AWC 『リブルの翼  第5回』  甲斐石太


        
#1081/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (LYF     )  88/ 7/ 9  23:54  (113)
『リブルの翼  第5回』  甲斐石太
★内容
 ドラゴンに姿を変えたリブルは、ステリアに語りかけた。もっとも、龍と人とでは
言葉が通じないので、いわゆるテレパシーのようなもので話をしたのである。
 「ステリア、私の腕からウロコを一枚とってちょうだい、早く」
 わかった、と言ってステリアとラックスは腕のウロコを一枚引っ張った。が、それは
なかなかはがれず、あまりの苦痛にリブルはかすかな咆哮を漏らした。そして、とうと
うウロコがはがれた時、リブルは元の姿に戻り、赤くはれあがった腕を押さえて言っ
た。
 「さあ、早くそれを…… ああ、痛かった………」
 見ると、腕には赤いウロコの形のあざができていた。
 一方、村長の娘は、ウロコをすりつぶした薬を飲ませると顔から苦痛が消え、そのま
ま深い眠りについた。
 「どうも有難うございます、あなたがたのおかげで娘は助かりました。そのお礼と
言っては何ですが、今宵は我が家に泊まって下さらんか。あなたがたはどうやら伝説の
お人らしい。是非お話ししたいことがあります」
 「それなら、お世話になりましょうよ、ね、リブル」
 「ええ… お話というのを聞かせて下さい」
 自分の正体を知る手がかりとなるかもしれない、そう思ったリブルは同意した。

                  *

 その夜。リブルたちは夕食をご馳走になりながら、村長の話を聞いた。それはステリ
アの話をもう少し詳しくしたような話だった。
 「言い伝えがまことなら、あなたがたこそこの世を救うお人となるでしょう。それ
に、リブルさんとやら。あなたは、まぎれもなくいにしえの龍の子孫じゃ。ひいては、
あなたは神の御子というわけじゃ」
 「そんな…… でも、私まだ信じられないんです。事実、私は龍の姿にかわることが
できます。でも、今まではどんなことがあっても姿が変わったりしなかったのに……」
 「その秘密は、この剣にある。これは、時がその剣を必要とした時にそれを持つべき
人の手にされ、その人−すなわちあなたの中に流れる眠っていた龍の血を再び呼びさま
すのじゃ。ところで、ステリアさんとやら。あなたはリブルさんによく似ておる。それ
にもわけがあるんじゃ」
 「ええ…… 言い伝えの通りなら私とリブルは血でつながっているのですから」
 「それだけではない。実は、もともとあなたがたは、一人の人間として生まれるべき
お人じゃったんじゃ。それが、過去のあやまちのせいで、運命が狂ってしまった。もし
二人がちゃんと生まれていたら、その人は武術にすぐれ魔術に長けた、完全な人間と
なっていたところを、狂った運命のおかげで、一方は武術にすぐれ、もう一方はこの世
に二人といない魔力を持った人に生まれたのじゃ」
 「でも私、そんなに魔術にすぐれてはいません」
 「いや、待てよ。ステリア、お前、洞窟の中にあるクリスタルに触ったろ。あのと
き、お前は声を聞いたって言ってたよな」
 黙ってそれまで聞いていたラックスが口を挟んだ。
 「そういえば、『私の力を授けよう』とか何とか……」
 「それじゃ、その時、あなた自身は気付いておらんが、あなたの魔力は神に近いまで
に高められたのじゃ」
 「そう言えば、あの声は、こうも言ってたっけ…『お前の力とリブルの力が一つに
なる時、何かが起きる』って。何が起こるっていうのかしら……」
 「それはわからん。おや、どうしたのじゃ、リブルさん」
 リブルはその話を聞いていくうちに、一つの確信が生まれていた。
 「これではっきりしたわ、もし私とステリアが言い伝えの通り、神の子孫であるな
ら…… 私は… やっぱり、リブラルタ=フロル=ラムラウスじゃないのよ!そんな
人、初めからいなかったんだわ! 私は、誰なの……」
 「今、何と申された? もしやあなたが……」
 「そうなんです、リブルは、本当は王女なんです」
 「ちがう! 私は… 私は………」
 「落ち着け、リブル。君は、れっきとした王女さ。たとえ養女であっても、君の本当
の名はリブラルタなんだ。君は他の誰でもない」
 「…そうね、ごめんなさい、取り乱したりして……。今はそんなこと言ってる時じゃ
ないわ」
 「なぁ、みなさんや、明日、出発なさるのなら、この村の男どもを一緒に行かせてく
れんか、五・六百人ほどにはなる」
 「そんな…… 危険だわ、相手はその十倍ほどもいるのに」
 「大丈夫、わしらにはいいものがあってな、これがそうじゃ」
 そう言って長の見せたのは一本の鉄の筒。
 「これは銃というもので、弓矢より威力は強い。これがあれば何とかなる」
 リブルたちは初めて見る文明の利器に目を丸くした。
 「さあ、もうお休みになって下さい、あとのことはわしにまかせて」
 促されるまま、リブルたちは眠りについた。


 その晩、リブルは夢を見た。彼女は雪の降る野原で、横になっていた。
  (寒い…… ここは何処?)
  −おまえの生まれたところ……
 どこからともなく声が響いた。
  (誰…… ここが私の生まれたところ? いいえ、違うわ、私は城で生まれた
  のよ……)
 その時、馬の一団がやって来た。
  (お父さま…… なぜこんなところに……)
 「王さま、あんなところに赤ん坊が」
 王の家臣がリブルを指して言った。
 「おお、かわいそうに、捨てられたのか…… そうだ、ちょうどよい。わしらには
なかなか子供ができん。この子を育てて、わしの世継ぎとしよう。見ろ、この気高い
顔を、わしの子にふさわしい」
  (お父さま…… 何を言ってるの、私は赤ん坊じゃない。もう十七になったの
  よ……)
 王はいつのまにか別の赤ん坊を抱いていた。
 「おお、これがわしの実の子か。とうとう生まれたか。この子も良い子じゃ。わしに
よく似ておる……」
 そう言って、王はリブルを置き去りにして行ってしまった。
  (お父さま…… 待って! 行かないで……)


 そこで夢は終わった。朝になっていた。
 他の二人も目を覚ましていた。
 「さあ、ここから奴らの城はもうすぐだ。いよいよだな……」
 ラックスが興奮して言った。
 リブルは甲冑を身につけながら、ふと昨晩の夢を思い出していた。

 外に出ると、そこにはすでに用意の済んだ村の男たちが集まっていた。
 村長が来て言った。
 「この者たちはあなたがたの言うことになら何でも従います。どうか、ご無事で。
さあ、馬にお乗り下さい。用意してあります」
 「ありがとう。さあ、行くわよ、みなさんの命、私は預けさせていただきます」
 「オオーーッ!」
 男たちはときの声をあげた。
 「では、出発!!」
 先頭に立って進むリブルの姿は、まさに戦いの神の転生した姿であった。それは、
ステリアでも初めて目にする、威厳に満ちた王女の姿でもあった………。




 つづく………





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