#1131/1850 CFM「空中分解」
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夏休み>【ブルー・ネットワーク】(11)コスモパンダ
★内容
(10)研究者達
「こちらブルー202、心配掛けた。全員、幻覚を見て失神していた。しかし、もう
大丈夫だ」
「幻覚? 何を見たと言うんだ?」
「後藤、そんなことはどうでもいい。カメラだ。ビデオカメラを回せ! こんなシー
ンは一生に一回。いや有史以来初めてのことだ」
「お前、ケン君や部下のことは心配せんのか?」
「パイロットが大丈夫だと言ってるんだろ。なら大丈夫だ。カメラだ!」
唖然とする後藤隊長に、西田所長はわめきたてた。
パイロットは機体前部に装備されたビデオカメラのスイッチを入れた。
★ ★ ★
「このヘリにはドロップゾンデは無いの?!」
ヒトミは物凄い剣幕で乗員に尋ねた。
ケンやリーは勿論のこと、乗員達はヒトミのバイタリティに感心していた。
ヘリの乗組員を始め、ヒトミ、ケン、リーはさっきまで幻覚を見ていた。
あの化け物『黒い海』が発した、目に見えないエネルギーは皆を叩きのめした。
それぞれが思い出しても心底嫌になる一人一人異なった幻覚が、目の前に繰り広げ
られたのだ。
しかも、それらは手で触れられるばかりか、肉体的な苦痛を彼らに与えた。
精神的なエネルギー、『黒い海』の怒りのエネルギーは、物理的な力となって、ヘ
リに乗った者を貫いたのだ。
ぐったりと疲労感が身体や心の奥底に泥のように溜まり、虚脱感に心が痺れてしま
い、身体はシートに沈み込んだままだった。
その中でヒトミ一人が元気だった。
しかし、ヒトミ自身も喉を引き裂き溢れた血が、白いワンピースの水着の胸元を赤
く染めていた。腰がだるく、激しい情事を終えた後のようで、腰が抜けたようだった。
それに、彼女の白い水着の股間が赤黒く汚れていた。
どうしたことか、始まってしまったのだ。
だが、彼女はそれを隠そうともせず、ヘリの中を動き廻っていた。
二人の少年と三人の乗員を含めた男どもは、なりふり構わずに得体の知れないもの
に立ち向かおうとするヒトミに敬意を表した。
「あなた達、耳はついてるの? ドロップゾンデよ。知ってるわね?」
「あっ、ああっと。その、ドロップはない。えーと、後ろのボックスの中に、マルチ
・センサー・ブイがある」
無線係の男は、白い水着の赤黒くなった部分を見ないように気遣っていた。
「リー、ケン、手伝って!」
ヒトミはまだシートにぐったりと沈み込んでいる二人に活を入れると、ヘリの後部
の床に備え付けのボックスを開ける。
中には、二十本の中空の円筒が直立して並び、その円筒の中にそれぞれ直径十セン
チ程の筒が入っていた。
「いいこと、この円筒の蓋を開けて、中のスイッチを私の言う通りにセットするの。
分かった? 始め!」
ヒトミは小学校の先生のように号令を掛けると、円筒の端の蓋を回し始めた。二人
も負けじと取り掛かった。
数分後、三人は全ての円筒のスイッチをセットすると、ボックスの蓋を閉じた。
ヒトミは、ラップトップを操作する。
大型表示器に、風向、風力、気温、気圧、波浪、流速、音速、PH、電気伝動度、
溶存酸素、水温、水圧などの文字が並ぶ。
「オーケー、ねえ、パイロットさん。あの化け物の周囲を飛行してくれない? あま
り近くを飛ぶと、また嫌な夢を見せられるから気を付けてね」
ヘリは、『黒い海』と、それを取り囲んで飛び跳ねている一万頭のイルカ達の上空
三十メートルを飛行した。
ヘリの胴体後部から、細長い円筒が空中に次から次へと吐き出される。
空中で円筒の外被が、まるでヒマワリの花びらのように開くと、海上に落下した。
海上で飛び跳ねるイルカ達の間に、ブイが次々に浮かび、波間に漂った。
★ ★ ★
地球上に出現した最大の動物はシロナガスクジラである。
シロナガスクジラの体長は三十メートル近くに達する。まれに三十メートルを越す
個体の存在が記録されているが、信憑性に乏しい。雌の太ったシロナガスクジラは百
五十トンにもなる。
その名もない怪物、それを今、『黒い海』と呼ぶことにしよう。
『黒い海』の身体は、とにかく巨大だ。五十メートルプールを二つ並べた程もある。
シロナガスクジラの十倍はある。もし、『黒い海』の密度がシロナガスクジラと同
じであれば、体重は千トンにもなるだろう。
だが、それは有り得ない。
なぜなら、『黒い海』は海中から空中にジャンプしたのだ。その推力はジャンボジ
ェットの軽く十倍はあることになり、生物の出すエネルギーの限界を超えている。
恐らく、もっと密度が低いのだろう。
それが証拠に、『黒い海』は波間に浮いているのだから……。
『黒い海』は既知の如何なる生物とも異なっている。
沿岸警備隊のヘリ、ブルー202に乗っている海洋生物学の博士号を持つヒトミ・
マッカートニーにしろ、ブルー199に乗るナハ海洋パークの西田所長にしろ、この
ようなものの知識は無かった。
果たして、こいつは生物なのか?
★ ★ ★
『黒い海』を中心に渦が生まれつつあった。
渦は、『黒い海』を取り巻く、三重のイルカの群れの動きに従って、ゆっくりと時
計回りに動いていた。
ズバーーーーーァァーーンンン・・・。
突然、海が沸き上がると、『黒い海』の周辺の海面が爆発した。
そのエネルギーは直径十メートルの範囲の海水を百メートルまで放り上げ、それは
水柱になった。
滝のように海水が降ってきた。それに混じって、黒いものが降っている。
『黒い海』の菱形の突端が、ほんの少し欠けていた。
シュバーーーーーーンンン・・・。
再び、轟音と共に水柱が上がる。
『黒い海』の身体が、また欠けた。『黒い海』は、漸く自分の身に起こっているこ
とに気付いたらしく、身を捩った。その動きが海面に大きな波を立てる。
ジュバッ! ジュバッ! ズバーーーン。 ドバッバババーーーーン。
高さ百メートルに達する水柱が、次々に海面から立ち登った。
その水柱の一本が、西田所長と後藤隊長の乗ったブルー199をかすめた。
ヘリは姿勢を崩し、よたよたと宙を漂う。
一方、ブルー202のヒトミは、海上に投下したマルチ・センサー・ブイが送って
くる情報がラップトップに表示されるのを見ていた。
しかし、その意味を成さないデータを理解する前に、ブイからの送信は途絶えた。
投下した二十個のブイは次々に沈黙していった。
何が起こっているのか、正確なことは人間には分からなかったのだ。
−−−−−−−−−−−(TO BE CONTINUED)−−−−−−−−−−