#477/3137 空中分解2
★タイトル (AZA ) 90/ 6/11 20:16 (200)
六面体の蛇 1 永山
★内容
「埋めた場所は?」
と聞かれた人物は、正直に答えた。聞いた人物の方は、それをメモすると、部
屋を出て行った。入れ替わりに、違う人が入ってきて、質問した。
「どんなモノのトコロに埋めたんだ?」
同じく、聞かれた人物は、正直に答えた。質問をした方は、それを繰り返しつ
ぶやいて、頭の中に叩き込むと、すぐに部屋を出た。しばらくして、三番目の
人間が部屋に入ってきた。
「カギは私が預かっているから、無理はしないことよ。」
忠告された人物は、素直に首を縦にふった。相手は、それを一瞥し、部屋を出
・・・。
「強盗が一つに、火事が一つ。交通事故は三つもあって、その内、死人が出
たのは二つか。あとは酔っぱらいの溺死が一つ。夕刊はこんなところだ。」
私は届いたばかりの夕刊の記事の見出しを、我が友・地天馬に聞こえるよう、
口に出して言った。
「面白くない。仕事にならないな、この程度の事件・事故じゃ。事件・事故
の関係者じゃないと、興味が持てないようなものばかりだ。」
地天馬は退屈を紛らわすためか、ルービックキューブをやっている。驚異の六
面体と言われたアレである。
「探偵を悩ますような事件がないのは、それだけ世の中が平和だって事だ。」
私はありきたりな台詞を口にしてから、ルービックキューブの方に目を向けた。
「随分とまた、懐かしい物を持ち出してきたな。はやったよなー。何年前だ
ったっけ、あのブームは?」
私の疑問を考える様子もなく、地天馬は手を忙しく動かしている。
「できた。」
彼の手からは、きれいに六色が揃ったキューブが転がり出た。
「凄いな。十分とかからなかったんじゃないか。」
「前はもっと早かったんだが、少し感覚が鈍っていたようだ。そうだ、君。
どんなキューブの達人でも、絶対に完成させることのできない面数があるんだ。
それがいくつか分かるかい?」
「へ?どんな名人でも、できない面・・・?」
私はキューブを手にしながら、考え込んでしまった。
「おかしいじゃないか。名人なら、どんな風にでもできるはずだろう?でき
なきゃ名人とは言わないんじゃないのか?」
「考えたの、本当に?よく考えてもみろよ。五面なんて、絶対に不可能さ。」
「何で?」
私の答えに対し、地天馬は天を仰ぐような格好をしてみせた。何がおかしい?
「あのね、五面まで完成しているキューブのね、残りの一面はどうなってい
るの?」
「そりゃ・・・。あっそうか!分かった分かった。」
私が驚きと喜びにあふれた顔をしたせいか、地天馬はまたも天を仰いだ。
「・・・君。その完成しているキューブを崩してくれないか。」
「いいのか?」
「ああ、どのくらいで完成できるか、やってみたい。」
ようし、とばかりに私は、「驚異の六面体」を無茶苦茶に回して、バラバラの
色とした。
「ハぁ、疲れた。ほら、これでどうだ。」
「ストップウォッチはないから、腕時計で見ていてくれ。いいかい?」
「OK!スタート!」
私の合図と共に地天馬はキューブを宙に放ったかと思うと、それが手元に落ち
て来る度に、手を加えていった。何回かそれを繰り返す内に、色が揃っていく
のが見える。六分と十秒ほどで、地天馬の作業は終わった。所要時間を聞くと、
地天馬は子供みたいに喜んだ。
「思ったより早かった。こんな変わったやり方で、キューブを完成させるの
は初めてだったからね。」
「何でそんなに早くできるんだ?さっきの普通のやり方より、早かったみた
いだぜ。」
「ハハハ。実は君の崩すのをじっくりと観察して、憶えておいたのさ。逆に
やって行けば、簡単だ。」
「何だ。それだけの事か。よし、もう一度貸してくれ。今度は君に見られな
いようにやってやる。」
私が申し出ると、その時、事務所のドアがノックされた。
「あっと、誰か来たみたいだ。キューブの件は後回し。開いてます!」
地天馬の声に反応して開かれたドアの向こうにいたのは、花畑刑事であった。
「これはこれは刑事さんじゃあ、ありませんか!」
無言でつっ立っている刑事を、大げさに出迎えてみせる地天馬。
「久しぶりです。下田警部がよろしく頼みますと、言っておりました。」
私がすすめた椅子に腰掛けながら、刑事は言った。
「それはどうも。でも、無駄な時間というものはなくしたいですからね。早
く用件を言ってくれませんかね。」
「今、忙しいのでしょうか?」
刑事は様子を伺うように聞いてきた。
「ちっとも。難事件がないと、名探偵業はあがったりですな。」
「それはよかった。いや、商売が繁盛していないのがよかったと言ってるん
じゃあないんだ。気を悪くせずに、聞いてください。」
そして花畑刑事が話した事件は、希にみる奇妙な事件であった。
「スネークキューブなる物をご存じでしょうか?」
「あ?ああ、知ってますよ。二色の同形プラスチック片二十四個が自由に回
転できるようにつなげられた、蛇みたいな格好をしたパズルだ。このルービッ
クキューブの発案者と同一人物が考え出したと聞いているけど。」
そう言いながら地天馬は、仕舞い込んでいた先ほどのキューブを取り出した。
「おお!そんな物、いまだに持っているのですか!」
「そんな物?」
「いえ、別に軽蔑しているんじゃないんです。そちらがこのようなおもちゃ
に興味を持っていてくださるとは、当方としては心強い限りです。実は今度の
事件で、被害者が遺した物なんですが・・・。」
刑事の手から、スネークキューブとやらが現れた。正六面体を二つの三角型に
分けたような形の、青と白のプラスチック片がつながっている。その一つ一つ
に文字が刻まれている。
「この文字は?」
「それは見本なんですが、被害者の物と同じように、文字を振ってみました。
どうやら暗号になっているようなんですが、さっぱり分からんのです。」
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図「スネークキューブ」 <・・・青 >・・・白
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金水地冥王土木彗星太火陽金天王土木海王水地上下月 刻まれていた文字
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「ふむ。文字があるのは、この片面だけ?」
「もちろん、正確に写し取りましたから、片面にしかなかった。」
「見たところ、ほとんどが僕らの太陽系の事を示しているようだ。被害者は、
星とか宇宙に興味を?」
「いや、家族の話では、全く興味を持っていなかったそうで。それと捜査の
結果分かった事で、何か関係があるかどうかは不明ですが、被害者のメモ帳に、
<青>とか<四つの輪>というメモがあったんです。」
「これだけじゃ話にならない。とにかく、事件について聞きたいですね。」
「被害者の名前は根津野和肇、五十六才。家族は妻・喜子に十八になる子供
が一人。小さな八百屋をやってました。それで事件ですが、一週間前の事でし
たか、大学の受験で子供が遠くに行くことになった。子供が甘ったれなのか、
母親の喜子が過保護なのか、ついて行くことになりまして、その日は家に和肇
一人だったんですな。翌朝−受験地で一泊した訳です−、母親と子供が戻って
みると、様子がおかしい。普段なら店が開いている時刻なのに、閉められたま
まだった。急いで家に入り、和肇が死んでいるのを発見。現場である和肇の部
屋には手をつけず、すぐに警察に電話を入れたそうで、この辺は感心ですな。
で、死因は心臓を一突きされてのものでした。遺体は後ろ手に縛られており、
和肇は身動きできない状態だった。そこを犯人の野郎は、根津野家の台所から
持ち出した出刃包丁でやったんです。」
「ちょっと。犯人の野郎って言ったけど、どうして犯人は男だと分かるんで
す?」
「え?あ、そういうつもりで言ったんじゃないんですが、犯人は男だとする
有力な証言がありまして。隣人が遺体発見の前日、男が根津野の家を訪ねるの
を目撃してますし、夜中の二時か三時頃に何かわめく声も聞いたと言ってます。
あっと、訪ねるのを見たのは、午後十時頃だと言ってます。」
「何でまた、隣の人は、夜の十時に目撃なんかできたの?」
地天馬は不審そうに聞いた。
「証人の家には風呂がなくて、銭湯の閉まるギリギリのところを行ってきた
帰りだったそうで。それで、和肇の部屋は荒されてましてね、机の引出しなん
かを引っかき回し、ひっくり返して行ったようです。」
「何かを捜していた?」
「そう推察されますが、何を捜していたのかは分かってません。家族も心当
たりはないと言っておりました。ただ、これは、こちらの単なる憶測なのです
がね。和肇は犯人がある物を狙っているのを察知し、それを隠したんじゃない
ですかな?その隠し場所を暗号にし、スネークキューブに刻んだ・・・。」
「なるほどと言いたいですが、もう少し状況を聞かないとね。そのキューブ
に文字が刻まれたのは、いつ頃なのか?」
「分かっていません。家族もこのスネークキューブの事を知ったのは、今度
の事件で初めてだって言ってますし・・・。」
「ふうむ。」
考えるポーズをする地天馬。しばらくして、疑問を口にした。
「刑事さんの言う事が正しいとしてだ、もし、最近になって和肇氏がキュー
ブに暗号を刻んだのなら、どうしてそんな事をしたんだろうね。」
「どうしてって、何かの隠し場所を示すためだろ?」
思わず、私は口を挟んだ。
「理由になっていないな。和肇氏は、犯人にそのある物を盗られたくなかっ
たからこそ、隠したんだろう?隠し場所をどうして、暗号化する必要があるん
だ?最近になって隠したのであれば、忘れるはずはない。だいいち、たとえ暗
号の形でも、隠し場所を示すような物を書いておくなんて、自分の命が危なく
なったとき、<隠し場所を知っているのは俺だけだぞ!>と居直りする事もで
きやしない。思うに、これは誰かに隠し場所を知らせようと、かなり前から書
いておいた物じゃないかねえ。」
「なるほど・・・。」
私と刑事は、ほとんど同時にそんな言葉を漏らしていた。
「で、誰のために書いたんですかね?」
「それが分かれば苦労はしない。元々、今までの話は、刑事さん、あなたの
仮定が正しいとしての事だ。今できることは、キューブの謎を解くことだけだ
ね。」
断定的な口調で、地天馬は言った。
「それでは、地天馬さん。この暗号みたいなのは、任せます。こちらの捜査
で新たに分かった事があれば、全て知らせますので、その時もよろしく。」
「分かりましたが、依頼料、ちゃんと頂きますので、お忘れなきよう。」
地天馬は念押しした。
「どうも、うまくいかないな。このキューブの文字は、本当に暗号なのか?」
花畑刑事の訪問をうけてから、約二十四時間が経っていた。かなり考え抜いた
のだが、なかなか解けないでいる地天馬は、少し弱音らしき言葉を吐いた。
「確かに、その暗号は難しそうだ。今まで扱った事のないタイプだね。」
私は地天馬が「うつ」状態にならないよう、気休めを言った。
「<四つの輪>とつながらないんだ。輪を端から四つ作ろうとしても、奇妙
な形になるだけで、さっぱり要領を得ない。」
「<青>ってのは、キューブの青の事だろうか、それとも地球の事かな?ど
っちだろう。」
私は昨日から気になっていた疑問を口にした。
「それも分からない。今、考え付いたんだが、<四つの輪>というのは、太
陽系の惑星の、輪のある星に注意しろってことじゃないかな?」
「なるほど!輪があるのは、えっと、土星と木星・・・。」
「それに天王星に海王星。ちょうど四つだ。よし、マークしてみよう。」
地天馬は刑事から受け取った見本のキューブの文字を紙に写し取り、輪のある
四つの惑星に印をつけた。しかし・・・。
「何だこれは。さっぱり、意味が通じない。輪のある惑星がかたまって刻ま
れているのは、分かるが・・・。」
「どれどれ。ふーん、これでは意味が分からない。」
一応、輪のある惑星を削除したと考えた上で、キューブで四つの輪を作ってみ
ようとしたが、無駄であった。
「輪のある惑星は、いい考えだと思ったんだがなー。」
私はがっかりした声で言った。さすが地天馬、と感心しかけていたのだ。地天
馬も苦悩の体である。その時、昨日と同じように、ドアがノックされた。
「・・・どうぞ。」
うるさそうに言った地天馬。入口の方を見ると、入って来たのはこれまた昨日
と同じく、花畑刑事。
「どうです?謎解きの方は?」
「見れば分かるでしょうが。」
地天馬は不機嫌をあらわにした。
「そうですな。うまいこと行っていないようですな。」
「何の用です、刑事さん?」
黙り込んだ地天馬に代わって、私が聞いた。
「あれから新たに分かった事がありましたので、それを知らせに。・・・い
いですかな?」
刑事は、腕枕をして目をつぶってしまった地天馬をチラリと見て、そう言った。
私が構わないと言うと、刑事は話し始めた。
−以下2−