#507/3137 空中分解2
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ブリキ怪人 10 永山
★内容
このような場合、どうしたらいいのだろうか。この男が桐場だとしたら、最
有力容疑者である。簡単に助けてしまって、大丈夫であろうか。着ている物は
違うが、仮面の後ろからはみ出ている髪は、初日に見たブリキ怪人のと似てい
る。
男の手錠を外すのは無理のようだから、せめて左右を別々に分ける事にした。
例の斧を使えば、簡単に鎖は切れた。
両手両足が自由になった男を、昭代未亡人に介抱してもらって、何とか無事
だと分かる。この間、私や他の人達は、ただただ呆然とするだけであった。
そして疲れのためか、元から足が効かないのか、動けない男を広間まで運び、
食事をとらせた。初めは我々の口に入る予定の物だったが、そんな事を言って
られない。夢中で食べ物を口に、胃に詰め込む仮面の男。
「そろそろ、いいだろう?」
向坂が男に呼びかけた。男は一通り食べ終え、今は水を何杯か飲み干したとこ
ろだ。
「・・・ようやく、生き返りました。」
男の声は、さっきよりは大きいものの、やはり、小さかった。
「あなた、どなた?」
昭代未亡人が聞いた。仮面の男は、襟をただすような仕草をしてから、ゆっく
りと言った。
「この屋敷の主人、桐場國児です。」
当人以外の、その場にいる者全員が、無言で驚いた。怖ろしがったと言うべき
か。冷静を装いつつ、向坂が聞いた。
「あなたをあの様な目に遭わせたのは、誰です? そ、それにあなたはしゃ
べれなかったのでは? それから、連続殺人の犯人は・・・。」
「一度にそう聞かれても、困ります。順に答えますと、メイドがやった事で
す。メイドは私の自由を奪うと、屋根裏部屋に押し込みました。そして一日分
の食糧とビニール袋を残し、降りて行ったのです。」
「ビニール袋とは何です?」
「それは・・・生理現象ですよ。元に戻りますと、私が特定の人物としか話
せなかったのは、事実です。しかし、生死に関わる極限状態に陥ったせいか、
しゃべれたのです。実際、あの時、声を出せなかったら、もうその元気もなく
なって、私は餓死していた事でしょう。自分でも信じられないくらいです。そ
れで、殺人の話ですが、私は犯人ではありません。私は明り採りの窓から、垣
間見た事実があります。」
「ちょ、ちょっと。整理して話してくれないと、分からないのよ。」
進道が神経質そうな言い方をした。桐場は少し間を持って、また話し始めた。
「全ては、メイドが仕組んだ事でした。彼女は殺人商法を考えたようなので
す。私はそれに、無理やり突き合わされたのです。彼女が私の生死を、車椅子
を押す事によって握っていたのですから。」
殺人商法? 何だそれは、と思わず口に出そうになったが、話のこしを折って
はいけないと、とどまった。
「推測も混じりますが、彼女は、こんな山中にある屋敷を利用して、計画を
立てたのです。私が恨みを持っていそうな人物をピックアップし、その人物に
対し、殺意を持っていそうな者を選び、その者達にけしかけたのです。<機会
を作ってやるから、アイツを殺さないか。犯人は、こちらで用意するから、あ
なたが疑われることはない。>と。そうして、四人の被害者が決まり、四人の
加害者が決まったのです。一人、百万くらいはメイドに払っているはずです。」
「き、桐場さん。あなたが言っているその加害者とは、まさか・・・。」
私はどもりながら、口を挟んだ。
「そう、そこにおられる四人の方ですよ。」
仮面の男は、女性四人を指さした。
「冗談じゃないわ!」
「嘘よ! そんな事、知らないわ。」
「そうです。この人は自分の罪を逃れようと、でたらめを言っています。」
「私が木沢さんをあやめるなんて、そんな恐ろしい事、できる訳ありません
ですわ。」
女性四人は、口口に異議を唱えた。私は訳が分からなくなっていた。
「ちょっと、静かにしてください。さっぱり、納得がいかない。」
向坂が言った。そして桐場の方を見て、言った。
「何か証拠はありますか?」
「さあ。私が彼女の犯行を見ただけでは駄目ですか。」
「彼女とは、メイドですか? それとも、こちらの四人の方の?」
「どちらもです。一部ですが。」
「ふうむ。でも、どちらにしても、あなたの証言だけではね。」
「そうですか・・・。そうだ、ひょっとしたら、そちらの女性の持ち物に、
メイドからの招待状があるかもしれません。」
「当り前よ! 招待状が届いたから、私はここに来たのよ。でなけりゃ、こ
んな所に誰が来るもんですか!」
野岸が激しい剣幕で巻くしたてた。しかし、桐場は落ち着いている。少し、笑
い声さえたてたようだ。
「私が言っているのは、もう一つの招待状です。殺人勧誘の招待状・・・。」
「何よ、それ!」
今度は進道が、大声でわめいた。それでも冷静な桐場。
「皆さん、否定されていますが、私は見たのです。メイドが殺人勧誘の招待
状を書いているのを。」
ますます混乱してきた。どうなっているのだ?
「桐場さん、嘘ではないですね。」
向坂の問いに、桐場はうなずいた。そこで向坂は、今度は女性達に言った。
「疑う訳ではありませんが、あの様なことを言っている人物がいるのです。
調べさせてもらいたいのですが、どうでしょう?」
秋元・白島・進道・野岸の四人は、お互いに顔を見合わせて、結論を出したよ
うだ。
「いいでしょう。ぜひ、調べてください。」
代表して、秋元昭代未亡人が言った。
「では、まず秋元さんの持ち物から・・・。」
全員が立会いのもと、向坂が調べに当たることになった。無論、持ち物だけじ
ゃなく、室内も調べるのだ。下手をすると、プライバシー侵害だ。
持ち物については何もなかった。しかし、部屋を調べるに当たって。
「あれは何ですかね。」
向坂が示したのは、何かの紙切れがあった。手紙のようだ。
「知りませんわ。」
昭代未亡人は、不審そうな顔をしながら、それを拾おうとしたが、向坂が制し
た。
「僕が拾います。いいですね? では・・・。」
しばらく黙っていた向坂だが、すぐに顔色が変わり、声を発した。
「これは、どういう事です?」
手紙を突き出し、昭代未亡人に詰めよる。
「何ですの?・・・」
昭代未亡人はその手紙を覗き込むや否や、悲鳴をあげた。
「知りません!」
「ですが、これはあなたの部屋にあった。」
向坂はこう言いながら、私に手紙を回した。それには明らかに、犯罪を誘惑す
るかのような文句が連ねてあった。その最後には、「ブリキ屋敷のメイドより」
と、不自然な感じで書かれてあった。
「説明をしてもらいたいですな。」
「知りません。誰かが置いたんでしょう!」
「しかし、この部屋はあなたが鍵をかけていた。つまり、誰もこの部屋には
入れない。あなたを除いてね。」
「もしそうでしたら、このように放り出したりなんて、しません。」
「それもひっかけかもしれない。」
向坂が言った。秋元は黙ってしまった。
「他の方のも見ましょうか。」
桐場が言ったので、そうする。すると、他の三人の部屋からも、手紙が出てき
ス。宛名等、人名は変わっていたが、ほぼ文面は同じであった。
「もちろん、否定しますよね。」
私は若い三人の女性にも聞いてみた。返ってきた答えは、当然、
「否定します。私はやっていないもの。」
「・・・どうだろう? 僕だって、そのまま信じた訳じゃない。もし、仮に
だ。あの人達が、それぞれの連れの人を殺すために来たのだとしたら、その方
法を明らかにすべきじゃないだろうか。」
私は向坂と桐場に言ったのだが、真っ先に反応したのは、女性達だった。
「やっていないってのに。」
「そうです。」
等など。それを押さえるように、私が言い加える。
「ですから、仮に、です。それに誰が犯人であろうとも、犯行方法は解明し
なくてはなりませんでしょう?」
これでようやく、納得してもらえた。
「で、桐場さん。あなたが目撃した内、犯行方法を解明するようなのはあり
ますか?」
「ええ。山脇氏が殺された事件で、小柄な犯人が、山脇氏を連れ出し、何か
橋になるような物を崖に渡し、山脇氏を逃がすようなそぶりをしていました。
と思ったら、いきなり何かで殴りつけ、山脇氏を殺したのです。犯人は山脇氏
が死んだのを確かめると、また元来た臨時の橋を渡って、この屋敷に戻ってき
ました。その後、犯人はその橋にした物を崖下に落とすと、屋敷内に入って行
きました。貴方達が捜索しているのも、何度か見かけましたが、崖の底に落ち
た橋の代用品は、溶けてしまったようなのです。水に溶ける紙、水溶紙を何枚
も重ねて作った橋だったのでしょう。」
「なるほど・・・。それならどうして崖向こうに山脇さんの遺体があったの
か、話が通る。その橋は、メイドが用意していたと。」
「恐らく、そうでしょう。」
桐場は自信を持って答えているように見える。
「他には?」
「どんな事件があったのか、知りませんので。庭に遺体が増える度に、誰が
死んだのか、見当をつけていたのです。そうそう、私が消失した件がありまし
た。あれは、私を睡眠薬か何かで眠らせたメイドが、人形に見せかけたのです。」
「それなら、私と太川さんが気付いています。」
向坂は強く言った。
「それはないでしょう。おかしな言い方ですが、消された私が言うのです。
大方、見過ごしたのでしょう。それとも貴方は、絶対に見間違えないと言い切
れますか?」
「それは・・・。」
向坂がやりこめられてしまった。間が悪くなったので、私が質問する。
「その他に、見かけていないので? こちらとしては、木沢さんが殺された
事件も、外が関係していると思っているのですが。」
「いえ、知りません。どんな事件です?」
私と向坂は、なるべく詳しく、木沢殺しを説明した。
「それなら、何も悩むことはないでしょう。私の言うことを信じていただけ
れば、木沢さんを殺したのは、白島さんですよ。彼女なら、部屋をノックして
木沢さんに鍵を開けてもらい、中に入るのも簡単でしょうし、隙を見て矢で射
抜くのも楽でしょう。部屋を出る瞬間に、廊下に隠しておいた弓で撃つ。」
「そうか、鍵は勝手にかかる訳だから、部屋に入れさえすればいいのだ。遺
体は椅子に座った格好をさせておいて、弓は犯行の後、崖の向こうに放り投げ
る。うん、筋は通る。」
「そんな、私はやっていません。」
白島が否定する。
「そう言われても、桐場氏が言った方法くらいしか、あの犯行を可能にする
手はないと思うのですよ、白島さん。」
私は率直に言った。白島は黙った。どうも気まずい雰囲気である。
「秋元さんが犯人なら、夫に毒を与えるのは簡単でしょうしね。何度も言っ
ていますが、これなら話が分かりやすい。」
「じゃあ、私の場合は? 太川さんが殺されたとき、私はみんなと一緒に、
テーブルに着いていたのよ。私には殺せないわ。」
進道が叫んだ。確かに、あの事件では進道だけでなく、私達全員にアリバイが
ある。この謎はどうなるのだ?
「その、太川さんが死んだ事件とは?」
桐場が聞いてきたので、私と向坂は、またも説明をする。
「・・・そういうのがあったのですか。ふーん、メイドが代わって殺したの
ではないでしょうね、彼女は死んだのだから。」
「ご存じでしたか。」
「ええ、遺体が五つになって、変だなとは思ったのですが、論理的に考える
と、彼女しかいない。殺された四人の内の誰かが、先手をうったつもりで殺し
たのでしょうか。」
「まだ分かっていませんが、その可能性は高いでしょう。」
「そうですか・・・。えっと、何の話でしたか。」
「私のアリバイよ!」
進道が叫んだ。
「そうでしたな。えーっと、廊下が水浸しだったと言いましたね。それは何
が原因か、分かっているのですか、地天馬さん?」
「いえ、残念ながら。」
向坂はドギマギしたようだ。
「では、氷を使ったとは考えられませんか。」
「氷?」
向坂だけでなく、私も声を出した。
「そうです。氷をくさび状に砕き、車椅子の車に挟むんです。それが溶ける
と車椅子が動き出し、背もたれに備え付けられていたナイフが刺さる。」
「確かに、氷には異変がありました。でも、それだけで車椅子が動きますか。」
「動きますよ。お忘れですか、この屋敷は傾いているのだという事を。」
−以下11−