AWC 夏休み>【ブルー・ネットワーク】(10) コスモパンダ


        
#1130/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF     )  88/ 8/28  21:12  (100)
夏休み>【ブルー・ネットワーク】(10) コスモパンダ
★内容
                (9)開 戦
 一辺が五十メートルはある黒い巨体が、海中から突然、空中にジャンプした。ケン
やリー、ヒトミの乗ったブルー202を襲ったようにも見えた。
 だが、そいつのジャンプ力は、ブルー202のホバリング高度の五十メートルには
少し足らなかった。あと僅かというところで、そいつは身をひるがえして海中に落下
した。
 落下して海中に潜った後、浮上し、海面にその巨大な姿を漂わせていた。
 そいつが海中にいる間、透明度の高いエメラルドグリーンの海は、そいつのいる部
分だけ、黒く見えた。
 それが「黒い海」の正体だった。
「ブルー202、ブルー202。高度が下がっている。危険だ。上昇しろ。ブルー2
02、どうした聞こえないのか?」
 西田の乗ったヘリのコパイ(副操縦士)が、ケンやリー、ヒトミの乗ったヘリを無
線で呼び出していた。
「後藤、あのヘリはどうしたんだ?」
「分からん、あの化け物が飛び上がって、ヘリを睨んだ途端、おかしくなった。まる
で、目に見えない攻撃を受けたようだ」
「ブルー202、ブルー202、高度を上げろ。そのままでは、海面に着水する。い
や、それ以前に化け物の餌食になる。ブルー202、岡山、田畑、どうした?」
「後藤、何とかならんのか? あれには、ケンやリー、ヒトミが乗ってるんだ」
「俺の部下も乗ってる。しかし、どうにもならん……」
 西田は後藤の胸ぐらを掴んでいることに気付かなかった。
 ブルー199の機内の人間の焦燥をよそに、ブルー202は海面に浮かぶ巨大な化
け物に吸い寄せられるように、高度を下げていった。
 そのブルー202を追っていた後藤の目にイルカ達の姿が映った。
 一万頭に及ぶイルカの群れは、海面を漂う化け物を取り囲んでいた。よく見ると、
巨大な菱形を中心にイルカ達は三重の垣根を形作っていた。
 半径二キロの大包囲網の中心で、<そいつ>は平然としているようだった。
 だが、イルカの輪から中心に向かって波の輪が、進み出した。水面に小石を落とし
た時にできる波の輪、丁度あれの逆の波が、円の中心に向かっていた。
 次から次へと……。
 そして、気のせいか、今まで超然としていた<そいつ>が、身体を揺すりだしたよ
うに見えた。
 西田も後藤の胸ぐらを掴んでいた手を外し、海面を食い入るように見つめていた。
                 ★ ★ ★
 ブルー202の機内では、三人の乗員とケン、リー、ヒトミの三人が失神状態で座
っていた。
 シートにぐったりと腰掛け、シートベルトで縛りつけられた六人は、皆が皆、額に
脂汗を浮かべ、高熱にうなされているうように、身体を捩っていた。
 時々、身体を痙攣させる姿は、まるで拷問を受けているようにも見える。酸素不足
の金魚鉢の金魚のように、口をパクパクとさせている。喘ぎながらも、何かを呟いて
いるが、言葉は意味をなしていない。
 ヒトミは喘ぎながら、自分のワンピースの水着の胸を右手で押さえ、左手はしっか
りと固く閉じたふと股に挟み、股間を押さえていた。
「うっ」と呻くと、ヒトミは右の乳房を握った。
 ついで、乳房から股間に右手を走らせると、両手で股間を押さえた。
「ギャァァァァーーーーッッッッッッ………」
 シートの上で大きく仰け反ったヒトミが、裂けんばかりに開いた口から悲鳴を絞り
出した。
 ヒトミの口から鮮血がほとばしり、白い水着の胸元に真紅の染みが付いた。
 生きたまま、身体を引き裂かれているかのような声だった。全身を痙攣させ、身体
を折り曲げたり、仰け反ったり、捩じったり、まるで火に炙られているスルメのよう
だった。シートベルトを締めていなければ、恐らくヘリの機内を転げ回っていること
だろう。
 突然、ヒトミは大きく痙攣すると、ぐったりとシートに沈み込んだ。
 息が荒く、胸が激しく上下していた。鼓動も早い。
 ヒトミは無意識に右手の甲で額の汗を拭っていた。
 全身の力を絞り出した激しい情事の後のような気だるさの中で、ヒトミはシートに
身体を預けていた。
 ピー、ピー、ピー、ピー、……。
 微かな音がヒトミの耳をくすぐった。それが何の音かは分からなかった。
「…………ままでは、海面に着水する。ブルー202、岡山、田畑、どうした?」
 誰かが、どなっていた。それが誰の声かは分からなかった。
 ピー、ピー、ピー、ピー、……。
 また、例の音が聞こえた。ヒトミはようやく、身体を動かせるようになっていた。
 朦朧とした意識の中で、このまま眠ってしまいたいという欲求と闘い、ヒトミは両
目をそっと開けた。
 全身ぐっしょりと汗をかいていた。ワンピースの水着はまるで、水から上がった後
のように、濡れていた。
「ヒトミさん、ヒトミさん、酷い! 酷いよ。止めろーっ。こいつら、ヒトミさんを
放せ! このやろーっ。うわーっ!」
 ヒトミの横ではケンがうなされていた。
「ケン! ケン、畜生。こいつら、この化け物。ケンを、ケンを……。なんて酷いん
だ! ケンから離れろ!」
 その横では、リーも唸っていた。
 ヒトミはシートベルトを緩めると、二人の様子を伺った。
「やめろーっ。この化け物、ヒトミさんをいじめたら承知しないぞ、畜生、やめろっ
たら、こらーっ。うわぁぁぁ。うっうっうっ……」
 ケンは泣いていた。
 ヒトミはケンを抱き締めた。ケンの耳元で囁く。
「ケン、ケン、落ち着いて。私はここよ。大丈夫よ。誰も私をいじめちゃいないわ。
だから、安心して、ケン。落ち着いて……」
 ヒトミは赤ん坊をあやすように抱き締めたケンを優しく揺すった。
 ケンは安心したのか、息がゆっくりと正常になり、落ち着いた。
 同じ手口で、ケンの横で暴れているリーもおとなしくさせる。
 操縦席を覗くと、大の男が二人、胎児のように両手両足を縮めて、シートにうずく
まっていた。
 操縦席の窓の外の景色にヒトミは驚いた。眼下の海面が次第に近づいているのだ。
しかも、その海面には例の得体の知れぬ化け物が浮かんでいた。
「大変!」ヒトミは操縦席の後ろから手を差し入れ、操縦稈を引いた。
 ブルー202の機体は、高度五メートルでかろうじて下降を停止し、上昇した。
 ピー、ピー、ピー、ピー、……。
 その音に振り返ったヒトミの目に、床に転がったラップトップが目に入った。
 操縦稈を片手で握ったまま、ラップトップを拾い上げた。
 表示器の文字を見たヒトミは、我が目が信じられなかった。
<YATSUO TAOSE! KAKARE!>

 海面は白く濁り、泡立っていた。化け物とイルカは本当に戦闘を始めたのだ。

−−−−−−−−−−−(TO BE CONTINUED)−−−−−−−−−−




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