AWC ブリキ怪人 11       永山


        
#508/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  90/ 7/ 7   9: 3  (200)
ブリキ怪人 11       永山
★内容
 そうか! 氷が溶けていたのは、「溶けた」んじゃないんだ!  誰かが氷を
使用し、また新たに水を入れた。それが、まだ固まっていなかっただけだった
んだ。それを何に使用したのかというと、今、桐場が言った車椅子のトリック
だ。
 「あの廊下はですね、玄関側から庭側へと、わずかな傾斜を持っているんで
す。氷のくさびで固定した車椅子に太川さんを縛り付けておけば、時間がきて
氷が溶け、滑り出します。そして車椅子の背もたれに当てがわれていたナイフ
が、庭側の壁にぶつかったショックで、太川さんの背中に突き刺さる。」
 「それじゃあ、太川さんが気付くかもしれないわ。それで誰かに助けを求め
れば、誰が犯人だか分かっちゃうじゃないの。氷が溶ける前に、誰かに発見さ
れるかもしれないし。」
進道が反論する。が、桐場は一向に動じる気配がない。
 「その心配はありますね。だから、私は想像します。車椅子に縛り付けられ
た段階で、太川さんは死んでいたのではないかとね。」
 「何ですって? 太川さんは、ナイフが刺さって死んじゃったのよ。」
 「そう思い込ませるための細工です。既に、太川さんは殺されていたんでし
ょう。外見だけでは判断できない、毒殺か何かでね。」
 「そいつは、警察に任せるしかないですな。しかし、あなたの言うやり方で
やれば、可能ではありますね。」
向坂は感心した風に言った。替え玉とは言え、まるで立場が逆だ。
 「これで全てですか?」
桐場が尋ねた。それに、私が答える。
 「そうです。メイドの件以外は。」
 「では、これで私の見た事実並びに推理は終わります。メイドを殺したのは、
死んだ四人の内の誰かでしょうから、これも警察に任せましょう。」
最有力容疑者から一転、名探偵役になった男は、流暢に話し終えた。
 「冗談じゃないわ。私、帰る。」
野岸が言ったが、すぐに、自分の言葉に無理があるのに気付いたようだ。
 「ねえ、私達に犯行が可能なのは認めるけど、まさかこのまま閉じ込めるん
じゃないんでしょう? 確か、今日が最終日よ。迎えが来るのはいつ?」
桐場に詰め寄って、叫ぶように聞く野岸。
 「ああ、その事ですが、あれはメイドの言ったでまかせです。」
 「何を言うの? あれはあんたが・・・。」
 「メイドに脅されていたんで、言うがままにしていました。メイドが言った
ヘリは、来ませんよ。」
 「本当に?」
野岸だけでなく、私達も聞き耳を立てる。
 「本当です。」
 「じゃ、じゃあ。だ、誰かが迎えに来てくれるという事は?」
呆れ口調で、私は聞いた。
 「一ヶ月後くらいに、食糧を届ける人が来ると思います。」
 「それまで、ここで缶詰ですか? 無茶苦茶ですわ。」
白島も呆れ口調。落ち着いているのは、桐場だけだ。その桐場が微かな笑い声
をたて、言った。
 「暮らせないことはないと思いますが、殺人犯が一緒では、私も困ります。」
 「知らないわよ。何度も言うわ。私はやっていないんだから。」
進道や野岸が強い調子で否定する。
 「それは後回しです。とにかく、ここから脱出しないと。」
向坂が言った。しかし、どうやって?
 「君、もういいんじゃないか。」
彼は私を肘でつついた。そうか、言わんとする事は分かるぞ。でも、ばらす必
要はないだろう。私は少し考えて、言葉を発した。
 「そうですな。他の人達も、どなたかに、ここに滞在することは告げている
でしょうが、それにしても誰かが来てくれるのは、明日以降になるでしょう。
実は私の友人が、今日、ここに来るはずなんです。彼に助けを求めれば、少し
でも早く帰れます。」
 「本当に!」
若い女性達が、大声で聞いてきた。嘘だったら許さん、という感じでコワイ。
 「本当です。それまで、自分の部屋でおとなしくしておきましょう。」
やっと、場の収拾が着いたと思えた。誰が犯人かは、また分からなくなってき
た。桐場だと思っていたのが、彼は監禁されていて、犯行不可能となった。で
は、桐場の言う事を鵜呑みにするのかと言えば、そう簡単には信じられない。
ともかく、全員が部屋に戻った。私も向坂と一緒に戻ろうとしたが、その時、
桐場に呼び止められた。
 「何ですか?」
 「私の事を信じていただけました?」
 「まだ、断定はできないですが、説得力はありましたね。」
私は率直に言った。これが真相であれば、桐場は地天馬にも劣らぬ名探偵であ
る。好運な目撃があったにしてもだ。
 「ところでお願いなんですが、手錠を外したいんですよ。」
 「切れないですからね、それは。」
 「いえ、鍵があるんです。メイドの服のポケットにあるはずです。取って来
ていただけませんか。」
 「いいですよ。」
向坂が承知して、外に駆けて行った。それを見てから、桐場はさらに私に言っ
た。
 「貴方にもお願いしたいのです。車椅子、汚れたままで構いませんから、持
って来てくださいませんか。」
 「あ、太川さんの事件で使われたあれね。分かりました。」
私は人形の間に向かった。あれから人形の間に仕舞っておいたのだ。
 私が車椅子に座らせ、向坂が鍵で手錠を開けてやると、桐場は大げさに感謝
した。何かくすぐったい感じがした。それよりも、桐場の手首には赤を通り越
して、青黒くなった傷跡が残っていたのが印象的だった。

 「どう思うね、彼の事。」
私は向坂に聞いた。今、我々はあてがわれた部屋に二人だけだ。
 「彼って桐場? そうだな、監禁されていたのは事実のようだから、信用し
てもいいんじゃないか。」
 「そうかな。何か怪しい部分が残っているぜ。」
 「どこが?」
 「なんて言うかなあ。勘だよ。」
こう言うと、向坂は大声で笑った。そんなにおかしいだろうか。私は経験から
言っているのだ。地天馬との経験から。

 「これで最後の食事にしたいわ。」
白島が言った。誰もがそう思っているだろう。最後は女性全員で食事の準備を
したようだ。
 「酷い目にあわせた事になるのかどうかは、分かりませんが、最後くらい、
もてなさせてください。この屋敷の主人としての、それが務めです。」
こう、桐場氏が申し出たので、我々招待客としも受け入れることにした。
 「さあ、どれでも好きなグラスを取ってください。」
桐場が用意した盆には、七つのグラスが乗っていた。同じ大きさ・形の七つの
グラスには、並々とカクテルが注がれている。盆はテーブルの中央に置かれた。
 「じゃあ、私から・・・。」
秋元が最初に選んだ。その後順に私・向坂・白島・野岸・進道、そして桐場と
選んで行った。
 「皆さん、お手元にグラスがありますね。音頭を取らせて頂きます。私は足
が不自由なので、座ったままで結構ですから、どうぞそのままで。では、事件
がきれいに解決することを願って、乾杯!」
桐場が言ったが、誰もすぐには飲もうとしなかった。真っ先に飲んだのは、桐
場で、仮面の隙間から流し込んで行く。
 「どうしたんです?」
桐場が言ったので、私達も口をつける。
 「うん、おいしいですな。」
 「香りもいい。」
私と向坂は、口裏を合わせた訳でもないのに、一様にカクテルを誉めた。
 「苦、苦しい・・・。」
突然、秋元昭代未亡人が苦しみ出した。と思う間もなく、今度は白島、野岸、
進道が・・・。誰もがのどをかきむしっている。グラスは床に落ち、砕け散っ
てしまった。
 「ど、どうしたんです?」
私と向坂で駆け寄ったが、手の施しようがない。
 「桐場さん、どうなっているんです、これは!」
 「わ、私にも分かりません。私は何もしていません。」
桐場が初めてうろたえた様子を見せた。が、それは何の解決にもならない。
 「だめだ、死んだ。」
向坂が吐き捨てた。四人の女性の顔に表れた色を見ると、どうやら毒だ。また
も青酸カリだ。
 「桐場さん、本当にあんたじゃないんだな?」
厳しく詰め寄ってみたが、相手は本当に知らない風だ。
 「私は調理場にお邪魔させてもらって、あった酒を使って作っただけです。」
 「そうですか。そうだ、だいいち、グラスは自由に選んだんだったな。私や
向坂が何ともないんだから、あなたが毒を入れれる訳がない。」
 「向坂? 誰です、それ?」
桐場は仮面の下で、奇妙だなという顔をしていたに違いない。私は自分の失言
に、遅ればせながら気付いた。
 「ばれてしまっては仕方がない。実は、彼は向坂と言いまして、かの名探偵
・地天馬鋭ではないのです。地天馬はどうしても外せない用があり、あなたの、
いえ、あなたのメイドの招待を受けられなかったのです。それで替え玉をたて
たのです。」
私が向坂を指さしながら説明すると、桐場は笑い出した。
 「そうでしたか。いや、ハハハ。それであの人達は犯行を行えたんですな。」
 「あの人達って。」
向坂は頭を掻くのをやめ、聞き返した。
 「あの四人の女性です。これは自殺でしょう。もう逃げ切れないと覚悟を決
め、自殺したんですよ。毒を用意していたとは、周到ですな。」
 「そうか・・・。」
私は呟いた。だが、まだ納得したのではなかった。
 「で、これから来るかもしれない人ってのは、地天馬探偵の事ですね?」
 「そうです。」
 「それはいい。彼にも証人になってもらいましょう。いやしかし、こんなに
おかしいことは、久しくなかった。本当に。歩けない私にとって、楽しみとい
えば一人で出来るゲームくらいでしたからな。あ、これは言いすぎた。ハハハ
ハハハ・・・。」
桐場は愉快そうに笑った。それが収まるのを待って、私は聞いてみた。
 「彼が来るまで、まだ時間があると思うので、一つ、お伺いしたいのですが
……。」
 「何です?」
 「あなたの部屋にあった大きなT字型の棒や、たくさんの鉄球は、何に使っ
たのですか?」
 「ああ、あれですか。T字の棒は、この屋敷の修繕の時に余った物を、なん
となく飾りとして置いていただけです。」
 「なるほど。それで太川は、T字型の棒を奇妙な物としては認識しなかった
のかな。じゃあ、鉄球は。」
 「鉄球は砲丸投げの物でね。腕力をつけるのに使っていたんですよ。実は私
の友人がくれた物でして、わざわざ鉄アレイを買う気にはなれませんでした。」
 「その友人とは、あなたと旅行中に、不慮の死を遂げた方のことで……?」
 「そうです。」
桐場は昔の事を思い出し、やがて懐かしむように、噛みしめるように答えた。

 「おーい!」
何時間経ったのだろう。不意に、外から聞こえてきた声は、地天馬の声らしか
った。私は何だか、涙が出そうになった。こんな事が起こると分かっていれば、
引きずってでも地天馬を連れて来たのに。
 ともかく、私と向坂は外に出た。思い切り叫ぶ。
 「来てくれたか!」
 「君か。何があったんだ? そちらにはどうやって行くんだ?」
 「話は後だ。とにかく、助けを呼んで来てくれ。」
私達が叫ぶと、地天馬は、一瞬不満そうな顔をしたが、事の重大さを察知した
のか、さっさと元の道を戻って行った。まさか、帰ってしまうこともあるまい。
 やがて、地天馬が呼んだ救援が来た。当然、事件は世に知れ、警察の介入と
なった。警察の捜査結果で重要だと思えるのは、以下に記そう。
 ・死亡推定時刻はどの殺人についても、私が屋敷に滞在中に限定された。
 ・見つかった凶器及び仮面のどれにも、指紋は残っていなかった。
 ・太川はナイフが刺さる前に、青酸カリで毒殺されていた。
 ・木沢が殺された部屋の窓には、木沢と進道の指紋しか残っていなかった。
 ・招待状はワープロで書かれており、犯人限定の決め手とはならない。
 ・T字型の棒や鉄球には、桐場以外の誰の指紋も残っていなかった。ただ、
 それらに着いていた土から、最近、使われたのは間違いなかったが、それに
 ついては桐場も知らないと言っている。
 ・太川陽太郎について、私は<三十代そこそこ>と描写しているが、あれは
 大きな誤りであった。太川の若作りにだまされた訳だが、実は彼は40才代
 であった。桐場邸の改修ツ狄ソけ負った時、かなりの若さだったはずだ。

 この後、私は地天馬に事件のいきさつを話した。それを彼は子細に検討し、
ある結論に達したという。その結論とは、事件を肌で体験した私にとっては、
ひどく意外なものであったが、「読者への挑戦」をするには、当り前に過ぎる
級ハとも言えるので、今回は挑戦状はしまっておくことにする。

−以下12−




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