#1785/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (DGJ ) 89/ 8/22 15:19 (100)
『闇の迷宮』 −17− Fon.
★内容
by 尉崎 翻
視力はかろうじて像の輪郭が見える程度である。
「あなたこそ何処に寄り道していたのよ?」
数回まばたきをしてやっと落ち着いた感じとなる。
目の前に斬り伏せられたダーシィの身体が横たわっていた。
急所を一撃。
自分が死んだ事実すら気付かなかったかもしれない。
見事な剣さばきである。
「誰だったんだ?」
「ここの魔法使いの僕みたいなもんね。しかもしごく忠実な...ね」
一応かがみこみ身体を調べてみるが特にこれといったものは出てこない。
見開いたままの瞳をせめての情けで手で閉ざさせる。
「「「わたし好みのタイプじゃないなぁ
個人的な感情が頭をちらついた。
「レナ。それでここのご主人はどこへいったんだ?」
「迂闊だったわ、目くらましを使われて見失ったの。まぁ、追う手立てがないわ
けでもないからね...それよりも、リクト」
スクッとレナは立ち上がる。
「あなたの背中にいるお嬢ちゃんをそろそろ紹介してくれてもいいんじゃない?」
リクトは肩をすくめた。
リクトの背中には15,6才位の女の子がおぶさっていた。
まだまだ幼さが残っている顔は可愛いという言葉がピッタリあてはまる。ソフ
トレザーの鎧を着ており、一応冒険者の格好はしているが押せば壊れてしまいそ
うな身体つきである。
そして外見からみると何処となく疑問が感じられた。
眼だ。
その青い瞳は開いているものの夢遊病者のようにうつろであり何も映してはい
ないのである。
「いや、撲もよくわからないのだが...」
「あなたはよく判らずに女の子を背負う趣味がおあり?」
「ちがうっ!!」
*
さて、レナ達の地点から少し離れた洞窟の中では、
「へんたーい! ちかんっ! まぬけっ! ばかぁ、すっとこどっこいっ!」
「ティスっ! おまーなぁ、それが助けてくれた人に対する態度かぁ!?」
「うるさーぃ! あたしを裸にして何しよーとしたのよ!この変態がぁ!」
「だから、それは俺がやったんじゃないってば!」
薬が効果を現わしパチリとティスタの眼が開いたかと思うと直ぐにこれである。
むろんティスタにとってはダグのいう、ケスクとかいう魔術師に操られていた
とか、繭に中に入れられてあやうく首を斬り裂かれるはめになろうとしていたと
か、ケスクが若い娘たちの生き血を使って若返りの儀式をしていたとか、と、い
うことよりも今実際、剣を持った以外は生まれたままの姿でいるという現実の方
が大切なことなのであった。
部屋の片隅にあった装飾品のレースみたいな布をひっぺがして、取り敢えず身
体の要所だけは隠す。
に、しても。
布じたいが薄いので、はた目から見ればすっぱだか同様、とんでもねー格好で
あることに違いはない。
動いても布が落ちない事を確認してからギロッとダグの方をにらむ。
「...で、ケスクっていうのは何処にいるの?」
「多分あっちの方に向かったから...でもどーすんだ?」
ダグが先程ケスクが消えていった通路を指差す。
「きまってんでしょ! 見つけだして真っ二つに斬り裂いてやるっ!!」
そう言うせつな、ズンズンと歩き出した。
「お、おい待てよ!ティス!!」
あわててダグもその後を追いかける。
「しかしなぁ、ティス。あのケスクってのは、そうとう力の持った魔術師だぜ、
そう簡単に斬り伏せられるとは思えないけどなぁ」
「うっるさいわねぇ!」
ティスタが歩きながらダグのいる後方へ振り返る。
「別にあんたの助けなんか借りやしないわよ!あたし一人で十分だわっ!」
「しかしなぁ...ティス」
「前々から言おうと思ってたけどそのティスっていうのやめてよ! あたしの名
前はティスタなんだからね! 勝手に省略されたくないわっ!」
「あ、あのな...ティス」
ダグが言葉を詰まらせ気味にした、
「だからあたしはティスタだってばっ!勝手に省略しないでっ!」
「いや、その...ティス...あのな」
「なによっ!どーしても省略する気ぃ!?」
「いや...そのな、そうじゃなくて、その先あたりから道が曲がってるから、
そのまま歩いてると壁に激突す...あ、もう遅いか」
ゴッチン☆
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
声にならぬ罵声がダグに飛ばされる。
「だからぁ俺はちゃんと注意したろーが!」
「あれのどこが注意だってのよっ!!」
ぎゃぁ、ぎゃぁ、ぎゃあ。
じつに喧嘩のネタはつきないものである。
*
ケスクは焦っていた。
「「「まさか、あのレナが生きておるとは...
完全なる失態である。
なぜ始め見た時に気付かなかったのであろうか?
長居年月がその記憶をぼやかしていたかもしれぬ、いや、レナは死んだもの
だという先入観がそれを気付かせなかったのであろう。
とにかく相手がレナであってはまともな勝負をしては勝機は薄い。
ダーシィでは時間稼ぎ程度にしかならぬであろう。
力のある僕を召喚してぶつけるのが得策かもしれぬ。
心を落ち着かせ精神を集中する。
身体が空間と同調し瞬間的に移動した。
そこは例の「泉」の間である。
まわりは全て岩であり部屋の中央に鈍く光る泉が存在している。
ケスクはそこより異空間の僕を呼び出すつもりだったのだ。
だが。
部屋には先客がいた。
ケスクはその姿をみた瞬間に悲鳴を上げた。
身体中がガクガクと震え、口の中が渇ききった。
「フフフ...あんな子供だましでわたしから逃れられると思って?」
レナは泉の前からゆっくりとした足取りでケスクに近付き始めた。
(RNS.#1)<つづく>