AWC ☆Mergeing!Mergeing!!2☆《5》L103


        
#1464/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (FEC     )  89/ 3/ 7   7:32  (105)
☆Mergeing!Mergeing!!2☆《5》L103
★内容
                                      5
  「なるほどねぇ。」
「そんな呑気な事言っている場合じゃないでしょ!」
  翌日、2時間目の移動時間に羅清を藤田は尋ねた。勿論、昨日の事を話すためである
こういう状況になった以上、この奇人に頑張ってもらうしかあるまい。そのうち連絡が
とれるなら中村の付き合っている相手とかいう橋本にも会うつもりだった。
  「しかしさァ、中村さんがそう望んだンなら僕がどうして拒むことが出来よう。」
「何言ってんのよ!あの子を取られちゃうのよ!」彼女は物分かりの悪い生徒に教える
新米教師の心境であった。「もう、理屈じゃないのよ。大体、杉丘って奴のこと知って
いるンだったら−−−」
「勿論知っているさ」言いかけている女を男は制した。「しかし、今、こんな短時間に
きいただけじゃあ、いくら分析が本業の社会観察クラブのメンバーと言えども、答えを
出すわけにはいかないよ。」
「OK。今日、時間ある?」
「3時に、ぶーむでどう?」
「いいわ。じゃあそのときにしましょう。」
「中村さんは連れてこない方がいいね。」
「今日はまだ来ていないんだ、あいつ。」藤田の細い顔が歪んだ。「あいつ、何考えて
いるんだろ………」
  「教えてくれてどうもありがとう。じゃ、待ってンから。」暗くなった藤田を励ます
かのように言って、羅清仲右衛門は雑踏の中に消え去った。
  女は暫くたたずんでいたが、溜息をつくと、次の教室へと向かった。

  中村は家にいなかった。それどころか、大学には通常通り向かっていた。もよりの駅
で降りた後、向かわなかっただけだった。彼女は今、街の大手ディスカントショップに
いた。平日なのでさほど混んではいなかった。店員も暇そうで、ちらりちらりとこちら
に視線を移している。
  橋本に言われた通り、昨日ははしゃぎすぎたように思えてならなかった。今にして思
えば、普通のからかいというよりは悪意に満ちた行為だった。きっと、藤田は嫌な思い
をしたんだろうなァ。
  しかし、藤田だっていけないのだ。あの奇人を押しつけようとしたではないか。いく
ら心配しているという理由があっても、そこには個人的な楽しみが混入していたに違い
ない。私には怒る権利があるわ。大体、何よ!こんなに運の悪い人間なんているかしら!小説の登場人物だったら有り得そうな設定だけれども!!他人とはマージングしてしま
うし、悪友は私をからかう。私だってサークルに入って活発に活動したい。でも、頭の
中の間借り人のことを考えたら出来ないじゃない。同伴者同行のサークルなんてきいた
ことがない!!それに、悪友が押しつけた奇人が見抜こうとしているし………そんなこ
とされれば、どうなるか分かったもんじゃない。
  でも、杉丘って人をよくも知らないのに………なんだか妙なことになっちゃって、い
いの?
  「いらっしゃいませ、お探しものでしょうか?」
  ワープロを弄って考え事をしていた彼女に店員が寄ってきた。彼女は狼狽し、2、3
言葉にならない言葉をはいてその場から逃げ出した。あとには、世間話を再開した店員
達の声だけが残った。

  3時一寸前についたのだが、既に羅清は昨日と同じく窓際の席に座っていた。彼女は
駆け寄り、彼の前に腰を降ろした。そして、辺りを窺ってから安堵した表情になり、彼
を見つめた。
  「安心しなよ。ここにはあいつはこないさ。」明るく奇人は振る舞う。「ああいう奴
はこんなところには目向きをしないってわけさ。あ、頼んだ?」
「ええ、下でコーヒーを。」藤田も明るく努めていた。が、ひきつっている表情から緊
迫の空気が洩れ出ていた。「早速、話に移りましょう。」
「いいでしょう。」社会観察クラブメンバーの眼光が鋭くなった。

  橋本がいなくなってしまったかのような状態になってしまったことも、彼女の足を重
くしている原因の一つだ。昨日の風呂での話の途中での行方不明より、今になってもま
だ復活してくれてはなかった。彼女は、今朝彼が起こしてくれるものと期待していたの
だが、彼女を起こしたのはタイマーセットされたコンポのラジオチューナーだった。悔
しくって、思わずリモコンを投げてしまった。もしかしたら、壊れているかもしれない。  街のビルが崖っぷちのようにそそりたつ。さらがら彼女は谷間にたっているかのよう
だった。様々な色彩が狂気のように氾濫した岩肌。なんとなく、彼女の現在の胸中を示
しているかのようだった。
  “おーい………”
“…………………………………………………………………………………………………”
  やはり、応答は無かった。

  「あいつと私、付き合ってたのよ。」藤田の言葉が重い。「2週間前、たまりかねて
ね、それまでうっせきしていたものが爆発しちゃって………」
「その後は繋がりがなかったのかい。」
「あいつ、それからどんどん私に対して厭味っぽくなってね………何度も衝突を起こし
た。だけれども、終わったことなのにそんなことしてたってしょうがないじゃない。
だから、あいつを避けまくった。そしたら………」
「昨日、出会っちゃったという訳だね。」羅清は腕を組んだ。
「それが偶然だか、それともあいつがそうしたことなのか分からないのよね。」
「どうして。」
「あいつを避けている私と偶然街にいっぱいあるレコード店のひとつで会うと思う?も
っとも、偶然というものがそんなものなのかもしれないけれどもね。」
「………う〜ん。」
「あいつはプレイボーイだから、しゃくだったのね。だけれども冗談じゃない。女は男
のおもちゃじゃないんだ。私の知っている限り3人は彼に泣かされているのよ。全く!」「………うむ。」
「昨日も近寄ってきたから振りほどこうとした。だけれど、孝子がいたし、いつもみた
いにおもいっきり出来なかったの。そしたら孝子が何時の間にか来ていて………何をか
んちがいしたんだか、ちゃちゃを入れ始めたの。そのうち、あいつと話すようになり、
あいつはからかっている筈の私なんかおっぽり出して、孝子に焦点を合わせた。」
「中村さんにも気があったんじゃないか?」
「そんなことない!」藤田はかぶりを振った。「私が困っているのが面白かっただけな
のよ。なんであんなことしたんだろう?だけれども、杉丘はそんなつもりじゃないんだ
から。きっぱりと、言い切ったのよ、モノにするって!」
「………本人に自覚がないんだったら……」
「ちょっとしっかりしてよぉ!!あなただって、彼女のことを−−−」
「ちょっと待った。そんな言葉は軽率に言わないでくれ。」
「だって、そうでもしないと………」
  彼らの会話はコーヒーを持ってきたマスターによって遮られた。ずいぶん遅いね、と
羅清がいうと、風邪気味でねと男は笑った。ここの喫茶店はまったくゆっくりしている
んだからこまっちまうよ。
  藤田の視線が本物なのに気付いた。作った笑顔を彼は消した。
  「分かっているさ。みすみす失敗なんかさせやしないさ、彼女に。」

  橋本はいた。しかし、自分の事が誰なのか、いや何であるかさえも分からぬ程度に陥
っていた。彼を縛りつける激痛は今だに衰えることを知らなかった。彼は真っ白な光の
中でただ痛がっているだけに過ぎない。意識の塊だけなのだ。
  そこにコールしてくる中村の声を理解出来よう筈が無かった。

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