AWC 『月』(1)&(2)        舞火


        
#1482/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (CGF     )  89/ 3/13  10: 9  ( 73)
『月』(1)&(2)        舞火
★内容
『避妊・中絶薬カム 厚生省認可……』
 まだ新聞が活字であった頃の、その記事をファイリングしたもので、大学病院の図
書庫から引っ張り出してきたのだ。1990年……70年程前のものだった。
 高山が読んでいる記事は、避妊・中絶薬『カム』の認可の頃の物だ。
 この頃は、随分と騒がれたらしく、ほとんど1冊分のファイル全てがその類の記事
で埋まっている。
 それに、発売の時の記事が、これまた、1冊分。
 膨大な量だ。
『……厚生省は、アメリカにおいて発表され、現在欧米諸国のほとんどの国で認可さ
れ、販売されている、避妊・中絶薬カムを認可した……』
 避妊・中絶薬『カム』は、成功率99%を誇り、しかも副作用のない薬として、現
在ほとんど全ての女性が服用していた。それは、全世界の女性の60%にもなってい
る。
 ただ、服用すればいいだけで、妊娠の失敗はなく、妊娠しても服用していればなん
の痛みもなく中絶できるのである。だから、避妊薬としてよりも、中絶薬としての役
割を果たすことが多い。
 全く妊娠を知らずにして、胎児を降ろす……日常茶飯事の出来事となっていた。
『産婦人科医○○ ○○談……これは画期的なものです。全く副作用がない……』
 『カム』発売当初の頃の新聞に、そんな記事があることに気が付いた高山は、嫌悪
の表情でののしった。
「どこの世界に副作用のない薬などがあるか!」
と……。
 だが、確かに認可するための様々な実験−−基礎的な評価から臨床まで、何の副作
用も認められなかったのも事実だった。

 そう。
 あれから70年。
 2060年の春。
 当時、全く副作用が見られなかった『カム』に、副作用が発見された。
 それは。
 あまりにも遅すぎた発見だった……。

                 (2)
 高山がファイルを見ていたちょうどその頃。
 高山の親友である天文学博士 海原 洋一もまたファイルを見ていた。
 こちらもまた古い新聞記事のファイルではあったが、中身は全く違い、それは月に
関する数々の記事だった。
 傍らの机に載せてあるファイル中、最も古いファイルには、人類が始めて月に降り
たったという記事で満たされていた。
 活字と写真が、その時の人類の興奮を克明に描写していた。
 海原はその記事が好きだった。
 何度読み返しただろう。
 海原自身、百科辞典か何かの本で『人類が始めて月に降り立った瞬間』という写真
に憧れて、天文学畑に進んだのだから。
 だが。
 しかし。
 今海原の手元にあるファイルに納められている記事は、今でも海原の心を怒りに満
たす。
『月で始めての核実験が1990年2月○日実施された。これは米国の……』
 月での核実験の記事。
 この時から各国は争って月で核実験を行ない始めた。
  大気もなく、故に生物がいない。
  放射能を蒔き散らしても、人類には影響がない。
  地上や地下が駄目なら宇宙で……
 そんな有識者達の意見が大半を占め、反対派の意見など隅に追いやられているよう
な状況。
 海原は怒りを込め、つぶやく。
「月とて地球の仲間。それをないがしろにして、人類の発展なぞあり得るか……」
 当時。
 ある意味では歓迎されたのだ。
 これ以上、地球を放射能で汚さない為にも。
 地球以外での核実験。
 地球は放射能で汚染されない……

 そして。
 あれから70年。
 2060年の春。
 当時月での核実験に下した判断は、人類最大の過った判断であったことが確認され
たのである。
 それは。
 あまりにも遅すぎた確認であった。

*******************************つづく****




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