#1786/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (HVA ) 89/ 8/23 21:21 ( 30)
ルーナ物語(3) Copyright by RAY
★内容
1.グラシーおばさんB
露に湿った牧草地を越えたころには、朝靄(もや)はほとんど晴れていた。農場の建
物まで、もう少しだ。往路は、空のタンクを引き摺って行くだけなので、比較的楽だっ
た。大変なのは帰りだ。ミルクを満タンにして帰らなくてはならない。
ランソン農場は、各方位に面した50ヤード四方ほどの、ほぼ正方形、二階建ての建
物で、玄関はその西側にあった。玄関から正面の門まで、煉瓦で舗装された小道が敷か
れており、そこから、遥か東オルドの荒野より、西はアルマニアの城下へと至る新しい
街道へと通じていた。建物の北側には牛舎と鶏舎、東側には馬の給舎と大きな納屋があ
った。敷地の周囲には、大人の背の高さほどの生け垣がめぐらせてあり、その北東の角
に通用門が設けられている。ヘルマーの住み家はこの土地の東にあるので、彼はいつも
、この門から出入りしていた。通用門のそばには、門衛のヘンドルじいさんの小屋があ
った。
門に近寄ると、小柄な、胴長の犬がヘルマーに駆け寄ってきた。じいさんの飼犬のガ
ムだ。この雌犬は、特にヘルマーが好きだった。生れたころからの遊び友達なのだ。ガ
ムはヘルマーの足元にじゃれつきながら、彼についてきた。
「おはよう。ヘルマー」と、門衛のじいさんが言った。
「おはよう。ヘンドルじいさん」ヘルマーは、片手を上げながら挨拶した。
「ジャンナが来とるよ」ヘンドルじいさんはそう言いながら、ちらっと、からかうよう
な横目でヘルマーを見た。
「そう」ヘルマーはそっ気なく返事をした。ジャンナが来た! ほぼ半年ぶりに。ヘル
マーは顔が引きつりそうになるのを押えながら、できるだけ何げなく門を通り過ぎた。
だが、憂鬱な気分で足どりは急に重くなってしまった。
通用門を過ぎて、ガムと、生け垣沿いに建物の北側へまわりこむと、グラシーおばさ
んがいた。おばさんはみんなの朝食用の卵を篭に集めているところだった。
「おはよう!グラシーおばさん」
ヘルマーは、憂鬱さを吹き飛ばすように、大声で挨拶をした。
「まあ、ヘルマー、おはよう。いつも元気がいいわね」そう言って、おばさんはにっこ
り微笑んだ。