#1451/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (NQC ) 89/ 3/ 3 19:10 ( 64)
中型SF小説 渇きの海(5)【愛】・・・・・・・・天津飯
★内容
私は再びブラック・ジャックの手術用ベッドの上で覚醒した
メリーが私を呼んだ
手術室の中は冷たく光る手術道具が天井から
林のように垂れ下がっていた
部屋の中には誰も居なかった
再びメリーが私を呼んだ
メリーの声はすぐそばから聞こえた
よろよろと起き上がった私は長い黒衣を纏っていた
私は随分痩せてしまった
ベッドから歩きだして
私は自分がびっこをひいているのに気がついた
部屋の向こうにメリーが居た
「メリーー」
私はメリーを呼んだ
私は足を引きずりながらメリーに近ずいた
しかし それは鏡に写った私の姿だった
私は永い間 鏡に写った私の姿を見ていた
それは まぎれもなくメリーの姿だった
メリーの声が私の中でした
「あなたの 残された右大脳半球は私の躯の中に移植されました」
私はメリーの躯の中にいるのだった
私はメリーの躯の中に移植され メリーと意識を共有することによって
初めて メリーの秘密を知った
メリーは先天的に右大脳半球を持たずに産まれてきたのだった
それが感情が依存する右大脳半球ゆえ 彼女は感情に乏しく
事故で船内に積荷の濃縮された[悲しみ]が漏出したときにも平気でいられたのだった
レーザーで私の左大脳半球を狙って灼いたのも
自分の持たない右大脳半球を潜在意識下で求めていたからだった
メリーは私の脳を移植したと言ったが
私にはメリーの躯が私に移植されたとしか思えなかった
彼女と意識を共有しながら混乱せずにいられたのは
メリーが相変わらず感情に乏しく無口だったからだろう
彼女の意識はほとんど論理で埋まっていた
「メリー」 背後で声がした
振り返ると そこに私が居た
いや 私そっくりの私とメリーの間に生まれた息子がいた
メリーは 彼を日本語で愛と名ずけていた 愛はどうみても私だった
彼は 私が人工冬眠カプセルの中でメリーの内に生命の芽生えたのもさえ知らずに
眠っている間に産まれて育ったのだった
「メリー」 愛の腕が私の躯を抱いた
逞しい男の腕だった 私は急に息苦しさを覚えた
顔をのけぞらして新鮮な空気を求めたが その口は愛の口によって塞がれた
舌だけは入れないでくれと私は祈った
私は愛の腕の中で もがいたが愛の逞しい腕は軽々と私の躯を抱き上げて
ベッドに運んだ 私の美しく細い躯は愛の手で裸にされ
愛の逞しい躯に組み敷かれた
愛の躯が私の躯に入ってきたとき
私はおぞましさに震えながらメリーの意識に向かって叫んだ
「メリー 君はなんということをするんだ」
返ってきたのはメリーの甘いうめき声だった
私の心に諦めが広がり 愛のなすがままに抱かれていた
しかたのないことだと思った
虚空に浮かぶ この鉄の箱の中でメリーのような美しい女と二人きりで居て
メリーを抱かずにいられるわけがない
愛が私に近ければ近いほど それは無理のないことだった
たとえ それが母と子であろうがなんであろう
二人きりになった宇宙船の中で 孤独な人間を支配するのは本能なのだ
やがて私の意識にも しびれるような快感が漣のように押し寄せ
かってない深い快感に私の思考は停止した
やがて私はメリーの獣のような叫びを聞きながら
私自信が彼女と交わっている錯覚の中に落ち込んでいった
つづく
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