#1358/1850 CFM「空中分解」
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ユミアウラ創生紀 第3話<炎の一族 カセイ> (5 舞火
★内容
はふ
息を吐き、整える。
間合いを計る。
猪のいる辺りから何ともいえない、強い気が湧き起こってる。邪悪な黒い気。
神経を逆なでする。
間違いない。
あの時も感じてた。今もはっきり感じる。
奴は魔族の洗礼を受けてる。
あの体躯。あの力。あの敏捷性。普通の野性動物にしては、どこか異状なほどの部分。間違いない。
奴は魔族。下っ端の、それでいて凶暴な魔。
二度目の対戦。決して負けぬ。油断はせぬ。決して。
少しずつ近付いてくる。奴はまだ気付いてない。
息を整える。気配を断つ。
全て一瞬にして行なわれた。生き抜くために本能として染み付いていた。
『聖なる石』の赤い服に付けられた鞘から剣を引き抜く。赤い『聖なる石』の剣。
体を屈め、伸ばす。
一瞬にして二長身分程の高さまで飛び上がり、背後の枝を後ろ足で蹴飛ばした。右手
に細身の剣を振りかざし上空からまっすぐ突く。
全ての獣の急所ともいうべき頚に向けて、まっすぐ剣先が突く。
猪が上空を見た。
そこに剣先が来た。が、一瞬早く身をよじり、剣は頚を外れ、肩に深々と刺さった。
「ちっ」
鋭い舌打ちとともに、体を回転させ地上に着陸する。
ぐおおぉぉぉ
それこそ、全体重を剣先の一点にかけていたため、どんな硬い毛皮と言えど耐えよう
筈もない。肩に突き刺さった剣はそのまま右足すらも貫いていた。
「何て奴だ」
改めて驚愕する。
奴はまだこたえてない。確かに動きは鈍ったがそれでも倒れようともせず、ゆっくり
と体を巡らした。
お互いが動きを止め、対じする。
ふん。
わずかにゆらぎ、隙を見せる。
奴は乗った。
まっしぐらに突っ込んで来る。軽いあざけりの声と共に、地を蹴った。
☆
あの広場のただっぴろいとこならいざ知らず。
縦横無尽に気の枝が重なる所では、段然こっちの方が有利なんだよ。
突っ込みを軽くかわしたあたしは、木の枝の上にいた。腰に結わえていた鞭を取り出
す。この前のよりやや幅広の鞭。
どうやら、こいつを使った方が手っ取り早そうだな。
枝がゆらいだ。
下を見ると、猪が幹に体当たりを喰らわしている。
ふふん。随分と力には自信があるようだ。だが、右足を使えぬ不自由さは敏捷性を欠
いたようだ。
この前とは違う。二度とあんな不始末はしない。
「魔め。紐剣の技見せてやる」
これは怒り。
幹が大きく揺らいだ。そろそろ限界。
足に力を込め、跳んだ。
空中で大きく回転し、右腕を振り降ろす。鞭は生き物の様に伸び、間違うことなく、
猪の頚に巻ついた。
足から着地する。
「同じ失敗はしないんでね」
つぶやく。と。
再び、跳んだ。着地地点は猪の背。
滑りやすい毛の上にすくっと立ち上がり、鞭を思いっ切り引っ張った。
柄の一部を操作する。
ぐおーーっ!!
鞭は一瞬にして細い刃と化した。
これが紐剣の技。紐のようにしなやかな鞭が、一瞬にして鋭い刃を持つ鞭となり、必
要ならば剣となる。あたしは、さらに剣と化させた。
頚の周りの刃は剣の姿をとろうと激しく頚を削る。
血が噴き出した。
猪がのたうちまわり、あたしは振り落とされ、地面に叩きつけられた。
「くぅ!」
受け身をとったから体の方は大丈夫だが、何せ左腕の傷にはもろに響いてくれた。
脳天まで響いた。
「ちっくしょおぉ」
奴は、頚動脈から噴水のように血をほとばしらせていた。
これこそが紐剣の技の力。ただ、一閃にして、頚を落とす。
剣と化した紐剣は手元に戻っている。
あたしは、両手でそれを握り、奴の目にめがけ、全体重ごと突いた。
☆
激しい衝撃が腕に来た。
牙が体の直前で止まった。
足を屈め、上空に跳ぶ。別の鞭を使って、はるか上空の枝に巻きつけ、大きく弧を描
いて枝の上に降り立った。
幹によりかかり、息を整える。
地響きが起こった。
下を見ると、猪が横たわってた。
「ほお」
大きなため息。
枝の上に座り込み。……幹に寄り掛かる。目をつむり、安堵のため息をつく。
解放感。
目を開け、下を見下ろし。
跳んだ。
鞭を使い、枝を移りながら、下に降りた。
血の海だった。
まだ、血は噴き出していた。
慎重に気を窺う。
死。
死の気配が漂っていた。 <続き>