#1483/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (CGF ) 89/ 3/13 10:13 ( 95)
『月』(3)&(4) 舞火
★内容
(3)
2059年の春。
桜がちらほら咲き始めた頃。
高山は、同じ産婦人科医の同僚から相談を受けた。
『最近、不妊症や奇形児の出産率などが異常に高い確率となっている』
同僚は深刻な表情でそう言った。
それは、高山も感じていた。
確かに最近、不妊の訴えをする女性の来院のなんと多い事か。
しかも。
胎児の段階から明らかに判る奇形児の存在。
随分と増えた。
その昔、ベトナムの枯れ葉作戦の影響でたくさんの奇形児が生まれたように。
四肢湾曲なぞ良い方。
無頭症、シャム双生児、一つ目………………生まれてすぐ死んでいった子供達。
高山達は、全国の病院からデータを取り寄せ、研究した。
高山の勤務する病院が産婦人科としては有名な、中枢的な役割を果たしていた病院
であったことと、国立の大学に付属し、政府の要員とも密接な関係であったことすら
もこの時ばかりは役に立ったといえよう。
膨大な量のデータが即座に集められた。
データの解析に1年かかった。
1年……2060年の春。
決して遅いとはいえない。早い。けれど、もっと早く……。
いや、もっと早く気付けば……。
それほど、結果は悪かった。
あまりにもショッキングな結果に高山達はしばし声を失った。
原因は『カム』だった。
『現在、この時代はカムを服用し始めた女性達の孫達が子を産む時代である。
最初にカムを服用した女性達の子にはなんら影響は出ない。
その娘達の子供にも外観状の影響は出ない。
だが、孫達は奇形児の出産率,それ以前に不妊率が、カムを服用しなかった女性の
孫達よりはるかに多い。50倍の確立だ』
『カム』
悪魔の薬。
3世代目にして、始めて副作用をだしたのだ。
遺伝子に欠陥ができていた。3世代目の子供にだけ。
その子達はまともな子を産めぬだろう。
しかも。
動物実験では全くそんなデータはでなかったのに。
人類にだけ起こり得る副作用。
このままでは。
現在のカムの服用率では、遠からずまともな子供を産める女性がいなくなってしま
う。
高山は、報告書を学会に出す事をためらった。
同僚にしてもそうだ。
相談して、医学界で最も権威ある医学博士ケイレム・エッシェンバッハにその報告
書を提出した。
返事はすぐ来た。
博士は、知っていた。
『もうどうしようもないほど汚染されている』
博士の手紙はただ三言。『決して口外してはならぬ』
『会いたい』
ただ三言。
(4)
2060年春。
季節外れの雪が日本全国に舞った春。
海原は大学の研究室でデータのチェックをしていた。
他に誰もいない。
海原は月の映像を見上げた。
コンピューター処理された映像は白黒で、随所にチェックマークが入っている。
映像が変化した。
月の輪郭部分から、上に向かって煙状のモノが噴き出し、見る間にきのこ雲の形状
を取る。
海原は舌打ちをしながら、キーボードを操作した。
映像が一転し、地球を映す。
黒い背景に、白い地球。画面の隅に月。
海原のキー操作に連動して、観測機器がフルパワーで作動する。
精密機器では最高級の日本の会社の観測機器である。他に例を見ない程、優れた観
測機器により海原の大学の天文学部は、世界の先端を走っていた。
その機器がフルパワーで観測しているモノは放射能。
最近、地球に降り注ぐ放射能が増大している事が指摘されていた。
海原は、その観測をしていたのである。
映像の月から−−あのきのこ雲ができた地点辺りからゆっくりと白い煙状の流れが
生じていた。
3日後。
映像の月から地球に向かって、白い煙状の橋がかかっていた。
地上のセンサーが放射能の増大を知らせる。結局どこで核実験をやろうと同じ事。
だが、この日。
別の観測機器が別のデータを海原に示した。
海原はそのデータを見、コンピューターを操作し、そして結論を出す。
「ばかな」
海原は一言発し、首を振った。
月のカラー映像がでていた。
赤色のラインが、月に縦横無尽に走っている。
それが示す意味は……。
月の破壊……。
海原は、敬愛する恩師、ホセ・ハリー博士に連絡をとった。
返事は一言。
『すぐ会おう』
*****************************つづく******