#1182/1850 CFM「空中分解」
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恋愛分析人(上) ひすいがくしゅう
★内容
個人の特性というものはかなり幼いときから発揮されることがある。高校の時期とも
なるとこれに覚醒して、色々とやっている人間達がかなりの数、いるようである。例え
地獄耳をいかして情報屋になったりだ、とか。
私の場合は、物事を分析するものだった。現在流行の博物学や路上観察などというも
のの種類である。だけれども、私の対象はまったく変わっていて、人の感情であった。
人からのこの種の相談ごとなどを、独自の文字で2つのファイルに閉じる。勿論、そ
れ相当の状況説明はする。しかし、これはアドバイスというものではない。何故ならば、私はこういったものは、結局本人が決めるべきことである、と考えるからである。つま
り、データとかそういった資料ではバックアップはするけれども、余計な論理などを他
人に強要しないのだ。
これをきいた人間は、なんて暗い人間なのだろう、なんて思うかもしれない。しかし
物事には価値の差はないはずである。あるのは人間側の感性であって、それによって優
劣が決定される。つまりは各個人によって価値感が違うのであり、私に言わせれば余計
なお世話だ、ということである。
その日、私のところに相談に来た人がいた。
活発でスポーツならお手のものという、私とまるで正反対の人種である彼女とはそう
交流もあるというわけでも無かった。しかし、どっかから『恋愛分析人』としての業績
を聞くということが無いとは言い切れないし、第一『情報屋』達を利用すれば簡単に辿
れる。
肩のちょっと手前で切り揃えた髪は黒々としていた。ドライヤーやパーマによって茶
に変色していないことから、彼女が髪に対してかなりの気を配っているというのが考え
られた。縁のやや緑がかった眼鏡には度は入ってなさそうだった。あっても僅かといっ
たところか。目がいいということはさすがスポーツをやっているだけあるな。私は小柄
な方であったがそれより僅かに背が低い程度であることからも、体はきゃしゃなイメー
ジはあるものの運動に適しているらしい。
私は取り合えず、図書室で話を聞くことにした。彼女はとても快く、了承した。
「さてとどういった事ですか、佐藤さん。」
「相談なんだけれども………あ、麻倉さんから橋本くんのことをきいたんです。」
「麻倉さんから………ねぇ。」私は空をみつめ、記憶を弄る演技をした。「分かりまし
た。でも、私はアドバイスは出来ませんよ。」
「知っています。」彼女は真ににこやかであった。「だから来たんです。友人とかだと
色々とした要素が加わって、本当の映像が崩れちゃうものでしょ、だから、橋本くんの
第三者的な見方をききたいのです。」
「なるほど。」
「それに、私、他人に頼るほど弱い人間じゃないですよ」そこで彼女は肩をすくめた。
「それがいいことか、悪いことかは分かりませんがね。」
「………」
「まず、私の恋愛対象の人間から説明しますね。」驚いたことに彼女はスパッと言っ
てのけた。男女問わず、この種の言葉には意識の乱れを生じさせ、言葉を発する際につ
まったりするものである。それが無いということは、かなり決意しているか、それとも
そういったものを持ちあわせない感性なのか。今のところ、彼女の白っぽい笑顔からは
どちらとも言えなかった。「その人はとても目立たない人でして。内向的、なのかもし
れません。服とか、容姿とかに頓着がない人間みたいです。髪は分けているだけで、何
も付けていないようです。だから朝のうちはちゃんとしているのですが、午後にはなん
となく、クニャっとした感じになっちゃうんです。運動とかはあまり好まないみたいで
すが、文化系としたら瞬発力があるようで、短距離走は結構いけそうです。」
「名前は申し上げられないんでしょうね?」
「ええ、ちょっと………差しつかえありますぅ?」
「あればあるにこしたことはありませんが。でもその代わり、鮮明な説明をお願いしま
すよ。解像度が高いほど、あとで私が分析するのにいいことになりますし、そうするこ
とによってあなたの為にもなりますからね。」
彼女は首を少し右に曲げて頬笑んだ。私はギクッとした。
「英語が不得意なようです。でも、授業前には辞書で調べているようなのでやる気は
あるようです。………そうそう、やる気といえば、自分の興味のあるものにはまっしぐ
ら、という人です。それがもう、度合が違いましてね。そういうところが好きと言えば
好きなのですが。」
「性格的なものはどうですか?」
「気は短いほうでは無さそうです。じっくり考えたりする方ですね、どちらかと言った
ら。でも、即時決定をすることもあります。そうそう、さっきのことと関連しているの
ですが、興味を示さないものに関しては本当、なげやりというか、まったくやらないと
いうか………」
「なるほど。」
「団体行動では義務から参加するようですが、あまり得意ではないのかしら?」
「それは分かりませんね。仲のいい団体だったらポジティブかもしれませんから。」
「そうですね。あ、そうそう、とにかく、決められるということが凄く嫌いなようです
よ。」
「と、いうと?」
「それについては友達から聞いたから確かではないんですが………。」
「じゃ、省きましょう。データは量より質ですからね。雑多に集めれば見えてくるもの
ではありませんから。」
「はい。」日の光が彼女の薄い眼鏡をきらつかせた。
「で、この人物と佐藤さんの、何を分析してほしいんですか?」
「私とこの人があうか、です。」
トゥルルルルル、ガチャ!
「はい、橋本ですが。」
「あの麻倉といいますが、橋本くんは御在宅でしょうか?」
「………何が御在宅だよ………俺だよ。」
「なぁ〜んだ。わかんなかった。それはそうと、佐藤さんからの連絡よ。」
「そうだ!!御前、どーゆーつもりだよ。仕事を斡旋したからって情報はあげないから
な。『情報屋』になんかにね。」
「あ〜ら、随分御挨拶ね。」
「で、何だよ。」
「あのね、彼女がデートするらしいのよ。その時、付いてきてもらいたいんだって。」
「あぁ〜????」
「来週の日曜、10:00に新宿駅だって。」
「ちょっと待てよ〜、そんなことやったこと無いぜ。」
「まーまー。」
「まったく、御前って野郎はよぉー………泣けるぜ。」
「ま、いいじゃない、偶には。」
「ま、どうせ暇人ですからね、いいですけれども。」
「あ、そうそう、彼女言ってたわよ。さすがプロね、ですって。」
「プロの凄さを分かる客もプロだよ。」
「そうかもしれないわね。」
「御前もプロらしく、まっとうな情報伝達をしろよ。」
「やっているわよ。」
「ほほぅ、そうですかぁ。」
「ほほぅ、そうですよぉ。」
「ようはそれだけ?」
「そうそう、じゃ、またね。」
「おう!」
ガチャ!
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