AWC ブリキ怪人 8       永山


        
#486/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  90/ 6/30   8:59  (200)
ブリキ怪人 8       永山
★内容
 「木沢さんが死んだ。」
その事実を告げると、人は皆、驚いた顔つきをした。二人一組になっていたの
に、どうやって、という疑問がある。
 「それで進道さんは?」
秋元昭代が言った。そう、それが最大の問題だ。
 「それが部屋にいなくて・・・。今朝になって、どなたか進道さんを目撃し
た人は?」
向坂が全員に聞いたが、誰も見かけた者はいなかった。
 「では、捜しましょう。と、その前に、今度は白島さんが倒れてしまったの
で、どなたか看てやってくれませんか。」
 「私が看ます。」
野岸が言った。そうしてくれるのがありがたい。
 昭代は朝食の準備が残っていたので、外した。結局、私と向坂、それに秋元
老の男三人による捜索となった。
 「屋敷内では見かけられていないんだ。とりあえず、外回りから行きましょ
う。」
 「それが妥当だろうな。」
という訳で、外に出てみたのだが、進道の姿はなかった。最悪の場合を想定し、
崖の底も覗いたのだが、見つからなかった。
 「まさか、彼女が犯人で、逃亡したなんて事は・・・。」
私が疑惑を口にしたが、秋元老人が否定をした。
 「いや、それでは例の太川殺しの件が、話に合わない。動機がないばかりで
なく、アリバイの問題があるのですぞ。やはり、犯人は桐場で、進道嬢は拉致
されたのではないか。」
 「ふーん。一応、次は屋敷内を捜しますか。」
屋敷内も捜すのだが、どこにもいなかった。洗面所・バス・トイレ、果ては人
形の間や桐場の部屋まで見てみたのだが、やはり見あたらなかった。
 「どこにもいないぜ。」
 「・・・そうだ、あの空室が残っていたぞ。」
 「それは盲点じゃった。」
三人の意見が一致したところで、その空き部屋に行ってみた。不可解なことに、
鍵がかかっていた。確か、施錠せずにおいたはずだが。
 「おい、誰か中にいるんだろ! 開けろ!」
男三人して声を張り上げ、部屋のドアをめちゃくちゃに叩き続けた。すると・
・・。
 「うるさいわねえ。もう少し、眠らせてよ。」
という声と共に、ドアが開いた。ガウンを羽織った進道だった。
 「進道さん! どうしてこの部屋に?」
向坂がくってかかるように聞いた。が、相手は、何が何だか分からないという
表情だ。
 「な、何の事よ。私の部屋はここでしょ。」
 「は? あなたはこの隣の部屋で、横になって休んでいたんです。」
私が言い聞かせるように、説明した。それでも、進道は納得していない。と、
その時、秋元昭代が来た。
 「見つかったんですね? ああよかった。朝食の用意ができていますから・
・・。」

 朝食後、私達はみんなして、進道から事情を聞いた。その前に彼女に、あな
たは太川さんの死に直面し、冷静さを失ってしまっていたので、木沢さんや秋
元昭代さんが付き添って、端の部屋にいた事を説明した。
 「・・・覚えがないけど、そうなの。でも、私、全然気付かなかったのよ。
あれ、昨日の夜だったのかしら? 何時だか分からないけど、暗かったから真
夜中だったと思うわ。目が覚めて、部屋を出たわ。ええ、鍵がかかっていたか
ら、それを外して。」
説明しておくと、ここの屋敷内の部屋には、全て鍵が付いている。その仕組み
は、ドアを閉めれば自然に鍵がかかるタイプで、内側からはノブを回すだけで、
開錠される。外側からは鍵があれば開錠できる。鍵は屋敷に到着した折り、あ
のメイドから手渡されている。
 「どこかに行くつもりだったのですか?」
私が質問した。
 「あの、のどが渇いたから、調理場の方に行って、お水をもらったのよ。そ
れだけよ。それだけしてから、自分の部屋に戻り、私はちゃんと自分の部屋に
戻ったのよ。」
言い終わった進道に、向坂が聞いた。
 「それは、初めに割り当てられた部屋の事ですか。」
 「・・・そうよ。」
 「目が覚めて部屋を出るときは、へんに思いませんでしたか? 部屋が違っ
ていたんだから。」
 「頭がぼーっとしていたから、全然、気が付かなかったわ。ただ、何か飲み
たいと思って。」
 「そうですか。」
進道の話におかしな点はなかった。木沢に気付かないでいたのも、彼女の精神
状態を考えれば、理解できなくもない。
 「こうなると、もちろん、木沢さんを殺したのも、桐場になるのう。」
秋元老人が言うと、進道がびっくりした態度になった。
 「木沢さん、死んじゃったの?」
 「・・・そう、あの端の部屋でね。胸を矢で射ぬかれて。」
 「・・・私、知らないわ。知らないわよ!」
進道は狂ったように何度も同じ事を言った。それをなだめる向坂。
 「誰もそんな、疑ってなんかいませんよ。あなたは事実をそのまま話された
んでしょう? それなら何も、ムキになって否定せずとも、いいのです。」
さらに秋元昭代にもなだめられ、進道はやっと平常心を取り戻したようだった。

 「さて、犯人は桐場だという事は間違いないとしても、今度の殺人も調べて
みる必要はあります。」
向坂が見栄を切った。聞き手は私と秋元老人。先ほど、木沢が殺された現場周
辺を調べてきたところである。
 「今度の事件で不可解なのは、どこにも隙間のない部屋の中で、木沢さんが
矢で刺されて死んでいた。にもかかわらず、室内には凶器らしき物はなく、逆
に部屋の鍵が置いてあった。この状況が意味するのは。」
 「密室での犯罪。だが、自殺では有り得ない。殺人としても、意味がない。」
 「意味がないとは、どういう意味ですかな。」
私の言葉に対して、秋元老人が聞いてきた。
 「何のために密室にしたのか、その理由が明確でない、という意味ですよ。
密室ならば、普通は自殺に見せかける必要があるのです。しかし、今度の事件
の場合、自殺では有り得ない。室内に凶器の弓が残っていないのですからね。
しかし殺人だとしても、犯人が密室にしなければならない必然性が、はっきり
しないんです。」
 「なるほど。だが、自殺の可能性はまだあるじゃろ。矢だけを手に持ち、自
分の胸に突き刺した・・・。」
 「いえ、それはないでしょう。女の人の手であれほど深々と、胸から背中へ
とかけて、突き刺せるものではありません。」
 「そうであったな。」
秋元老は黙ってしまった。代わって、今度は、私と向坂の問答になる。向坂が
言う。
 「納得の行く状況として考えられるのは、あの部屋のドアを犯人が開け、木
沢さんに矢を放った、という事だが・・・。」
 「鍵がね、問題があるなあ。こんな古めかしい屋敷には不釣合いなほど最新
の、電子ロックだろ、部屋の鍵は。」
 「そうなんだなー。電子ロックは合鍵が作れないそうだから。桐場が合鍵で
ドアを開け、殺すなんて、できないんだ。」
向坂はため息をつく。あまり名探偵が、悩んでいる姿を見せないで欲しい。
 「木沢さんが鍵をかけていなかったとは、考えられんかの。」
秋元老人が、話の輪に復帰してきた。
 「ないと思いますがね。やっぱり、殺されるのは嫌でしょうから。」
 「遺体の状態は、椅子に座ったままの姿勢で、窓の方を向いとった。となれ
ばじゃ、窓から矢が飛んで来た可能性も検討する価値はあろう。」
 「秋元さんの言うことももっともだ。ですが、窓には鍵がかかっていた。」
そう、窓にも鍵がかかっていたのだ。鍵の種類は、よくある三日月錠。半円型
の金具を回転させる、あれだ。
 「そうではあるが、矢は窓から飛んで来たと考えるのが、自然だぞ、あの格
好では。」
秋元老人も粘る。が、向坂も一歩も退かない。
 「しかしですね、窓の下の土には、足跡が残っていなかったんですよ、僕達
が駆けつけたときには。昨夜は雨が降って、地面は湿っていたから、確実に足
跡は残るはずだ。」
 「雨が降る前に、犯人が矢を放ったかもしれんて。」
 「例えそうだとしても、窓には鍵が・・・。」
どうも平行線をたどりそうだ。私は話題を変えようと試みた。
 「・・・思うんだが、進道さんが部屋を出たのと、木沢さんが殺された時刻
はどちらが早かったんだろうな。」
 「そうか、それがあったな。うーん。進道さんが部屋にいない方が、殺すの
は殺し易いだろうけど・・・。」
 「あの娘の様子じゃ、断言はできん。気付かないでいたのかもしれん。」
秋元老人は、やけに熱心に言う。自分が狙われているのも忘れて。いや、狙わ
れているからこそ、こうまで熱心でいられるのだろうか。
 「・・・何か忘れているような気がするな。」
向坂が唐突にもらした。
 「何を?」
 「それが分からないんだ。何だか、重要なことを見逃している。」
その疑問が解けない内に、昼食となった。

 「また洋食に戻りましたな。」
秋元老人が、不満そうに言った。
 テーブルに着いているのは、七人。白島も回復したらしく、席に着いている。
が、その表情は青ざめているように見える。それにしても、元は十二人がいた
のだから、半分近くに減ったことになる。随分と寂しい感じだ。
 「ナイフとフォークは好かん。箸と取り替えてくれ。」
秋元老人が、自分の妻に命じた。昼のおかずはトンカツだから、初めに細かく
切っておけば、箸でも食べられないことはないだろうが・・・。
 「はい、あなた。」
秋元昭代は割箸を手渡すと、夫の皿の肉をナイフで切り始めた。
 「地天馬さん・・・。」
向坂と私が、肉切れを口にいれようとすると、白島が声をかけてきた。
 「何でしょうか?」
 「木沢さんをあやめた犯人は、分かりましたの?」
どうも混乱しているようだ。犯人は、桐場に間違いない。彼女にも分かってい
るはずだ。
 「犯人は、桐場だと思いますよ。」
 「ああ、そうでしたわ。」
 「ただ、どうやったのかとなると、まだ分かっていませんが。あの部屋は密
室状態だったのですからね。」
向坂が言ったが、白島は何も言わなかった。推理小説好きのお嬢さんも、さす
がにショックなのだな。私はそう思っていた。
 と、突然、
 「うううう・・・。」
とうめき声をあげ、秋元老人が苦しみだした。どうしたのだ?
 「あなた、しっかりしてください。指をのどの奥へ・・・。」
隣の夫人がしきりと吐かせようとしているが、それも空しく、老人の苦しみ様
は変わらない。その内、バタンと椅子から転がり落ち、床の上で小刻みに震え
ていたかと思うと、急にその動きも止まった。
 「・・・。」
秋元昭代も、声をなくしている。
 秋元康助も死んだ。

 「どうなっているのでしょう?」
意外と元気な声で昭代夫人、いや今となっては昭代未亡人が聞いてきたので、
ある意味でほっとさせられた。こういう年配の、落ち着いた女性が平静でいて
くれるのとそうでないのとでは、えらく雰囲気が違ってくる。
 「毒、恐らく青酸カリだと思いますが・・・。」
向坂が言った。私も青酸カリで死んだ人間を目の当たりにした事があるので、
老人の死因は青酸カリだと言える。
 「何に毒があったのでしょうか?」
白島が言った。
 「常識的に考えますと、昼食のおかずのいずれかに、となりますが、作った
のは昭代さんですし・・・。」
私は考え考えに言う。向坂がそれに付け足した。
 「仮に昭代さんが作ったのでなくても、そんな疑われるような仕業、誰がす
るだろうか。いや、しないだろう。毒はあらかじめ、桐場が入れていたと考え
るべきだ。」
 「でも・・・。」
昭代未亡人が口を開いた。
 「食糧はまとめて置いてあるし、食器はちゃんと洗った物ですのよ。」
 「ええっ? そんな馬鹿な・・・。」
 「いえ、その通りですわ。」
野岸と白島が肯定した。調理を手伝った事のある彼女達が言うのだ、間違いな
かろう。
 では、何に毒が? ・・・そうか! 分かったぞ、あれだ。

−以下9−




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