#1088/1850　ＣＦＭ「空中分解」
★タイトル (XKG     )  88/ 7/11   0:15  ( 68)
深夜連載小説「噂のスーパーガール」（１０）　クエスト
★内容
　ＫＡＲＤＹさん、コスモさん、感想ありがとうございます。
今日は書くつもりはなかったのですが、秋本さんがとうとうやめられるということで、
特別に秋本さんに捧げる回として書きたいと思います。
　秋本さん、元気になって下さい。そしていつかきっと戻ってきて下さい。

「へー、凄いわねー。健作君がちんぴら３人めためたにやっつけて、車を谷底に落としたなんて」
　麗子は目を輝かせながら言った。
ここは製薬研究家の娘、麗子と留美子の悪の姉妹の家。
広々としたリビングに健作は通されていた。
「いわゆる火事場のクソ力という奴ね。でも、あっという間に現役のちんぴら３人をノックアウトするなんて、普通の高校生ではできないわ。何かあるわよ」
「これこれ留美子、クソだなんて誰かさんみたいな品のない言葉はつかっちゃ駄目よ。
あ、あれはウンコだったかしら。でも留美子の意見には賛成よ。私、思うんだけど、例の薬が原因じゃないかしら。その、つまり、明美になった健作君が猛烈に怒ると特殊な
ホルモンが分泌される。そして普通ならクソ、いいえバカ力程度になるんだけど、例の
薬もホルモン分泌を制御する作用があるから、そこで何か特別な反応が起きて人間離れ
した力が出るのよねー。きっとそうよ」
「クソだとかバカだとか人間離れとか、いい加減にしてくれへん。あのねー、だいたい
ねー、君らのせいでこんなことになってんねんでー。僕がこのまま昼は男、夜は女の状態のままやったらどないしてくれんねん。お嫁やない、結婚できんやんかー」
　健作が堪り兼ねて言った。
「あら、気にしないで。別に健作君がどうとか言ってやしないから。それに内の親の話
でも、薬の作用は当然時間とともに無くなるっていうことだし。魔法じゃないんだから
その内なおるわよ。健作君」
　麗子がとりなすように言った。
「そうよ。二週間で元に戻るって。でも、健作君、本当は今の方が楽しいんじゃない。
男にも女にもなれるって。そうよ、若い女の子がどんなに男からもてはやされるか、それは女の子になってみないと絶対にわからないのよ」
　留美子が言った。
「うん、そら、まあ。いや、いやや。やっぱりいやや。男のままでええわ。ほんまに人
事や思て気楽に言ってくれるけどねー、どんだけ僕がこの１０日程苦しんだか、君らにはわからんやろ。妹にも最近変な目で見られるし、たまらんわ」
「あらそう？でもねー、薬の実験としてはもうしばらく続けたほうがいろいろはっきりしていいのよねー。内の家もフリーの研究家だしぃ、研究費もばかにならないのよねー」
麗子が長い髪をいじくりながら健作を見つめて言った。
「そうなの。今も両親はヨーロッパに別の薬を売り込みに行っているけど、買い手がつくかどうか。この辺で決定的ヒットが欲しいのよねー」
　留美子もしおらしく手をひざにそろえて健作に言う。
「おいおい、君ら自分のことしか考えてへんのか。あんなしょーもないパーティーで人をおとし入れよって。なに？それでも気が済まん？もっとモッモットやれ？君らなー、ほんまに魔女とちゃうか。お断りや。もうええ。沢山や」

　暫く沈黙の時間が流れた。
「そう．．．そうね。健作君がそう思うのも無理はないわね」
　麗子は俯いて肩を震わせている。
「やっと反省しよったか。女の子を泣かすのは嫌いやけど、まあ今回はしやあないな」
「それでね。健作君」
「ん？留美子ちゃん」
「私達、多分健作君が断るだろうと思ってね。例の薬をね」
「何！」
「今健作君が飲んだ紅茶の中にまた入れちゃったのーーーーー。きゃーーははははは」
　言い終わると留美子は床の上をおなかを押さえて笑いころげた。
「はーははははは。あーー苦しかったー。ずっと笑うのこらえてるの。ひゃーははは」
肩を震わせて泣いていると健作が思っていた麗子も実は笑いを堪えていたのだった。
「おっ、お前ら魔女や！悪魔の手先、地獄の姉妹や。なんてことを！ひどい、あんまりや。極悪非道、シベリア鉄道、満州事変やーーーーーーーー」
　健作はまたしてもわなにはまった自分を呪いながら抗議したが後の祭り。

健作は「まあまあ」とか言いながら結局まるめこまれ、姉妹が愛想よく手を振るのに答えたりなんかして家を出た。
「あーあ、また当分おかしな生活かー。妹がまたかんぐりよるやろなー」
「そやけど、これで若い女の子の派手な生活というものがまたできる訳か。考えてみたらまだ１２分に楽しんだとは言えんし」
「よっしゃ、今夜も出動や。遊んだるぞーーーーーー」
　結局いい加減な健作であった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく