#1285/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (RMF ) 88/11/28 6:22 ( 99)
「秋本ヨナの復活」第9話 ようこそAWCへ 山椒魚
★内容
秋晴れの土曜日の朝、東京駅八重洲口から1台のマイクロ観光バスが出発し
た。バスの中では乗客がてんでばらばらに座り、シラけたような顔をしていた。
無理もない。美しいバスガイドの姿はどこにもなく、そのかわりにくたびれた
中年男がマイクを持って挨拶を始めたからだ。
「皆さん、本日はこのバスに乗って頂いてありがとうございます。心より歓
迎させて頂きます。バスはこれから川崎方面に向いますが、皆さんに快適な旅
を楽しんで頂くために私がしばらくの間、お相手をさせて頂きます。私の名前
は、山椒魚、八墓村出身の山椒魚と申します。どうかよろしくお願いします」。
「さて、本日ご招待させて頂いた皆さんは、このたびAWCのK&D賞に応
募された新人作家の方ばかりです。実は私もAWCでは新参者の方でして、本
来なら、こうして皆さんのお相手をさせて頂けるような立場ではないのですが、
実はAWCのSIG−OPのうち1人はただ今留学中、1人は入院中、1人は
行方不明中でありまして、今までクエストさんというSIG−OP代行が切盛
りをしておりました。ところが、このクエスト代行がソフトボールで指を骨折
してしまったのです。クエストさんがコケても有力な常連は何人かいるのです
が、コスモパンダさんは肝臓が悪い上にK&Dの選考委員としての公職で忙し
く、らんなさんは病気でもないのに入院したがっており、その他、ひすい丘舟
さんなども何やかやで忙しく、結局、五体満足でヒマなのは私だけ、という訳
でやむをえず出てまいりましたので、ご了承下さい」。
「それでは、これからの予定を申し上げます。実は、AWCにはカラオケの
店がありまして、その店で新人作家の皆さんの歓迎パーティを開くことも検討
したのですが、時節柄、パーティは自粛し、そのかわり競馬、競輪、ソープラ
ンド、快楽と怨恨の町、川崎の観光旅行に出かけることにしました。但し、本
日は予算の都合で、競馬、競輪、ソープランドにはご案内出来ません。行きた
い人は、後でひとりこっそり行って下さい」。
「川崎に着きましたら、まず、市民病院に入院しておられる秋本さんという
方のお見舞いを御一緒にして頂きたいと思います。秋本さんは、AWCの偉大
な奇跡とまで言われた天才作家ですが、胃潰瘍を患い、残念ながら既にAWC
を退会しておられます。秋本さんには「ようこそAWCへ」という作品があり
ます。この作品は、昨年の今ごろ発表されたもので、当時のAWCの主要メン
バー全員が登場しております。もし秋本さんがまだ在籍しておられたら、皆さ
んも歓迎の言葉を頂き、おそらく1988年版の「ようこそAWCへ」に登場
人物に加えられていたことと思います。まことに残念なことでございます」。
「秋本さんは、純文学系の作家でありますが、たとえば、「寒くなってきた
ね」「ええ、秋本っくに終わったって感じ」のように人名をもじった駄洒落の
名人でもあります。駄洒落は文学ではないとお考えの方もおられると思います
が、秋本さんの文学世界は、駄洒落と純文学とが共存しており、「ようこそ
AWCへ」の他にも「AWC人名駄洒落講座」という面白い作品もあります」。
「AWCのメンバーを登場人物に使うというのも秋本作品の一つの特徴です
が、この手口はクエストさん(「噂のスーパーガール」)やコスモパンダさん
(「APPLE COMPLEX予告編」)もやっておられ、私もやっておりまして、これ
はもうパソコン通信文学の特徴と言っていいのではないか、と私は考えており
ます。パソコン通信は、ハンドルネームを使って知らない人とメッセージのや
りとりをするお遊びですから、それ自体がドラマです。このパソコン通信のド
ラマ性を作品の中にたくみにとりいれることに成功した代表的な作家が秋本さ
んなのです。それでは、どうやら川崎市民病院に到着したようですので、足元
に気をつけてバスから降りて下さい」。
秋本氏は、病室で気持ちよさそうに寝ていた。幸せそうな寝顔であるが、い
つまでも待つ訳にはいかない。山椒魚は、耳をひっぱって、秋本氏を起こした。
「秋本さん、今年のK&D賞に応募した新人たちを連れてきました。まず、
大門鉄也さんを紹介します」、と言って、山椒魚は、大門氏を秋本氏のベッド
の近くに押しやった。秋本氏は、目をこすって、しばらく大門氏を見つめ、
「新人にしてはやけにひねているな。それにどうも見たことのある顔だ。ク
エストさんに似ている」、と言った。
「おそれいります」、と大門氏は神妙に言った。
「ちょっと待って下さい」。山椒魚はあわてた。「そういえば、大門さんの
作風は、クエストさんの手口に似ているような気がしますが」。
「そうでしょうか」。大門氏は、ケロっとして言った。
「今日は純粋な新人だけを連れてくることになっているんですがね。まあい
いか。それでは、五月うさぎさん、こちらへどうぞ。秋本さん、この方が7篇
もの作品を応募されたあの五月うさぎさんです」。
「女性なのかな?」。秋本氏は質問した。
「さあ、私も実際には逢ったことがないから確かだとは言えませんが、文体
から判断して、多分女性だと思います」。
「そうですか、それならK&D賞はあなたのものです。選考委員のコスモパ
ンダさんには私から電話をしておきます。どう、今度デートしょうか」。
「秋本さん、あなたは入院中だということを忘れないで下さい。次はm.m.
さんです。この人の「天の上の懲りない面々」はなかなか面白い作品ですよ」。
「女性なの?」。
「よくわかりませんが、多分男性じゃないですか」。
「男性か。まあ、頑張って下さい。次は?」。
「槙浄秀さん、この人は実力派ですね」。
「秋本です、よろしく」。
「槙浄秀です、こちらこそよろしくお願いします」。
山椒魚は、二人のやりとりを注意深く観察した。槙浄秀氏の文体は、秋本氏
の文体にかなりよく似ている。ひょっとしたら、秋本氏が別のID番号を取得
して槙浄秀氏になりすましているという可能性も考えられる。しかし、二人の
様子には特にあやしいところはない。クエスト氏は、槙浄秀氏の文体は直江屋
緑字斎氏に似ている、と言っていた。やはり別人なのだろうか。
「山椒魚さん、何をジロジロ見ているんですか」。秋本氏が言った。
「実は、お二人が同一人物ではないかと疑っているのです」。
「歯歯歯、おかしなことを言う人だ。そう思いませんか。槙さん」。
「ハハ、おかしいですな」。
なるほど、笑い方が違う。どうも別人のようだ。たとえ同一人物であったと
しても、パソコン通信のつきあいだけでは証明することは出来ない。「ようこ
そAWCへ」といってにわかじたてのバスガイドをかってみたもの、AWCの
実体は幽霊のグループのようなものなのだ。 (続)