#1484/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (CGF ) 89/ 3/13 10:22 ( 83)
『月』(5)&(6.最終話) 舞火
★内容
(5)
2061年。
高山と海原は、世界科学アカデミーの場で一緒になった。
久しぶりの再開だ。
だが、互いに旧交を暖めあっている時ではなかった。
時は緊迫していた。
世界科学アカデミーの中に極秘に特別委員会が設置され、高山も海原もその一員と
なったのだ。
人類を助けるための……委員会。
特別委員会『カム』チームのメンバー高山の報告書の一部。
[『カム』により破壊された生殖に携わる遺伝子は、既に回復不能であり、それに
侵されている人類は60年後には人類の70%に至るであろう]
特別委員会『月』チームのメンバー海原の報告書の一部。
[長期に渡る多種多用の核実験により、月の内部は激しい亀裂が入っている。遠か
らず月は破壊されるだろう。コンピューターの予測によれば、ここで核実験を中
止したとしても、引力その他の影響で、月の破壊は60年後であり、止めること
はできない。その時、破壊された月の破片により地球上は大きな打撃をうけるば
かりではなく、月の土壌に長い間蓄積されている放射能汚染物質が地上に降り注
ぐことになり、地球は『核の冬』の状態を迎えいれることになるであろう。
また、今までの段階でも地上に降り注ぐ放射能は増大の一途を辿っている。人類
は既に放射能で侵されているものと推測される]
世界科学アカデミー特別委員会の報告書の一部。
[『カム』チーム,『月』チーム双方のデータにより、人類の生存の望みは15%
にまで落ちている。
一刻も早く正常な遺伝子を持つ人類を隔離する必要がある。
よって、我々科学アカデミーは、現在建設中の火星軌道上の宇宙ステーションを
隔離場所とし、10年後の完成とともにそれら正常な人類を移民させる計画を立
案する。
この計画はパニックを防ぐために極秘裏のうちに進めなければならない。
なお、この計画の名称は、現在建設中であるステーションの名を用い『アーク
(方舟)計画と名付ける]
(6)
2065年夏。
異様に涼しい夏。
高山は久しぶりに海原を誘った。
互いに多忙な毎日を送っており、ゆっくりと会う機会もなかった。
高山の手料理で海原の酒を飲む。
話はどうしても『カムと月』の話となった。
「君は聞いた事があるかい?私の所に来た女性達が妊娠を告げられると、嫌悪丸出し
の表情でこう言うんだ。『あら、やだ出来ちゃったのぉ。カム飲まなきゃ』そして
『カム下さいね』って」
「それで君は?」
「ここはカムは使わない、と言う。そうすると十中八九こなくなる。今私の所に来る
のは子供が欲しいという人ばかりだよ」
肩をすくめて見せる。
「一度体外にでた子を親が殺せば立派な殺人罪さ。だが、今の世の中、胎児を殺して
も、殺人罪なんぞに問われたという事なぞ聞きやしない。だが、子は子に違いない。
それが、胎児であろうとね」
「そうだね」
「親が無残にも子供を殺し続けて来た。カムという毒を使ってね。何千人もの子の命
がカムによって失われた。その時親は笑っているんだ。厄介払いが出来たとせいせい
した表情でね。子殺しの親の報いが今頃出て来たに過ぎない」
「月も同じだ。月は地球にとって子も同然。地球に付き従っているんだから。だが、
地球に育った人類は、その月を殺したのだ。親が子を殺してしまった……。そして、
人類はその報いを受けるんだ。月は自らを破壊させる要因を作った地球に住む人類を、
道連れにしようとしているんだ」
ぐいと一呑み。
「女性ばかりは責めれない。男性だって避妊ための方法はあるんだ。カムなど使用さ
せねば良い様にすれば良かったのに。だから、男だって無精子症のなんと多い事か」
「今だって爆発の度に巻き起こり、宇宙に渦を巻いてたまっていた放射能の塵が地球
に降っている。今、放射能に汚染されていない人間が一体何人いるかね」
「人は知らぬ間に自分の頚を絞めていたのさ」
「長い年月をかけて歩んだ人生の歴史は、1990年にその終末に向けてのスタート
をきったという訳だ」
二人はしたたかに酔っていた。
海原が言った。
『人は月を軽んじ過ぎたのさ。月は地球に影響を与えていた。潮の満ち引きのように
ね。女性にだって影響を与えていた。そうだろ……』
高山はつぶやく。
『性と月というものは密接な関係がある。女性の生理は月経とも言うではないか。ど
ちらの周期も29日だ……』
−−−−『月』−−−−
舞火
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