#487/3137 空中分解2
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ブリキ怪人 9 永山
★内容
「分かった、あれだ! ほら、秋元さんは割箸を使っていた。箸を使ってい
るのは秋元さんだけだから、毒を塗っておくのは簡単だ。」
私は叫んだ。いい着眼点だと、自分でも感心した。
「そうだわ。お箸に塗っておけば、いつかは秋元さんの口に入るでしょうか
ら。犯人は、その事を見越していたんですね。」
白島が言った。他の人も、一様に感心してくれていた。が、向坂が異議を申し
立てたのだ。
「待った。昨日の昼だったかな、僕達も割箸を使ったぜ。その時の箸にその
毒入りが回っていれば、誰が死んだか分からないんだ。」
「そういえば・・・。私達、その事をすっかり忘れていました。」
昭代未亡人が、手で口を押さえながら言った。私はガックリときた。
「そんな大事なことは、最初に言ってくださいよ。今、聞いときますが、他
に何かありませんか?」
「そうですわねえ・・・。関係あるかどうか分かりませんけど、冷蔵庫の氷
が一端、解けていました。」
「どういう事です?」
「その、つまり、製氷皿の氷が、最初の日に見た時は固まっていたのに、二
日目の昼前には解けていたのです。」
「・・・まだちょっと、その事実がどう関係してくるのかは、分かりません
ねえ。」
「じゃあ、どうやって、桐場は毒を入れたか分からないのか?」
「どうも、不可解な謎が多すぎるなあ。犯人は一つの凶行につき、必ず一つ
の謎を盛り込んでくれている。これも、桐場からの挑戦と見るべきなんだろう
かね。」
向坂は私の疑問をはぐらかしてくれた。それも無理ないと思えるほど、今度の
事件は謎が多い。消失だの、出現だの、移動だの、密室状況だの、毒の混入方
法だの・・・。唯一、目安がついたかなと言えるのは、メイド殺しにおける、
死体の突然の出現だが、代わりに、この事件では犯人が不明だ。桐場が殺す訳
はないので、刑を宣告された四人が容疑者だったのだが、それも全員が死んで
しまい、話を聞けなくなってしまった。
「もう一度、邸内外の捜索をしたいのですが、いかがでしょう。」
向坂が申し出た。幸い、その場にいる者は皆、賛成してくれた。
「桐場消失と、メイドの遺体の出現は、考慮しないでいいとしよう。片方は
桐場自身を捕まえればいいことだし、もう一方も、一応は解決している。」
向坂が言った。どちらも不完全なままだが、まあ、仕方ない。
「では、どこを調べる?」
「うん、やっぱり外が重要だと思う。山脇氏の遺体が、崖の向こうに移動し
た謎や、木沢さんの場合の矢が飛んで来た方向を探る上でもね。」
外に出る前に庭に回った。庭には、遺体が四つ列べてある。メイドと太川・
木沢・秋元の四人のだ。山脇の遺体は、あれ以来、放置されたままで酷いもの
だ。仮面を被せてあって、その表情は見えないからいいものの・・・。ん?
仮面? そうだ!
「おい、向・・・。と、誰かに聞かれるとまずいな。地天馬、木沢さんと秋
元老人の遺体には、仮面がなかったよな。」
「あ、ああ。それが?」
「そこに列べた遺体に、仮面が被せられているのでは、と思ったんだが。」
「・・・有り得るな。調べてみるか。」
私と向坂は毛布の掛けられている遺体の所に駆け寄って、調べてみた。そして
恐ろしいことに、仮面が被せられていたのだ。遺体全部に仮面が添えられた事
になる。どういうつもりなのか。
「桐場も相当、趣味が悪いね。」
向坂が吐き捨てた。
さて、まず、私達がした事は、木沢殺しの凶器捜しである。矢は残っている
が、弓はない。それを見つける必要がある。庭に足跡はなかったが、窓から撃
たれた可能性も強いので、全員で捜すのだ。だが・・・。
驕@「ないなあ。これだけ捜してないとは、崖の下かな。」
「でも、私、崖の方も見たけれど、そんな物はなかったわ。」
向坂に対し、野岸が答えた。
「では、どこが?」
「・・・崖だ。崖の下じゃなくて、崖の向こう側を見よう。」
私は直感的に言った。そして見事、的中したのだ。弓らしき物が地面に横たわ
っていた場所は、木沢が殺された部屋の窓からちょうど見える位置であった。
「凄いですわ!」
白島がやたらと感激した面もちで、こう言った。まあ、地天馬と一緒に動いて
いたせいか、割に犯罪に対する思考が働くようにはなっている。私はそう、自
認している。
「あそこから、犯人は木沢さんを撃ったんでしょうか?」
コ代未亡人が聞いてきた。答えるのは、向坂。
「・・・何とも言えないなあ。庭に足跡がないから、あそこから撃ったと推
測できるが、あの場所から撃つとなると、どうやって犯人は崖の向こうに行け
たのか、分からない。庭から撃ったと考えると、弓は放り投げた事になるので
しょうが、足跡がねえ。仮に、雨の降る前だとしても、木沢さんに気付かれた
かもしれないし。」
「結局、分からないのね。」
進道がはっきりと言ってくれた。慌てて弁解する向坂。
「いえ、決して分からないのではなく、軽々しく断を下すのを避けたいだけ
なんですよ。」
「それって、分からないとは言わないのかしら。」
進道も退かない。まずい、と私は思ったが、うまい具合いに昭代未亡人が割っ
て入ってくれた。
「まあまあ。今、もめていても、何の得にもなりませんわよ。早く、次の捜
索に移るのがいいかと思います。」
言い終えた彼女は、私と向坂の方に向き直った。全面的に信頼されているよう
だ。
「そうですね。やはり、桐場の部屋でしょうか。あそこはどうも怪しいので
す。」
向坂の一言で、桐場の部屋の再捜索が決まった。だが、その部屋には何の変化
も見られなかった。T字の棒に、たくさんの鉄球。それ以外、見るべき点はな
い。勝手口も、使われた様子はなかった。と言うか、この場所は雨が降り掛か
りにくいので、足跡等もはっきりしないのだ。
「うまく行かないものだ。もう、打ち切りましょう。これ以上、皆さんのお
手を煩わせる訳にはいかない。そもそも、最初に予告された四人の方は、殺さ
れてしまい、残っている我々は、何の危険もないはずです。もう、無理にこち
らから犯罪に首を突っ込まなくとも、あと一日待てば、迎えが来るのです。」
向坂がとんでもないことを口にした。これは探偵の言葉ではない。名探偵がこ
んな事言うものか! それにだ、殺された四人と我々は無関係だ、と受け取れ
る主旨を言うなんて、無茶だ。ここにいる四人は、その殺された人達に最も近
い人物のはずだ。全く、なんて無神経な。これなら、元・マスコミ関係の奴な
んか、連れて来るべきではなかった。
「・・・。」
見てみろ、四人の女性は帰って行く。私と向坂は、ポツンと取り残された形と
なった。
「あ、あの。・・・やっぱり、言い過ぎたか?」
向坂が言った。分かっていて、これだもの。私は心から、後悔したのだった。
その後、私達は食事は与えてもらったものの、口はほとんど聞いてもらえな
かった。わずかに、昭代未亡人と白島が別々に、それも私にだけ声を掛けてく
れたのだが、その言葉はどちらも同じであった。
「あの方、本当に、名探偵と呼ばれている方なんですか?」
私は答えられなかった。口が悪い、で澄まされる問題ではないと思えたのだ。
「では、僕が悪いと言うのか。」
向坂が言った。開き直りとも取れる態度だ。
「別に悪いとかどうとかじゃなくて、替え玉なら替え玉らしく、その責任を
自覚してだな・・・。」
「俺はちゃんとやっている。」
「俺」ときたか。こうなると、私も負けられない。
「そりゃ、おまえの目では、地天馬はそう見えるのかもしれんが、本物とは
だいぶ、ギャップがあるんだ。単に口が悪いんじゃないぜ、あいつは。いつも
記述者としてひっついている僕が言うんだ、間違いない。」
「今は離れているじゃないか。いつもひっついている、とは言えない。」
まるでガキの口げんかだ。だが、確かに地天馬には不明な点も多くある。高校
時代から知り合っている私が言うんだ、間違いない。ん?
この後、どう口論したのか、忘れた。それほどくだらないものだった。どう
ケリをつけたかさえ憶えていないが、多分、疲れたからやめたんだろう。そう
して、眠りについた。
・・・考えてみると、ここに来てからの二晩とも、殺人が起きているが、も
う死人が出る心配はしなくてもいいのだろうか・・・。
「三泊四日の殺人旅行も、やっと終わりか。」
私は目を覚ますなり、そんな事を言いたくなった。まさしく、とんでもない殺
人旅行と言えると思う。隣を見ると、既に向坂の姿はなかった。まさか殺され
たのでは、と考えたが、それは一瞬だけだった。すぐに彼は姿を現した。
「お、起きたのか。いや、昨日はすまなかった。俺・・・いや、自分も調子
に乗りすぎていた。誰もが自分の指示を待っていると思うと、何だか偉くなっ
たみたいな、いい気分がしてさ。柄でもないのに、本気で名探偵を気取っちま
って・・・。いや、本当に悪かった。あの四人は、俺のせいで殺されたとも言
えるんだ。もう、悪のりはしない。できれば、正体を明かそうと思うんだが、
どうだろう。」
随分と殊勝な調子で、彼は言った。
「分かってくれたらいいんだ。それより、正体を明かすか・・・。やっぱり、
桐場を見つけてからの方がいいんじゃないか。」
「それもそうかな。」
結局は、はっきりと意志を決めぬまま、朝食の席に着いた。
いきなり、向坂は平謝りに徹した。ここまでやる事はないと思ったのだが、
止める間がなかった。向坂とはこれからもつき合っていくので、彼の名誉のた
めに、その様子は記さない。ただ、他の人の許しはもらえた。
「・・・さあ、もういいですから、早く、朝を片付けてくださいな。」
昭代未亡人が言った。この人が言うと、なんとなく、場の雰囲気がいい方向に
向かう気がする。
と、私が思ったその時、天井からかすれ声が聞こえてきた。
「・・・スケ・・・ダレカ・・・助けテクレエ・・・。」
何とも言えない、うす気味の悪い声だった。だが、その内容は、確実に助けを
求めていた。
「何なのでしょう。」
白島が気味悪そうに、立ち上がって言った。
「今一度、私に権限を与えてくれるのでしたら、調べて来ますが。」
向坂が言うと、四人の女性はそれぞれにうなずいた。
「どうもすみません。」
そして私と向坂は、天井へ通じる路を捜しに、広間を出た。
「そうか、何かを忘れていたと思ったら・・・。」
向坂が走りながら、呟いた。その後を私が受け継ぐ。
「天井を調べるのを忘れていたんだ。太川が言い出していたんだが、彼、死
んでしまったから、すっかり失念していたんだ。」
しばらく走り回って捜した結果、天井へ通じる梯子が、風呂の裏手にあるの
が分かった。見た目が汚れていたので、敬遠していたのだ。
「よし、行くぞ。」
向坂が先になって、私達は梯子を登る。天井と言うか、屋根裏に出るには、扉
を開ける必要があった。その扉も簡単に開いた。
「誰かいるのか?」
私と向坂は、暗闇に向かって叫んだ。暗闇と言っても、真の闇ではない。明り
採りの窓のような物があり、少しだけだが、そこから光が差し込んで来ている。
「・・・スケ・・・ダレカ・・・助けテクレエ・・・。」
同じ声だ。さっきよりは大きいその声の方向へ、目を凝らす。すると、誰かが
動めいていた。どうやら、監禁されているらしい。
「懐中電灯があればな。まあいい。」
そう呟いて、私達は手探りのまま、足を踏み入れた。そろそろと目的の影に近
付く。そして手を掛けた。その人物は男で、手足に手錠をされていた。
「大丈夫か? いったい、誰がこんな事を。」
「メイド・・・。」
「え?」
「メイド、が、やった・・・。」
それだけ言うのも辛いのか、男はがっくりとうなだれてしまった。気をしっか
り持たせようと、私は男の肩を持ち、身体を起こした。男の顔が見えた。
「う、うわっ!」
思わず、叫んでしまった。手錠を外そうと悪戦苦闘していた向坂が聞いてくる。
「どうした?」
「見、見ろ・・・。こいつの顔を・・・。」
「何だって? どれ・・・。ギャッ!」
向坂も悲鳴をあげた。
驚いてばかりもいられない。男に質問しようにも、相手は疲労がたまってい
る上に、ろくに食事もしていないようだ。手錠は外せなかったが、とにもかく
ノも、この屋根裏を抜け出そう。私と向坂は、男を担いで、ゆっくりと梯子を
降りた。
明るい場所に出てみると、自分の身体はほこりだらけになっていた。が、そ
れよりも、男の顔を再度、確認した。これはどういう・・・。向坂が
「何か食べさせるかしないと、話にならないな。」
と言いながら指さした男の顔には、ブリキの仮面があった・・・。
−以下10−