、あんたはこの時、メイ
ドに化けていた。車椅子に座っていたのは、人形だろう。」
 「ええ?」
私は思わず、大声を出した。

−以下13・最終回−




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