AWC 『リブルの翼  最終回』  甲斐石太


        
#1082/1850 CFM「空中分解」
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『リブルの翼  最終回』  甲斐石太
★内容
 反乱軍の潜む城 それはまわりを山に囲まれた、非常に攻めにくい所であった。が、
それだけに守りも比較的うすい。今、リブルたちは城の背後の山かげで息を潜め、作戦
を練っていた。
 「どうする? まっすぐ攻め込んでも勝ち目はないぜ」
 「もちろんよ。それに、相手は悪魔の力を得ているわ。まずそれを破らないと。
その役目はステリアにまかせるしかないわね。あなたの魔力は悪魔のそれより上のはず
だから」
 「でも、本当に私にできるかしら。まだ信じられないのよ、自分の力が」
 「きっと大丈夫よ。それで、五百人を三つにわけて、私たちが一人ずつ先頭に立っ
て、一気になだれ込む」
 「それより、一つがおとりになった方が確かだぜ」
 「そうね…… それで行こうか。問題はどうやって城の反対側にまわり込むか。山づ
たいに行ったら、一日はかかるわよ」
 「それは、私におまかせ。四・五百人ならいっぺんに瞬間移動できるわ」
 「ねぇ、あなた自身がなかったんじゃないの」
 「茶化さないでよ」
 「ごめんごめん。で、まずラックスたちがおとりになって、注意をそちらにひきちけ
て、合図とともに、二方向から攻める… これでいいわね」
 「合図って?」
 「天から光が差したとき…… わかった?」
 「よし、わかった。じゃ、早速わかれよう」
 リブルたちは五百人ほどの男たちを三つに分け、手はずを説明した。
 「それじゃ、ステリア、お願い」
 「うん… 」
 ステリアは手を高くさし上げ、言った。
 「いにしえより伝わりし大いなる神よ、今こそ邪悪なる力を封じ給え」
 そのとたん、ステリアの手が光ったかと思うと光は空中に四散し、その辺り一帯に
滞っていた瘴気を吹き払った。
 「上できよ、ステリア。さ、次は……」
 「また私の仕事ね」
 ステリアは男たちの方に向き直り、何か念じた。ステリアとラックスの隊が光に包ま
れ、徐々に姿を消していった。
 「な、なんだ、これは……」
 驚いたのは男たちである。間もなく、男たちの姿は消え、リブルと二百人ほどの男た
ちのみがそこに残った。
 「うまくいったわね…… みんな、覚悟はいい?」
 「もちろんだ、こっちには神の子がついているんだ」
 「そうだ、いつでもいいぞ」
 男たちは口々に答えた。
 その答えにリブルは満足し、剣を天に差し上げた。天から光がふり注いだ!
 「今だ、進めーーっ!」
 ラックスたちがおとりとなるべく、山をかけ降り、城に向かう。
 「あまり行きすぎるな、いいかげんの所で時間をかせぐんだ!」
 城の方からも、反乱軍が押し寄せる。
 「よし、撃てーーっ!!」
 ラックスの声で、男たちの銃口が火を吹いた。その銃弾は確実に敵を撃ち抜く。
 その時、すでにリブルの姿は龍となっていた。ステリアもまた、魔法の力で自らの
姿を龍に変えていた。
 そして、ラックスたちの銃声を合図に、リブルたちは手薄になった城に飛び込んだ。
それぞれに二百人ずつの兵がつづく。
 それに気付いた反乱軍の兵が、城を守ろうとするが、両側から迫る二頭の龍に彼らは
おののいていた。その龍の後ろから男たちが銃を撃ち、反乱軍の兵を撃ち抜く。今や、
古城は大混乱に陥っていた。
 そして、リブルとステリアはついに城にたどり着き、元の姿に戻った。
 「みんな、あとはお願い」
 そう言い残し、リブルは城の内部へ向かう。立ちはだかる兵を剣でなぎ倒し、リブル
は城の最深部についた。ここに、妹が捕らわれているはずである。そのとき、ステリア
もやってきた。
 「無事のようね」
 「そちらこそ…… さあ、行くわよ」
 リブルは目の前の扉を開け、中に入った。
 中はかなり広い。王座の間のようである。
 「バルバーラ!!」
 バルバーラは、目の前の王座にいた。
 「姉さん、よくここまでこれたわね…… いえ、あなたは姉さんなんかじゃないわ」
 バルバーラの様子がおかしい、リブルはそう思った。
 「もう、私には全部わかっているのよ。姉さんは、拾い子なんだ。姉さんに、王家を
継ぐ資格なんてないのよ」
 「バルバーラ、いったいどうしたの。別に私にはどうでもいいことなのよ、王家のこ
となんて」
 「うそよ!… 私は、姉さんが憎かったのよ。国の人たちから愛されて、もてはやさ
れてる姉さんが…… でもある日気付いたの、何故もともと魔術師の血をひく王家に
生まれた姉さんが、魔術を使えないのかって…… 答えは簡単よ。なのに、お父様は
本当のことを言ってくれない。私、もう誰も信じられない!」
 「それじゃ、バルバーラ、あなた自分からこの城に…… ブルタークにさらわれたっ
ていうのはどういうこと」
 「そんな男、初めからいないわ。ただ、私は姉さんを愛する国の人たちを苦しめてや
りたくて…… 悪魔なんていうのも嘘よ、みんな私の力がやったことだわ…… 姉さん
もう私の目の前に現われないで! もう、この世からいなくなってしまえばいいん
だ!」
 バルバーラの手から光の矢がリブルめがけてとぶ!
 「危ない!」
 ステリアがそれを自らの力で防いだ。
 「あなたね、さっきの私の力を封じ込めたのは…… でも、まだ私の力はこんなもの
ではないわ」
 バルバーラの目は怪しく輝いた。
 「リブル、どうやら彼女は悪魔に心を支配されているわ。私の力じゃ防ぎきれない」
 「どうすれば……」
 「方法はあるわ。今こそ、私たちが一つになるのよ。それしかないわ。リブル、
その剣を高く掲げて」
 「で、でも……」
 リブルは、ためらった。二人が一人になると、どういうことになるのか。今までの
自分たちはどうなるのか。それを知るのがこわかった。
 「はやく!」
 そういう間にも、バルバーラの魔術が二人を襲う。
 リブルは、意を決して剣を高く掲げた。
 ステリアが両手を挙げて、叫ぶ。
 「いにしえに別れし二つの血を 今また一つに戻し給え……」
 ステリアの体がオーラを発し、それが光の束となってリブルの剣に吸い込まれる。
リブルの目の前が真っ白になる。ステリアの体はなおも光を発しつづける。そして、
それが終わった時、ステリアの体は力なく倒れた。一方、リブルの方は、体が輝き、
白い塊となる。光がおさまると、そこにあったのは…… 今までと変わりのない、
リブルの姿であった。
 「ステリア! ステリア!」
 リブルはステリアの体を抱き起こした。
 「リ… リブル…… よかった…… うまくいったみたい………」
 「どうして、どうして私は何ともないのに、あなただけが………」
 「だって、もともと… 神の血をひいたのはあなたよ… 私は、ただその血をほんの
少しわけられただけ…… さあ、あなたは… これで、本当の…………」
 そこまで言ってステリアは力尽きた。その顔は安らかに笑みをたたえていた。
 「姉さん、そこまでよ!」
 バルバーラが強大な力を雷に変え、リブルに放つ。それは、リブルを直撃した。が、
リブルは微動だにせず、バルバーラを見据えた。
 「なぜ…? なぜ、今のが効かなかったの」
 バルバーラは信じられない顔で言った。
 「バルバーラ…… 人を愛するっていうことはね、とても難しいことなの…… だけ
ど、難しいからこそ、愛することってすばらしいのよ。人を信じることも同じよ。そし
て、自分が人を信じて、愛してはじめて自分も人から信じてもらえるのよ。私は……
私は、愛する国と、人々のために…… あなたを、殺します」
 「何よ、… 結局、姉さんは私が嫌いなのよ。私のことなんか………」
 「違うわ、私はあなたの姉としてあなたを愛しているからこそ… 悪魔になったあな
たを見たくないのよ! 私は、多くの人々の命を奪ったあなたを許さない!」
 リブルは、そう言ってバルバーラに近寄った。バルバーラは必死に魔力で抵抗したが
まるで効かなかった。
 「バルバーラ…… さよなら!」
 リブルは涙を流して、バルバーラの胸に剣を深々と刺した。


 すべては終わった。リブルが剣を抜く間もなく、剣の刃は光となって、消えた。あと
には柄のみがのこった。

 外でも、ラックスたちが反乱軍を制圧していた。日は西に傾いている。
 リブルとラックスはその地に、ステリアとバルバーラの亡き骸を並べて埋葬し、墓を
立てた。
 「まだまだ子供だったのよね、バルバーラは…… ステリア、あの世に行ったら妹を
よろしくね…… 一人じゃ本当は何もできないんだから」
 「ステリア…… お前が死んじまったら、俺はどうすればいいんだ」
 「ラックス、あなたステリアのこと………」
 「まあな、けんか相手がいなくなって寂しいってこと」
 「…… ステリア、バルバーラ、さようなら……  またいつか会えるわよね」
 そう言って、リブルたちはその地を後にした。

                  *

 また、街の酒場ではあわただしい毎日が続いていた。そこに一人の少女が働いて
いた。
 年は十七・八。その金髪が美しい少女の名は、リブルといった。彼女は国一番の剣士
であり、史上最高の魔術師であり、この王国の王女でもあった。彼女の目は以前より
多少暗く影がさしていたが、その理由は彼女しか知らない。




 完結。





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