#1107/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (FEC ) 88/ 8/11 18:25 ( 95)
○繋河高校文芸部!!○【1】 ひすい岳舟
★内容
かけがわこうこうぶんげいぶ!!
繋河高校文芸部!!
Gakusyuu Hisui
熱気で揺らめく情景の中に、彼らは居た。山間の線路の脇に陣取った彼らは、もう半
日もそうしているのである。三脚の上にあるビデオのみが疲労もせずにトンネルを眺め
続けている。
「今日は駄目だ」中の、馬鹿に大きいグラサンの男はメガフォンを叩きつけた。「お
んぼろ鉄道めが!おのれが決めたダイヤに何故走れんのかぁ!」
「西山先輩」体格のいい横の男はメガフォンを拾った。
「田代、鉄道は走らん。役者はバテる。今日は駄目だ!」彼は立ち上がった。「馬鹿に
してやがる。全人類が我々繋河高校映画研究部の活動を阻止しようとしているかのよう
だ!」
「先輩、では明日ですか?」
「知ったことか。地震で半日ストップしちまう気のいい鉄道会社に聞いてくれよ。」
「先輩、シーン73なら列車なしで撮れますが」今度はヒョロっとした奴が水を向けた。「駄目だね。第一、おまえら」彼は声を爆発させた。「やる気が無くなっているからな
ァァァ!!」
「………」
「しょうがねぇ、出直しだ。」
「先輩、どうしても駄目ッスか?」責任感を感じていた後輩達の気持を表現した田代の
発言だった。
それに対してグラサン男はニヤッと笑った。
「俺もやる気がねぇーんだよ。」
坂をちょっと下ったところにバス停があった。その真前にはYシャツ姿の学生1人が
ノートを膝の上に開いて座っていた。彼は人が通ると、パパパッとノートに書き込んで
いた。うだるような暑い中なので、誰も彼のことは気にしていなかった。1時間毎にや
ってくるバスの運ちゃんが【フォン!】というクラクションを鳴らすだけである。
彼は、そう言えばバスのクラクションというのはおもしろきものと気が付いた。あれ
だけき巨体を誇っているにも関わらず、【フォン!】などという可愛らしい鳴き声とは!クラクションの中で一番優しい音ではないだろうか。
「先輩」
急に彼の事を呼ぶ音が起こった。空気を震動させた元は何時の間にかやってきていた
女子学生であった。彼女はウーロン茶の缶を彼の頬にあてがった。彼は首をすくめなが
らも快さそうな顔をした。
「データ収集はもういいんじゃないですか?」
「麻沼さんよぉ、今思い付いたのだが」彼は受け取ってからもまだ飲まずにあてがって
いた。「『バスのクラクションにおける周囲の人間の反応』という研究テーマ、いいと
思わんがかい?」
まったく、急に思い付くのでは文芸部の橋本先輩と同じくらいね、彼女は苦笑いした
思い付く?やっぱり違うか。彼の場合は、ジーっと見ていたものから得るんだわ。ただ
言い方が突然だからそうみえてしまう。橋本先輩の方はあきらかにインスピレイション
で、作り出すのですものね。
「いいんじゃないですか?」彼女はそう言わざるを得ない。
「そうか。」彼は別人のように、笑った。
「それはそうと、もうそろそろ引き上げませんか。」
「ん?そんな時間かね。」
「はい。もう正午をまわりました。」
「残念だなぁ。」
「さぁ、戻りましょう。」彼女は彼を引き上げた。こんな日中にこの人をここにやって
いては、研究熱心な彼は研究しながら脱水症状を起こしてしまうであろう。しかしそれ
を知ってか知らずか、彼はその場からなかなか離れようとしなかった。ようやくその場
から高校の方へと歩みだしたのは、麻沼がはき気を感じ始めてからだった。
繋河高校は湾の巨大な絶壁の上にあった。そこから見える風景は絶景で、左には大洋
右には湾内を望むことが出来る。そしてこの繋河高校の正面には異様な白い建物があっ
た。この高校の後ろ手には、山があり、ここを通って湾の街まで行っている。こういっ
たところだから、ここは坂が多い。小さい面積の中でひしめきあっているようである。
この繋河高校というのはその古めかしさからも分かる通り、伝統のみが最後の砦、と
いった学校だった。これは附近に高校が林立された為に、レベルが下がったと言われて
いるがそれはどうか分からない。この手の学校に有りがちな教師の口癖に『今は駄目に
なってしまったが、昔は良かった』というのがあるわけだが、彼らには『昔』に特定の
エリアがなく、ただ漠然の昔である。ということで、現時点を除く過去全てが輝かしい
歴史に満ちた事になるのである。
さて、この高校の中でも一際海に近いのが部室棟であった。棟のサイドである北面が
湾側である。海に面した部は無かったのだが、今はある。何故ならそれまで本校舎にい
たのが追い出されたのだ。そして部室棟の廊下の北側一端を潰してつくられたのである。したがって、3階建てのこの部室棟には、今では海を望む窓が3つあるわけである。
この弱小高校の中でも弱小3部と言われたこの部室の持主達はこの悪条件を結構気に
いっていた。窓を開けておくと部屋が潮でやられてしまうが、それさえなければこの異
様に長い部室も使い易かった。部室棟では8時以降はトイレ以外移動禁止となる。教師
か3人、各階を見張っているのである。もっとも、部の自治権は生徒会によって確立さ
れているので、中をチェックするようなことはない。しかし、自分の部以外の所へ行き
たいものである。そしてこの3部はとくに中が良い。ということで、海の断崖絶壁に面
していて学校側ではないことをいかして、彼らは窓からロープを垂らしてそれによって
行き来するのである。
さて、映画研究部は3階トップにあった。映像器機が無造作に入口附近に不気味な森
を形勢しており、それを越えるとカーペットの敷かれた所にである。ここには整然とビ
デオデッキ3台、モニター2台、パーソナルコンピュータ1台がある。そしてテープラ
ックには約100本ものテープがひしめいていた。
その中で西山は編集をやっていた。彼が現在作っている映画でなく、弦楽部に頼まれ
たイメージフィルムのやつである。
トイレに行っていた田代が手を拭き々々、入ってきた。西山は振り返らずにモニター
を見て、忙しくコントローラー上で指を馳せていた。
「さっき、文芸部の山ちゃんにあったんですけれども」彼はグラサン男の横にどっか
と腰を下ろした。西山はこのグサランを外すことは滅多にないのだ。「あれ、CMです
か?」
「ああ。明後日までに作らなければならないと思ったが。」
「そうです。しかし、余裕でしょう。」
「もう、出来上がるよ。後はハッチャンにCGを頼んで、それをうちのパソコンでスー
パーインポーズで取り込んでタイトルにして終わりだ。」
「しっかし、こういったのも活動にせにゃならんというのも、悲しいですね。」
「俺は結構好きだぜ、こういうの」
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