#1774/1850 CFM「空中分解」
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バナナは人を殺す NINO
★内容
バナナは人を殺す
バナナの皮があった。捨ててあった。そこにあった。道だ。道の上にバナナの皮が
あった。お祖父さんがいた。孫娘がいた。お祖母さんもいた。お父さんもいて、お母
さんもいた。一家が揃っている。
道を歩いていた。一家揃ってだ。まず、お父さんは道に落ちているものに気付かず、
バナナに足を取られてドブに落ち、死んだ。
そして歩きつづけた。孫娘は少し大きくなった。孫娘は人が死ぬと、自分が成長す
ると思った。
お母さんと、お祖母さんはよく口論した。気が合わなかったのだ。お父さんが死ん
だせいで、余計に仲が悪くなり、もっと口論は激しくなった。
お母さんは孫娘を捨てて、家を出た。孫娘は素直に恨んで、道にバナナを捨てた。
そして、孫娘は言った。
「おかあさん、帰ってきて」
お母さんは娘の純真そうな姿を見て、走って戻ってきた。お母さんは、バナナに気
付かなかった。滑って転んで、頭を打った。死んだ。娘は少し大きくなった。
お祖父さんは酒飲みだった。亭主関白だった。酒に酔うと暴力をふるった。お祖母
さんは困り果てた顔をした。孫娘はお祖母さんが可哀想と思った。
お祖父さんが居酒屋で酒によって、ぐてんぐてんになって家に帰ってくるところだ
った。孫娘はそれを見ていた。そっと、バナナを道に捨てた。
お祖父さんはバナナを避けた。避けた方向が悪かった。避けた方には車が走ってき
ていて、お祖父さんは跳ね飛ばされた。娘は少し大きくなった。
お祖母さんは寿命が来た。寝たきりになる前に死にたいと、よくぼやくようになっ
た。孫娘はそんなお祖母さんをとても不憫に思った。孫娘は、お祖母さんを散歩に連
れ出した。娘は、初め、それはお祖母さんの気を紛らすためだと思っていた。しかし、
娘にはモクモクとしか形容のしようのない、叫びが聞こえていた。
娘はバナナを捨てた。食欲のおもむくままに食っていたバナナを食べ終えると、簡
単に、道に捨てた。お祖母さんはバナナの前で立ち止まった。
お祖母さんは、何やら冷や汗をかいて立っていた。自分が孫娘に言っていた言葉を
思い出していた。お祖母さんは、孫娘の純粋で汚れのない目を見つめた。お祖母さん
は余計に怖くなっていた。お祖母さんはこの孫娘の見たい風景が分かった。
手をつなぎながら、しばらく二人は黙っていた。お祖母さんは言った。
「さようなら」
お祖母さんは、バナナを踏んだ。滑って転んだ。強く頭を打った。致命傷だった。
娘は大きくなった。四人の死によって大きくなった。人間の器が広がった。彼女は
どんどん幸せを重ねていった。その裏に、好きな人達の死があった。娘はその死を忘
れ去ることが怖かった。死を忘れたとき、娘は子供に戻ってしまうからだった。
彼女は好きな人ができるたび、バナナを用意した。
好きになった人はどんどん死んでいった。
そして、彼女はますます美しくなった。
終り