AWC 「秋本ヨナの復活」第8話 ハワイ   山椒魚


        
#1284/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (RMF     )  88/11/27  21:18  ( 99)
「秋本ヨナの復活」第8話 ハワイ   山椒魚
★内容

 秋本氏という不思議な人物をとくキーワードの一つはハワイである。AWC
での氏の短い経歴は、ある意味では、ハワイで始まり、ハワイで終わった、と
言ってもいい。「はじめまして、ハワイに行けると聞いたので応募します」。
これは、K&D大賞応募作品「叫びのICE・TEA」をひっさげてAWCに
衝撃的なデビューをした時の秋本氏の第一声であるが、今年の2月にはほんと
にハワイに行っている。

 K&D大賞を授賞したからではない。もちろん授賞はしたのであるが、K&
Dにハワイ旅行のような豪華な賞品がある訳がない。実は、秋本氏が勤めてい
た会社の研修旅行で行ったのである。しかし、ハワイから帰国したとたんに胃
潰瘍が悪化し、おまけに4月には会社を辞めている。勤務地が遠く、責任の増
すポストへの配転を申し渡され、食って寝るだけの生活になりそうになったた
めである。つまり、現実にハワイに行ったことが、下り坂の運勢を呼び、パソ
コン通信の世界から引退する遠因になっているのだ。

 ハワイで何かよからぬことがあったのはないだろうか。そう思って、山椒魚
は、「秋本骨つぎ堂の逆襲」(ALOHAリポート)を丹念に読んでみた。

 「まずはハワイ。ワイキキビーチ。前回も思ったのでありますが、さすがに
白人女性の後ろ姿は最高でありまして、あのヒップアップの見事さは、日本で
はめったに拝めない至高の芸術でありまして。鳴呼!よかった。よかった。ハ
ワイ万歳!前回、感涙にむせんだ秋本君でありましたが今回も全く同様。もう
帰ってもいい。そんな感慨を抱かせるに充分なインパクトを与えてくれます。
ところが、そのワイキキビーチに一つの異変が生じておりました。それが何を
申しましょうや。ストリートガール嬢の大量発生でありますのです」。

  というような淡々たる描写であるが、秋本氏がストリートガールと遊んで、
エイズになったという形跡は見あたらない。遊びたがっている友人のために部
屋を貸してやったりはしているが、エイズなんかで死ぬるわけにはいかない、
1999年まで永生きしてノストルダムスの予言が的中するかどうかを見とど
けたい、と秋本氏自身は自重しているのである。

  結局、秋本氏の運命を急転させるような出来事はハワイでは起こらなかった、
兆候のようなものがあるとすれば、それは秋本氏の発想そのものの中にあるの
か、あるいは作中人物の恨みによるものとしか考えられない、というのが
(ALOHAリポート)を解読した山椒魚の結論である。

 秋本氏の文学的発想には明るさと暗さがチグハグな形で交錯している。常夏
の島ハワイといえば、明るいイメージであるが、秋本氏は、そのハワイで突如
として死について考えたりする。

 さきほど引用した文章の直前は、「人には誰も首吊りの自由が与えられてい
る、こういう人生の結論に達したのが、二十歳の時でありました。それから後
は煙草が吸いたいためだけに生きているような人生でありますが、歯歯歯!の
歯」と書いている。どうも秋本氏には「二十歳のエチュード」の影をいつまで
もひきずっているようなところがある。わざわざハワイまで行って、このよう
な影を思い出すというのがよくないのかもしれない。

 作中人物の恨みだとすれば、デビュー作の「叫びのICE・TEA」及び第
2作の「その前のお話」が問題である。秋本氏は「ハワイへ行けると聞いたの
で応募します」と言って、「叫びのICE・TEA」を発表し、「その前のお
話」では、あきもとの「叫びのICE・TEA」をなにとぞ、なにとぞ、よろ
しくお願いします、と絶叫しているが、この二つの作品の登場人物にも作者と
同じようにハワイへ行きたい、と言わせている。

  ところが、自分だけさっさとハワイに行って、作中人物は放ったらかしにし
てしまった。これはよくない。たとえ、会社の研修旅行で行ったにせよ、
(ALOHAリポート)で彼らのことを思い出すとか、お土産を買ってくると
かの気配りをしておくべきであった。

 まあすんだことは仕方がない。今後の秋本氏の運勢を好転させることを考え
よう。そのためには、作中人物に入院中の作者を見舞わせるのが一番だ、と思
った山椒魚は、早速、「叫びのICE・TEA」のたかしと京子、「その前の
お話」のたかしと松村ミカ子と連絡をとり、川崎市民病院に向かわせた。二つ
の作品のたかしは同一人物で、秋本氏の分身のようなところもある。

 「秋本さん、お見舞いにきました」。
 「おお、たかと京子か、ありがとう」。
 「あーん、わたしだって、見舞いにきてあげてるんだよう」。
 「ごめんよ、ミカ子、お前は小さいから見えなかった」。
 「わたしのウンコは、とても大きいと人に言われているのに」。
 「おい、やめてくれよな。くその話なんか」。
 「ヤ、ヤダー、たかしさん知らなかったのぉ。わたしんちの猫の名前だよぉ」
  「馬鹿かお前」。
  「エー」。
 「わかった、わかった、喧嘩はよせ。俺はもうその手の話はやめるつもりな
んだ。イエローからホウィトへのイメージ転換をはかり、川崎から代官山へ引
越し、お笑いから恋愛小説へ文体を模索しているところだ」。
 「じゃあ、わたしたちはどうなるの」。
 「俺たちを見捨てるんですか」。
 「ハワイに連れてってやると言ったのにィ」。
 「わたしだって、ハワイがかっているというから、ICE・TEAを下さい、
と声がかれるほど叫んだんだよぉ」。
 「秋本さん、俺たちに黙ってこっそりハワイに行ったそうじゃないですか」。
 「ズルーイ」。
 「ヒドーイ。わたしたちをダマしたのね」。
 「ダマした訳ではない。あれは会社の研修旅行なんだ」。
  「それなら、俺たちがハワイに行けるという話はまだ生きているんですか」。
  「まあ、そうだ」。
 「よかったな、京子、ICE・TEAを下さい、と叫んだのはムダではなか
った」。
 「たかったら、京子さんとは別れたって言ったくせに。エーン、どうせわた
しは行けないんだから」。
  「泣くなよ。ミカ子。あと一人ぐらいならなんとでもなるさ」。
 「ほんと?」。
 「本当さ。うそじゃない。なっ、ミカ子」。
 「うん」。
 「秋本さん、よろしくお願いしまーす」。            (続)




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