AWC 恋愛分析人(中) ひすいがくしゅう


        
#1183/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (FEC     )  88/10/14   7: 7  (111)
恋愛分析人(中)                      ひすいがくしゅう
★内容
  次の日は雨だったために、歩いて通学せねばならなかった。歩き方の悪い私はすぐに
もズボンの裾の内側と靴の先に汚れを作った。20分も歩いて駅まで行かねばならない
ために、つくころには見事に靴内は濡れてしまっていた。ホームで電車を待つ間、私は
足を動かしてそれをグチョグチョと音を立てさせていた。
  こうなることは以前から分かっていた。クラリーノの靴を買えと親には言われていた
が私はいつも地味なカジュアルシューズを買ってきたのだ。別に理由は無かった。ただ
靴ごときに金をかけるのは馬鹿げていると思ったのである。例え、雨がふって靴や靴下
を洗う経費の方が遥かに上回るということが分かっていても、その考えは拭えなかった。  今日の授業は簡単であった。あっという間に過ぎ去ってしまった。もっとも、これは
寝ていたためかもしれない。放課後は3年生は先輩面をして部に遊びに行くということ
もあるのだが、2、1年のクーデターによって文芸部を除籍されてしまった私には行く
場所が無かった。
  しばらく考えた末に、麻倉の入っている天文観測部を訪ねることにした。天文観測部
の部室に到達するには文芸部の部室を通らなければならなかったので、多少足運びが悪
かったのであるが思い切って通り過ぎた。あの馬鹿共にびくびくすることはないじゃな
いか!!
  麻倉はすばりいた。後輩の岸仲と望遠鏡の手入れをしているところだったので、よう
と、声をかけるだけで私はそこらの椅子に腰かけてその作業が終わるまで待つことにし
た。

  「あの子とはあってないんだ?」
「ああ、ふられたからね。」
  6時を過ぎるとこの時期さすがにまっくらになる。今日は雨降りなので天はしらっち
ゃけている。さすがに秋も深まったと見えて、少々肌寒い。
  下駄箱で濡れた靴に足を入れることくらい嫌なものはないな、私はそう思った。分か
っていながらも、こいつを利用しなければ家まで帰れないのだ。歩いて足の感覚が慣れ
るのを待つしか、対抗策はなかった。
  麻倉は快適そうに靴をはいていた。多少、羨ましげにそれを眺めていたがそれもやめ
た。たかが足に不快感がある程度で、自分の感性や考えで選んだ靴に不満を持つのであ
れば、自分の生き方さえも根本的に無理がある、という考えに到達せざるを得なくなる。  「秋の長雨っていうけどさぁ、まったく嫌になっちゃうよね。」
「まあね。」
「天文観測は出来ないし、気分も滅入ってくる。」
「御前が滅入ることがあるなら、俺なんか死んでいるよ。」
「あ〜ら、あたしだって悩むことぐらいあるのよ。」
「ほほ、初耳だね。」
  「話はまたもとに戻るけれども」彼女は傘を深々とかぶった私を覗き込んだ。「文芸
部を除籍にされたって本当なの?」
「らしいね。」
「らしいね、て………。自分のことでしょ?」
「しらねぇーよ。後輩が決めたことなんだから、俺が知ったことかい。」
「で、どうしたの?」
「どうもしないよ。」
  「……やっぱり、内山さんとのことが残っているの?」
「残っていないと言えば嘘になるがそれだけじゃない。」私は何故この昔からの知りあ
いにいつも強がりをいってしまうのだろうか、不思議に思った。「やつらがあくまでも
コバルト指向やスペース・ファンタジー一辺倒を目差しているのだから仕方ないではな
いか。」
「でも文芸部って雑多なものがあっていいはずじゃない。ハードSFや精神描写主義が
排他されることはないはずよ。」
「今の1、2年には同居する心構えはないんだろう。」
「どうゆうこと?」
  「現在の文芸部はもともとアニメ部だった奴が流れてきたんだ。アニメ部というのは
その昔、文芸部から生まれ出た部活なんだけれどもね。そこであいつらはアニメの方法
でブンゲイをやっているんだ。文芸部もアニメ部も、別の方法でやってこそお互い光る
というものだけれども、これではまったく2つ部がある意味をなさなくなってしまった
んだ。先輩の中でもいろいろ反対意見があったんだけれども、そん中でいつも反対する
俺が邪魔だったんだろうな。引退と同時に除籍だよ。もっとも、俺もあんな部にはいた
くなかったから、利害のベクトルは一致したわけだけれどもね。」
  「………」
「別にいいさ。」さて、本当かな。
  「強がり言っているな。」麻倉はわざと明るく言った。「内山さんとうまくいかなく
なって、部に行きずらいんでしょ。」
私はそのジョークをまともにとらえた。「分かれた女がいるところにすいすいと行ける
奴がいたら紹介して欲しいね。」
  「でも、そんなに陰険な人じゃないと思ったけれども………」
「奴は奴で俺との4ヶ月を記憶から忘れたいのさ。別に悪気があって除籍にしたわけじゃあるまい。」私はすくなくとも、そう思いたかった。誰でも、知ってはいても分かれた
相手が自分の悪口を言っているとは認めたくないものである。「俺もあいつを好きだっ
た人間としてこれ以上苦しめたくないしね。だからあえて、文芸部を訪問しようとは思
わないね。」
「ふ〜ん。」
  その時だった。正面に人が現れたかと思うと、その瞬間私の頬に衝撃があった。雨の
中、にじむ街のネオンが視野の中で線を引いて流れたかと思うと、腹にドンという痛さ
が起こり、私は停止した。路上に回転しながら倒れたのであった。その後、この男の攻
流れた。私はもうろうとするなかで反撃を試みたが、そういった種類の能力が具わって
いないことを証明するだけであった。鼻血が喉もとをぬらぬらさせてきたときに、最後
の蹴りがあり、出し抜けに攻撃は終わった。
「こんな男でも、惚れているとはな!!」男はうつぶせになった私に気を止めている感
じは無かった。「俺の方が、俺の方が………」
「私にはどうみても、この人の方がすばらしく思えてならないわ!」
  私は吹き飛ばされた傘を目で探していた。と、こともあろうに男の足の下で使いもの
にならなくなっているではないか。滑稽だった。持ち主同様、ボロボロとは。
  「俺から離れるな!!」と、いうことは撲った相手は麻倉がこの前喧嘩別れしたと言
っていた野ノ宮か。じゃあ、やられても仕方がない。相手はレスリング部じゃないか。
3年間まったく運動していなかった俺がどうして歯が立つものだろうか?
「もう、終わったのよ。私は貴方に興味はないわ。」白い麻倉の頬が紅潮しているのが
分かった。「待ち伏せして一方的に撲ってくる人間ような人間は絶対に許せない!」
「じゃあ、君は突然離れていった人間は悪くないとでもいうのか!」
「突然じゃないわ。前からあなたとは不協和音を奏でていたの。それを気がつかなかっ
のが………」麻倉の言葉は、どうも以前の私と現在文芸部部長である内山とのことをい
っているように聞こえてならなかった。
  「………もう一度やりなおそう………」男は急に弱くなった。もうすでに鳥は篭の中
に戻る気は無いことをしった人間がするように。
「私はこの人と………」
  男は跡切れた言葉の合い間を縫って街の雑踏の中へ消えた。次の瞬間、抱き起こされ
感覚があった。まったくずぶ濡れになったな、そう思った。
  「一体、どうなっているんだ。」
「別れるときに、好きな人がいるっていっちゃったの。」彼女は本当にすまないといっ
た顔をした。「彼、一本気だから………。」
「だとしたら悪いのは、ダシに使われた俺でもなく、ふられたあの巨漢でもなく、御前
ということだな………。」
「ほんとにごめん。」
「傘を弁償してくれればいいよ。」私は顔に手をやった。見事に恐怖映画しているよう
であった。
  「明日、佐藤さんとの約束があるのに、こんな姿になっちゃって………困るわね。」
「別に俺がデートするわけじゃあるまいし!」
  そのとき、一瞬なんともいえない表情をした麻倉が網膜に映った。それはあらゆる感
情のパターンが一斉に出たかのようなものであった。

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