AWC 七夕


        
#1068/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (HWA     )  88/ 7/ 6  13:35  (106)
七夕
★内容

だんぼです。今年の七夕、晴れるといいですね。では、


「はい、みんな、短冊を取って下さいね。2枚ですよ。いいですか」
先生が、手をぱんぱん鳴らしながら、いつもの大声で言った。

「みんな、お願い事考えてきたかな。お願い事は2つ書くんですよ。1枚づ
  つ、ちゃんと丁寧に書くんですよ。じゃないと、お願い事かなえてもらえ
  ませんからね」

僕は、短冊の一杯入った底の浅い箱の中から、変わった色の短冊2枚を取り
だした。緑がかった金色という感じの変な色だった。
気色悪いと友人に言われたが、変わったやつが好きな僕は、その短冊を使う
ことに決めた。
さて、何を書こうか。
特に欲しい物はないし、おこずかいも結構あるし。いまの席に不満はない。
給食だって、嫌いな物がある訳でもないし、先生だって、そんなに嫌いでは
ない。うむ、改まってお願い事をと言われてもこまるな。
そんなことを考えているうちにも、みんなは自分のお願い事を書いた短冊を、
大きな青竹の思い思いのところにつけていた。
早くしないと。
あ、そうだ。だめでもともと、あれを書こう。
僕は、もう先の丸くなった鉛筆で、1枚目の短冊にお願い事を書いた。

『小夜子さんと、友達になりたい』

僕はそれを書くと、内容が恥ずかしいので、青竹のできるだけ高い所にそれ
をつけた。
さて、と、もう1枚だが。
と、後ろから声をかける人がいた。

「ねぇ、尾崎くん。見て。天の川よ。きれい。ね」

小夜子さんだ。あまりに突然なので、僕はすぐには返事ができなかった。

「ほんと、今年は晴れてよかったわね」

どうしてだろう。どうして、あの憧れの、小夜子さんが、僕なんかに話しか
けてくるのだろう。クラスでも1番人気の小夜子さんが。

「どうしたの?ねぇ、尾崎くん」

「あ、ああ。いや、べつに、何でもないよ」

「そう。尾崎くんっておもしろい人ね」

小夜子さんは右手を口にあて、クスっと笑った。僕はかっと頭に血が上るの
が自分でもよく分かった。これは一体、どうしたことだろう。今までむこう
から声をかけてきたことなんてなかったのに。自分で言うのもなんだが、僕
なんて背も小さいし、格好だって決していいとは言えない。他にずっといい
人がいるのに、どうしてこの僕に。

「ねぇ、尾崎くん。今日、解散したら、私の家によっていかない?まだ時間
  も早いし。ね。見せたいものがあるの」

あまりのことに、僕はしばらく開いた口がふさがらなかった。これは異常で
ある。どう考えてもおかしい。そんなはずはなかった。夢だろうか。いや、
こんなにはっきりした夢なんてあるものか。では、これは。
あ!分かったぞ!さっきの短冊だ。あの変な色をした。そうに違いない。あ
れはどうみても普通の短冊ではなかった。そうなのだ。あれは、どこかの世
界からやってきた、必ず願いのかなうという短冊なのだ。そうに決まってい
る。そうでもなければ、今のこの状態が説明できないではないか。
そうと分かったら、すぐにもこの状態から、脱しなければ。いや、別に小夜
子さんと友達になれるのがいやな訳ではない。むしろ、飛び上がって喜ぶべ
き大変なことだ。子々孫々に話し伝えるべき大事である。いや、これは少々
おおげさだろうか。しかし、今の僕には何よりも大事だった。だが、これは
いけないことである。彼女に僕は似合わない。こういうことを平気で言う自
分も情けないが、これは本当のことである。それに、もしも僕と小夜子さん
が仲よくしたとしよう。そうすればどうなるだろうか。きっと、クラスの男
子全員を敵に回すことになるだろう。給食の余った牛乳でさえ、もらえなく
なるに違いない。それはだめだ。それだけは避けなければならない。
それには小夜子さんと仲よくなってはいけない。逃がした魚は大きいが、代
わって降りかかってくる災難に比べたら、楽なことである。本当は、おしい
気持ちで一杯だが、これも自分のためである。

「あ、ちょっと待ってて。まだ短冊が1枚あったんだ」

うぅ、辛い。し、しかし、書かなければ。現に、すでに、もう他の男子の冷
たい視線が強く感じられる。僕は、覚悟を決めて、短冊に書いた。

『さっきの短冊に書いたのはうそ』

目をつむって書いたので、いやに字が下手になった。僕は、それを青竹にし
っかりとつけた。ああ、ついに、やってしまった。やはり、これは早まった
ことだろうか。これでまた、憧れの小夜子さんとは単なるクラスメートにな
ってしまった訳である。それに、もう短冊もない。

「はい、みんな、短冊を取って下さいね。2枚ですよ。いいですか」

先生が、手をぱんぱん鳴らしながら、いつもの大声で言った。
僕は、短冊の一杯入った底の浅い箱の中から、青い短冊2枚を取った。
さて、何を書こうか。
たいていのゲームは持ってるし、ラジコンも誕生日に買ってもらう予定だ。
うむ、改まってお願い事をと言われてもこまるな。
と、後ろから声をかける人がいた。
優子さんだ。家の方角が同じなので、いつも一緒に帰っている子である。

「ねぇ、尾崎くん。見て。天の川よ。きれい。ね」

「ほんとうだ」

                                     DUMBO OZAKI

                                                    End of line.





前のメッセージ 次のメッセージ 
「CFM「空中分解」」一覧 DUMBOOZAKIの作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE