AWC ★Mergeing!Mergeing!!2★《14》L143


        
#1473/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (FEC     )  89/ 3/ 7   8: 8  (142)
★Mergeing!Mergeing!!2★《14》L143
★内容
                                     14
  中村が本心から愛している人物の名を告げようとしたとき、杉丘が彼女の口を封じよ
うとして彼女に接吻を求めた。首を振って彼女がずらさせる。しかし、それも強力な男
の力の前には無駄だった。彼と彼女の唇が触れあった。中村は口をキッと結んで最後の
抵抗をした。
  男は一方で、彼女の上着を剥ぎにかかった。彼女が手に慢心の力を込めてつっぱねて
いたために、なかなかうまくいかない。彼は顔をそらし、そちらに専念するにした。ま
ず右腕を抜き、左手に取りかかる。と、自由になった彼女の右腕が彼の背中に振り落と
された。
  「このあまァ!!」
  杉丘の力強く握りしめられた右手が風を切る。それは白く軟らかな女の頬に振り降ろ
ろされた。頬にめり込む。彼女はベッドの端まで反動で吹き飛んだ。彼には分からなか
ったことだが、彼女の目から涙が飛び散った。撲られた中村はそれが引鉄になって気絶
した。おそらく、気が興奮状態にあってこの衝撃だったからだろう。
  男は荒い息をした。そして、動かなくなった彼女を引き寄せた。

  2階に上がる。と、彼を待ち受けていた者がいた。
  「お客様、まだ満室でございます。」
  先程の黒服の巨漢が見廻りでもしていたのだろう、そこにいた。そして彼を発見する
や、彼の前に立ち塞がった。彼の顔もまたフロントの男と同じく、羅清を下げずむもの
であった。これはおおいに奇人を奮い立たせるものだった。
  「通させろぅ!!」
  彼は絶叫した、酒池肉林の城の中で−−−−

  “この野郎、よくも撲りやながったな!俺の大事な人をォォ!!”
  橋本は灰色の瞳で彼をにらみつめた。しかし、男は冷徹な表情をするばかりだった。
抵抗する気が無くなったと思ったのだろうか、彼は女の体の上に寝た。ブラウスの上か
ら彼女の胸の山を掴んだ。それをゆっくりと円形に回しながら、男は顔を女の寸前に持
ってゆく。そして接吻を再びしようとした−−−−
  「やめろ!!」
  橋本の激発した感情が彼女の声帯によって音声化された。その有無を言わせぬ勢いに
杉丘はひるんだ。しかし、彼は冷ややかに笑うと、彼女のブラウスのボタンを外し始め
た。ブラウスの下から肌色の下着が現れる。
「やめろ、てめぇ。やめねえとただじゃおかねぇぞ!!」
「そうじゃじゃ馬ぶったところで」彼はスカートのベルトに手を掛けた。「体の方は抵
抗していないじゃないか、ええ?」
「うるさい!!」
  すると彼は半ば独り言のように行った。
  「俺はいつも思い通りになっちまう人間なんでね。」

  彼は今まで全敗記録を持つ人生をかなぐり捨てた。彼はここに、この瞬間に全身全霊
を駆けていた。立ちはだかった巨漢には先程体良くはらったみすぼらしい小男にしか見
えなかっただろうが、それは大きな間違いだった。彼の精神は激発し、人間の通常モー
どを保つためのウェイトは全て外され、ホモ・サピエンスが本来有している100%の
力が開放されつつあった。
  「どけと言っているんだ!」
「どくわけにはいきませんな。」
「ならば!!」
  奇人が床を蹴る!巨漢がそれに対して身構えた瞬間、彼は消えた。
  いや、違う。彼は馳せたのだ。跳躍したその体は巨漢の鼻つらに現れた。巨漢が左手
を引いたとき、彼の顔に衝撃が起こった。羅清の繰り出した右足が用心棒の男の鼻を見
事なまでに潰していた。彼は鼻を押さえながら、2、3歩よろめいた。覆った手の隙間
から酷い勢いで赤い液体が噴き出すのが見えた。羅清の体が落下する。彼は再び床を蹴
った。今度は床すれすれに飛んだ!
  「小僧めがぁ!!」
  巨漢の鉄のグローブが下に潜り込もうとする小男目がけて振り降ろされる。それは彼
の左肩に激突し、床に彼の体を叩きつけ圧縮した。殆ど気を失いかけるような激痛を感
じる間もなく、彼に第2波が襲った。
  羅清はそのとき満身の力を込めて右拳で敵の股ぐらをアッパーカットした。
  巨体が舞う。用心棒はけいれんを起こして廊下に伸びた。そして、羅清は痛みに顔を
歪めながらも立ち上がり、“6”と書かれたドアへと向かった。

  “くそう、たのむ。俺にこの体を!!”
  そう間借り人が願った瞬間、奇跡が起こり始めていた。今まで完全に中村孝子に比べ
て優先順位が下位であった橋本智樹というソフトウェアが意識を失っている中村孝子の
管理しているシステムに向かって触手を伸ばし始めた。意識を失っているとはいえ、主
導権のある彼女の触手は離そうとしなかった。しかし、人間の緊急時における“開放”
が橋本にも起こっていた。本来持っているソフトウェアとしての100%の性能がスパ
ークした。もともと、人間というシステムを保全するプログラムが個性なのである。そ
のプログラムには通常生活のとは別の、緊急時における図式が組み込まれていた。かつ
て彼が気絶した彼女に転送されてきたときと同じように、彼というプログラムが彼女を
動かし、保全しようとしているのだ。
  左手がこまやかにけいれんを始めた。ついで、右腕も。伸びきった両足の筋肉にも力
がこもり始めた。彼は全身に繋がる命令系統が3年前まであった自分の体のように従っ
てゆくのを感じた。
  変化は視界にも起こった。全てのものが光輝き始めた。彼女のブラジャーを取り、山
に口を寄せている彼奴の輪郭も不確かだ。いや、そればかりでない。色も定かで無くな
り始めていた。彼の発作も同時に起こり始めていた。これもまた、今までには無かった
ような、最大級なものと思えた。

  杉丘は彼女の全身のけいれんにはたと顔を上げた。
  興奮しているじゃないか。
  彼はそう誤解した。そしてあらためて、接吻をしようとした。
  そのとき、中村孝子の左手に拳が形成された。

  「俺の好きな女によくもォ!!」
  「何!」
  白くなまめかしい色を放った左腕が眼前に迫った杉丘の右頬に迫る!それは蛇のごと
く、空を切り裂き、その木彫のようなたくましさ溢れる顔に衝撃を与えるべくつき進ん
だ。灰色の瞳には驚いた男の表情があった。
  パシッ!
  肉のぶつかりあう鈍い音が響く。
  しかし、それは彼の頬で生じたものではなかった。彼の右手が襲ってきた蛇の首ねっ
こを押さえつけたものだった。彼女の腕は届く寸前にたくましい男の手によって止めら
たのである。
  「くそぉ!!」橋本は足をばたつかせた。しかし、馬乗りになっている男を女がいく
らやったところでかえせるわけがない。おまけにクッションのよいベッド上のことだ。
暴れても下側の橋本の管理している中村孝子の方がめり込んでしまって、完全に力を吸
収されてしまう。
  「ちきしょう!!俺は絶対に−−−−」
「なんだ、言ってみろよ。」彼はあざわらった。「さっき男の名を呼ぼうとしていたな。言ってみろよ、さぁ。羅清仲右衛門といってみろォ!」
  そのとき、後方でドアが蹴破られる音が轟いた。

  6号室と書かれたドアを蹴り開け、男は乱入した。しかしかっこよい登場とはほど遠
いものだった。ふかふかとしたじゅうたんでまず足が取られ、ベッド・ルームに転がり
出るさまとなった。だから、好敵手側にとってみれば彼が尻から登場したことになる。
  「羅清……………」杉丘はぼう然とした。「何故、御前が」
  正面を向いた羅清仲右衛門に、自分の恋焦がれる相手が肌を露にし、男に馬乗りにな
られている光景が飛び込んだ。ホモ・サピエンスのハードウェア・ソフトウェア共に1
00%の開放を起こしている彼は飛び起きた。そして、目にも止まらぬ早さでベッドへ
と馳せた!
  「ちきしょう、俺の好きな人にさわるなァ」と橋本扮する中村が絶叫する。
  飛び込んできた羅清はこの騒乱の中で事を冷静に考えようしている杉丘に向かって稲
妻のような左パンチを浴びせる。それによって男は女の上から噴き飛ばされ、ベッドか
ら落ちた。それに続いて奇人もベッドから飛び降り、相手のガウンの衿を掴み、首を絞
める。
  「僕は孝子さんを好きだぁあああああああああああああああああああああああ!!」
  全て思い通りに行く男と大抵の事が失敗する男が激突した。杉丘は初めて彼を完全に
くじこうとする相手の攻撃に防戦一方だった。羅清の繰り出すパンチなど普通ならば笑
って受け止め、逆に一発で彼を倒す力を有している筈なのに、今回は違った。パンチは
全ての面に渡って100%の力を発揮しているホモ・サピエンスのエネルギーが凝縮さ
れていた。彼のパンチが頬に激突するたびに彼の顔は恐怖に歪んだ。彼を肉体的にも精
神的にも粉砕しかねない強大なパワー******それが彼を打ちのめしているのだった。
  奇人には何がそうさせているのか分からなかった。ホテルに入る姿を見た瞬間、論理
立てていたことよりも先に感情が爆発した。そしてその爆発は本来有しているシステム
保全プログラムの緊急モードにシンクロし、彼を“開放”させてのだ。
  ぐったりとなった杉丘をまだ撲り続けていた。しかし、その勢いは衰えつつあった。
  ホテルの警備員がドヤドヤと入り込んできて彼を伸した。大の字に寝かされその上に
4人がのっかり押さえ込んでもまだ余力は爆発を続けていた。そして、ベッド上から半
身を起こして見ている橋本である中村孝子に向かって絶叫を続けていた。
  「好きなんだぁあああああああああ!あんたがどうしようもなく好きなんだああああ
あああああああああああ!!逃げないでくれえぇ!!好きなんだああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」  押さえ込んでいる警備員がぼかすか撲りながら言った。

  全身の命令系統に行き渡っていた彼の触手が縮まり出した。そればかりではない。“
開放”と同時にやってきた激痛が彼を襲い始めていた。彼を拘束するくさびが現れる。
彼は、中村孝子というハードウェアを制御しきれず再びもとの間借り人に戻ってゆく感
覚を覚えていた。そして彼は気を失った。
  中村孝子の体は修羅場となったベッド・ルームの中で、静かに崩れた。
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