AWC ☆Mergeing!Mergeing!!2☆《13》L141


        
#1472/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (FEC     )  89/ 3/ 7   8: 3  (141)
☆Mergeing!Mergeing!!2☆《13》L141
★内容
                                     13
  杉丘はシャワーを浴びながら考えていた。
  やはり今回も俺を止める奴はいなかった。羅清には期待していたのだが。この一生で
俺に反逆したのは藤田だけだった。これからもそうなのか。全てこちらが思った通りに
なってしまうのか。死ぬまで………
  だとしたらなんの為に生まれてきたのであろう、俺は。

  奇人はがく然とした。何でいないのだ!
  そのうち、妙な発信音が鳴ったので怒鳴った。
  「夜の夜中に出歩くな!!」
  そのとき、奇跡が起こった。
「何よ!夜の夜中にでかい声を出すな!」
なんと受話器の向こうから、いる筈の無い女の声が返ってきたのである。

  “時間が無いんだ、寝ないでくれ!!”
  すやすやの眠りにおちてゆく本来の持主に対して彼は絶叫した。しかし、効力は無か
った。彼が3年間一緒に生活してきた女に危機が迫っているという時期に、彼は微弱な
力で立ち迎えるのであろうか。

  「あれ?これ留守番電話じゃ………」
「夜中に電話かけてくる奴には、起きていた場合、こうやって悪戯するのよ。で、さっ
き2人じゃないとどーのこーのって言っていたけれども、どういうこと?」
「中村さんと杉丘がラブホテルに入って………その、あの………討入たくとも野郎一人
じゃ入れないんで………」
「あれ?今日は、クラブ活動じゃなかったの?」
「うーん……まあ、そうなんだが………」
「分かった。見直したわよ、クラブよりも孝子のことをとって………。じゃ、すぐ急行
するわ。」
「頼む。場所は−−−−」
  コックを捻ってシャワーを止める。バスタオルで体を拭き、棚にあったガウンを端折
った。男はバス・ルームを出ると、ベッド・ルームの方へ歩んだ。

  “来やがったな!”彼は彼女の灰色の目を動かして杉丘をにらむ。
  男は横にあったアイスボックスの中からなにやらドリンクを取り出して飲み始めた。
首がスポーツマンらしく、太い。橋本は肉体を既に3年前に失っていたのでその意味で
は羨ましかった。
  朝まででいいから空白の時間がやってこないように、と間借り人は願った。

  タクシーを拾うのに少々手間がかかった。近距離なので乗車拒否にされてしまうのだ
仕方なく、チップを弾むことによって漸く1台のタクシーが止まってくれた。
  「あのね、●●街のホテル  ロマンシアに行って下さい。」
「了解。」バックミラーにタクシー・ドライバーの何か言いたげな目が映っている。
「あ、……その、私の彼、あっちで待っているのよ。」藤田は作り笑いをした。何でこ
んな夜中にこんな芝居うたなくてはいけなくなっちゃったのか?「だから、もう、超特
急で行って下さらない?」
「分かりました。そういうことでしたら、お任せ下さいよ。」
  タクシー・ドライバーはメーターを倒した瞬間、車を急発進させた。彼女の体がシー
トにめり込む。角を曲がるとき、遠心力で車体が大きく、振れ、傾ぐ。タイヤの悲鳴が
夜の静寂を切り裂いた。
  「生きていれば間に合いそうね!」

  電話ボックスを出てから彼は取り合えず自分の荷物を纏めた。たいした量ではないの
ですぐ終わってしまった。しかし、彼にはとてつもない時間の浪費をしてしまったかの
ように思われてならなかった。
  杉丘はきっと寂しいに違いないのだ。自分を阻止する人間がほしいのだ。藤田さんは
彼に反逆した希有な人間であったが彼を止めるまでには至らなかった。きゃつは中村さ
んを壊すことにこうこつの瞬間を見出そうとしながら、また自分を阻止する人間が現れ
ることを願望しているに違いない。
  彼は懐中時計を握りしめた。
  「阻止してやる!!」

  そうだ。まさか寝入っている人間にはやりはしないだろう。よし、狸寝入りをして急
場を凌ぐとしよう。橋本はそう決心して、目蓋を閉じた。
  杉丘の気配がベッド上に移ってきた。シーツが引っ張られる。その為、中村の体が少
し傾いた。やがて、男が彼女の上に位置してきた。彼の息使いが間近に感じられる。奴
の顔が彼女の上にあることは確かだった。
  “野郎、この人に手を出しやがったらただじゃおかねえぜ!!”しかし、魂しかない
彼に何が出来るのであろう。
  「なんだ、寝ちゃったのか。」杉丘は人指し指でつんと彼女の頭をつついた。「おい
起きろよ。」
  しかし、起きるわけがない。仕方なく、彼は彼女を上向けにした。そして、軽く彼女
のほほを軽く打った。すると、うっうんといううめきを上げて体をくねらせる。男がも
う一度打つと、潔らかな目が開かれ、虚ろな視線が彼の顔をさまよった。彼はそれにむ
かって微笑みを浮かべてみせた。すると彼女も寝惚け眼ながら笑顔を返した。
  「疲れたのか?」
「ええ。」彼女はそう答えた。
“おい、こいつはやばいぜ。早く出ようぜ。”目覚めた大家にすかさず彼は叫ぶ。
“出ようって………???”
“入っただろ。ここ覚えてないのかよ!!”
“え、ここは、ロマンシアっていうラブホ−−−”
「ええぇぇぇぇぇ!!!」
  中村は操り人形のごとく跳ね起きた。

  鋭いライトが闇を裂いた。彼の姿はスポットの中に投じられたかのように浮かび上が
った。それは物凄いスピードで彼の横を通り過ぎると、ロマンシアの前でぴったりと止
まった。辺りにブレーキの烈しい音が轟いた。もっとも、ここいらはこんな建物ばかり
でみんな防音が施されているから苦情など出る心配は無かった。
  彼が駆け寄ってみると、タクシーは一人の女性を置いて去っていった。
  青のトレーナーに運動靴。長い髪を総髪状にただ後ろで纏めてあるだけの髪型。そし
て縁の細い眼鏡に、右手に持ったポシェット。なんともまぁ、アンバランスな格好だが
羅清は人の事が言えなかった。みすぼらしいという点においては、メンバーの中でNo.1なのだから。
  「凄い格好だね。」
「急いでたから。」藤田はふう、と息をついた。「生きた心地しなかったわ。」
「なかなか凄い腕のタクシ・ドライバーだったらしいね。」
「うん。」彼女はそう言って彼の腕を取った。
「え?」
「さ、行くわよ。」藤田は手を組みひっぱるようにして、ロマンシアの中へと入ってい
った。

「え………あのその………」
  酔いの冷めた中村は自分がベッド上にいることに気付き、立ち上がった。しかしクッ
ションがよくてバランスがとりにくく、歩くわけにはいかない。トン、と飛び上がって
じゅうたん上に降りる。
  グギッ!
  ハンプスの底が床を捕らえ損なって左足首に激痛が走る。
  「まさか………」
「あの、今日は楽しかったです。どうもありがとうございました。」彼女はびっこをひ
きながら後ろずさりをした。「じゃ、今日はおそいので……」
  そのときだった。男のたくましい腕がぐんと伸び、逃げようとする彼女の白い左手を
掴んだ。男の強靭な全身の筋肉がフルパワーを発揮し、そのまま彼女をポーンと宙に持
ち上げた。中村は空を舞って一気にベッドに叩きつれられる。大きく彼女の体はベッド
上でバウンドを起こし、そのとき靴が脱げた。彼はすかさず、彼女の両腕を開き押さえ
込み身動きを取れなくした。
  「逃げようったってそんな訳にはいかないぜ!」
「私が好きなのは−−−−−」

  「現在満室でございますので、しばらくロビーでお待ち下さいませ。」
  そういうフロントの男の視線はトレーナーの女と汚いバッグを持ったみすぼらしい男
のカップルを冷笑していた。しかし、彼らはそんなことを気にしてはいられない。もう
時間がないのだ。しかも、こちらには決め手のカードは無いときている。
  「あ、あれなんだ?」羅清は突如表を指す。
「え、何?」
  つられて藤田とフロントの男が自動ドアの向こうを見定めようと首を向ける。幸い、
ドアのガラスは中が見難い加工がしてあった。彼らはしばし、外をみることになるだろ
う。その隙に奇人は首をひょいとフロントの内側に突き出し、帳簿をその鋭い観察眼で
読み取った。
  「何にもないようですよ。」フロントの男はうさんくさそうに彼を見つめる。
「最近眼鏡の度があってなくって………すいません。」
  そう言って奇人は藤田の肩を抱いてロビーへ歩んだ。フロントに完全に背が向けられ
た時、彼は彼女に耳打ちした。
  「6号室って分かった。これから行ってくる!」
「え!」
  彼女が声を上げたときには彼は凄まじいスピードで階段に向かってダッシュを切って
いた。フロントの男がその音に気がついて顔を上げたときには彼は2階へと消えていた。  彼女はとっさに起点をきかす。フロントの男に愛想笑いをしてロビーの横のトイレを
指したのである。
「全く、ムードないんだからこまっちゃう!」
  男は馬鹿にした笑みを浮かべた。そして首を振ると帳簿に視線を戻した。

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