AWC 大型リレー小説>第十回  「暁のラジオ体操」  ゐんば


        
#1773/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (GVB     )  89/ 8/15  15:51  (123)
大型リレー小説>第十回  「暁のラジオ体操」  ゐんば
★内容

「杉野森くん」
 私がそこまで書いたときドアをあけて飛び込んできた女性がいる。
「やっぱり杉野森くんだったのね」
「てこ……梅田さん」
「クエストなんて変名使ってるからまさかと思ったけど……」
 私は手児奈を見つめた。(大人っぽくなったな……)考えてみればそれは当然
だ。高校を出てから十数年がたっているのだから。手児奈……グー星人……白鳥
座……
 その時、私の中で記憶が一本の糸につながった。そうだ、今は感傷にひたって
いるときではない。
「……グー星人の侵略がまた始まったのね」
「そうなんだ」
「もっと早く気づいていれば」手児奈は顔を暗くした。「もうグー星人は地球上
にいっぱい入り込んでるかも知れない」
 手児奈は涙ぐんでいた。
「あのときもそうだった。最初に杉野森くんに言われたときに素直に信じていれ
ば、あんなに大勢の学生がグー星人の手にかかることもなかったのに」
「君のせいじゃない。俺が野球場でいきなりあんなこといったから」
「だって、あの試合を見ていて杉野森くん九回になってから乱菜さんや埋火さん
を見て驚いたでしょ。この人一回から八回まで何を見てたんだろうと思って、気
味悪かったの。でも、その時はもうグー星人に支配されかかってたのね」
「ああ、白鳥座の助けがなかったらだめだったかも知れない。でも梅田さん」私
は手児奈の頬を伝う涙をハンカチで拭った。「まだ間に合う。パソコン通信を通
じて全国の仲間にグー星人の陰謀を訴えるんだ。奴らの手口や、人の心に入り込
むときの様子や、」
「それから『モノリス』のこと!」手児奈はもう泣いてはいなかった。「あれが
あればグー星人の……」
「そうはさせないよ」
 テレビがスイッチもいれてないのに突然しゃべりだした。振り向くと画面には
奇怪な姿が、でも見覚えのある姿が映っている。
「グー星人……」
「クエスト、あんたはいままで通り『小説』を書いていればいいんだ。十数年前
の事件の噂を誰かが嗅ぎつけないとも限らないからね。その噂は『事実』じゃな
くて『小説』なんだ。わかったね」
「グー星人、お前そのためにリレー小説を仕組んで……」
「そ。作者がばらばらなら誰もこれをノンフィクションだと思わないからね。で
も白鳥座の妨害でもう少しで『モノリス』のことを書かれちまうところだった。
まあ、すんでのところで小説だってことでごまかしたけどね」
 ブラウン管をにらみつけると、私はキーボードの前に座った。一刻も早くグー
星人の陰謀を伝えなくてはならない。
「おや。催眠が少し足りないようだね」
 グー星人はにっと笑っていった。
「グー星催眠合唱団入場」
 たちまち前後左右から数十人のグー星人が現われて歌い始めた。

 《眠れ 眠れ 母の胸に
  眠れ 眠れ いびきかいて
  起きたら眠れ 寝たら起きろ
  止まれよ遊べ 遊べよ眠れ》

 私はもうろうとする意識の中でキーボードをたたいた。

−− その金属を見た瞬間、手児奈は何か心に引っ掛かるものを感じた。
  「モノリスっていうから何かと思ったら、ただのお好み焼のへらじゃない。
  こんなもん何になんのよ」
  「いや、そうでもないぜ」乱菜はお好み焼の具をこねくりまわすと、熱くなっ
  たガン・ボートの上でじゅうじゅう焼き始めた。

「ちがう!」手児奈が思いきり叫んだ。
「杉野森くん、目を覚まして!起きて、本当のことを書いて!ああ……白鳥座、
私に力を!」
 不意に稲妻のような物が手児奈の体を駆け抜けた。手児奈は両手両足をぴっし
りそろえ、声も高らかに歌いだした。

 【チャーンチャカチャカチャカ ズーンチャカチャカチャカ
  チャカチャカチャラララ チャラチャラチャーァ
  (せりふ)腕を大きく挙げて 背伸びの運動
  朝も早よから朝風呂で 夜も早よから夜風呂で
  豊年だ それ満作だ 燃えないゴミは月・水・金
  ぞうあざらし たぬきの毛 ぞうあざらし 歯ぐきの根
  しゅん・か・しゅう・とう し・のう・こう・しょう
  パパのお年は三十九】

……手児奈の歌声で私は自分を取り戻した。そうだ、こうしてはいられない。グ-
星人の撃退法を書かなくては。

−− その金属を見た瞬間、手児奈は何か心に引っ掛かるものを感じた。
  (どこかでこれと同じ物をみたことがある……でも、どこで)
   杉野森はその赤黒い金属を手に取ると目を輝かせた。
  「ありがたい。これさえ手にはいればこっちのもんだ」

「こしゃくな女め」グー星人がいまいましそうにつぶやいた。「ほら、合唱団、
もっとしっかり歌わんかい」

 《おどま盆ぎり盆ぎり ボンから先ゃポーランド
  マザー・ワレサの 泉わく》

−− 乱菜はお好み焼について説明を始めた。
  「いいか、卵の入れ方に二通りある。まずはあらかじめ具と一緒にかき混ぜ
  るやり方、まあこれはどっちかというと関東風だな。そうではなくて具を焼
  いた上に卵を落とすというこういう方法も、ほら、ちょうど目玉焼みたいに
  なったろう」

「杉野森くんしっかり!」手児奈が叫んだ。「グー星人の歌声に耳を傾けちゃだ
め。私の歌を聞いて!」

 【肩こり神経痛 あせも・しっしん・じんましん
  すって、はいて、はいて、すって、すって、すって、すってんてん
  狼でたぞ、狼きたぞ、狼男の逆襲だ】

−−「だっけどあんたもモノリスなんかどうすんのよぉ。物好きねえ」
  レイチェルは脱出で乱れた金髪をとかしている。
  「これさえあればグー星人を防げるんだ。白鳥座が教えてくれた」

「えーいもっと大声で歌うんじゃ」「杉野森くんがんばって」

 《守もいやがる 泣く子を殴る》
 【風向明媚 買物便利 日当り良好の四畳半】
 《泣いた子供は ぶちかえす》
 【うんとチゴイネルワーイゼン もっとドストエーフスキー
  ぐっとリヒテンシュターイン そしてピタゴラス】

−−「白鳥座は僕にこう言った」杉野森はモノリスの表面をこすりながら言った。
  「グー星人はどんな人間でもその催眠術で操ってしまうのだが、いか玉に使
  ういかはほとんど輸入もんなんだ。豚玉の場合はほとんどグー星人はよりつ
  けない。だからいわゆるミックス焼はいか・えび・豚あるいは牛だから星人
  の陰謀を防ぐにはこれしかないんだ」

 そのころ、新松戸から神戸に向かおうとして新松戸のとなりの馬橋についた一
人の男がいた。

                          [つづく]




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