#1108/1850 CFM「空中分解」
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●繋河高校文芸部!!●【2】 ひすい岳舟
★内容
「いえ、その、馬鹿にしているわけではありません。こういったのもちゃんとした映像
の練習ですから、ハイ。」
「慌てなさんな。俺はそんなこと分かっているよ。」
「はあ。」
「今回のは今までのカメラで撮っていたのだけれども、次のサッカー部のから『オカモ
チ・カム』を使うことにしよう。」
「いよいよ、披露することとなりますね。」
「Mk1が予想外にも良かったからね。Mk2はカメラの方が調子がワリイから使えね
ぇけど、さしつかえねぇだろう。」西山は手を止めた。デッキではテープの巻き戻しが
行われ始めていた。「ところで、文芸部の山崎が、何だって?」
「あ、そうそう、橋本先輩が来るように言ってた、との事でした。」
「何で早く言わねぇんだ!!」彼は窓に駆け寄って、ロープをぞんざいに投げ飛ばした。闇の中でのたうちまわりながらそれは下まで届いた。
「御前は御留守番ね。」彼はそういうと降下していった。
「大丈夫かい?」と江口は彼女の顔を覗き込んだ。昼間、気持悪くなって学校まで連
れてきたらバタンキュー!してしまったのである。
「もう大丈夫ですぅ」麻沼は布団の中でうなった。まったく、貴方のせいなのよ。
「悪かった。研究に没頭していたからね。」
「先輩、研究もいいですが、進路の事を考えたらどうです?」彼女は意地悪した。
「何故?」彼は本当に不思議に思った。
「何故って………3年生ですから………」
「まぁ、いいじゃないの。それよりも私はこの部にかけているのだよ、社会観察部に。」「そんなことじゃ、プータロウになっちゃいますよ。」
「それもいいじゃないの、迷惑かけないように生きていくさ。」
「それじゃ、………つまらないのではないですか?」この人はもしかして一人で生きて
ゆくつもりなのかしら。
「つまらない?どぅしてぇー。こんなに観察対象があるのに、どうしてつまらない事が
あるのかね。」
「でもねぇ………やっぱりぃ。」
その時、黒い影が窓を通り過ぎた。江口にはそれが何だかすぐに分かった。彼は窓際
にあったロープを持ち出すと、もう1度彼女を覗き込んでいった。
「『下』に行ってくるからね。」
知らないわよ。まったく、人の気も知らないで!!
「アフター・エイトからが本番でさぁね。」
「先輩、準備は出来てますよ。」山崎の黒々とした顔が悪戯っぽく笑った。
「う〜ん、山ちゃんまだ甘い。ポーカーフェイスでのぞまにゃあ、ひっかかってくれん
ぞい。」小柄な男はそう言いながらもそわそわしていた。そこへ……
「おいっす!」
「おう、入れや。」
「御前に言われんでもそのつもりや。」
「ロープにぶらさがるのはあんたの日課だと思ってね。ここにきたかどうか分からなか
ったんよ。」
「てめぇが呼んだんだろうが。」
「さぁ〜て。」
西山は真に器用に文芸部部室に入り込んだ。そのとき、パラッともう一本のロープが
垂れ下がってきた。
「江口もくるぜぇい。」グラサンを上げながら、彼は言った。
「旦那々々、まぁ一杯どうぞ。」と、橋本はバケツにいっぱい入っている缶ジュース
を差した。「どれもいいよ。よっく、選んでくださいよぉ〜ん。」
「お、サンキュー」グラサン男はなんにも考えずにそのまま一番上のを取った。山崎が
タオルを探しに下がる。橋本もウーロン茶を手にして出来るだけ窓際に寄った。
「じゃ、いっただきぁす。」
プシュ!!シュシュシュュュュュュュュ!!
プルトップを勢いよく開いた瞬間に、西山の顔に向かって液体が噴き出た。仕組まれ
たこのわなにようやく気付いた彼は手で押さえようとしたが、それはかえって勢い良く
飛ばさせるだけであった。そのうち炭酸の力も弱まり、噴き出なくなった。彼の顔から
ダラダラと泡が筋をつたって、垂れていった。
「水も滴るいい男ってぇ、ところだね。」橋本は自分の缶を高々を上げた。「乾杯」
「乾杯ったって、俺のはもう半分ぐらいしかねぇよ。しかも気の抜けた、甘ったるい奴
だぜ。」西山は山崎から差し出されたタオルで拭いていた。「まったく………」
「どうしたんだぁ〜」と、窓の外から。
「おぅ、エグ!入れ入れ!!」まるで自分の部のようにグラサン男は言った。「ハッチ
ャンにやられたぜ。」
「おいおい、炭酸でない奴だってあったんだぜ。それをあえて選択しなかったのはそっ
ちサイドの問題だよ、責任はあたしゃにはないよ。」
「フッ、でも、俺だったらひっかからなかっただろうな。まず、山崎は正直ものだから
ニヤッて笑うだろうし、ハッチャンはきっと被害が及ばないように逃げるだろう。」
「まるで俺が落ち着きがねぇみたいじゃないか。」
「腐るな腐るな。こちらは、社会観察部という我くそったれ繋河くたばりぞこない高等
学校弱小3部中、もっとも観察するのには鋭い部の元部長だぜ。いわば、本職だからニ
シヤンが叶わないのももっともなことで……」
「どうフォローされても、俺がびしょ濡れになったことは紛れもない事実ってことかな
ぁ!!」
「それはまあ、そうだね。」
「先輩、これに着替えて下さい。」
「おう、ありがとう………なんでぇ、こいつは文芸部のネーム入りYシャツじゃねぇか」「正確にはそれはYシャツではないんだな。」
「何でよ。」
「それはだな。」江口が橋本に代わって口を開いた。「Yシャツというのはもともと『
ホワイトシャツ』だったんだ。それが日本語化されるにあたって【W】であるべきとこ
ろを音から【Y】としてしまったんだな。ところが御前さんの着ているのは薄緑色だか
ら」
「Yシャツでない、ってぇことよ、お分かり?」文芸部元部長はゴクッとウーロン茶を
飲み干した。
「まぁ、何でもいいけれど……」グラサン男はペタッと座った。「楽しくやりあしょ
うぜ。」
「その言葉待っていたんだ。実はニシヤンの怒りが萎えてしまうのを待ってから開こ
うと思ってたんだ。」
「どこまでもなめてやがる……」とは言ったが、男の言葉には刺は無かった。
「エグはいいよなぁ、あんな可愛い子がいてよぉー」グラサンは目を細める。
「麻沼さんね。あれはいい人間だよ。ただ」
「ただァ」淡々と喋る江口に西山はからもうとする。橋本は高見の見物としゃれ込むこ
とにした。「なんか、いいたいのかよォ。俺だったらどんなことも妥協するぜ。」
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