#1069/1850 CFM「空中分解」
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★TheNextClubLeader★《1》ひすい岳舟
★内容
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THE NEXT CLUB LEADER
1988
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CLUB LEADER SERIES
No.2
Gakusyu Hisui
『私の初めての伴侶よ、ありがとう』
雨が降り頻っていた。梅雨に台風が重なったのだ。台風が温帯低気圧になるとサウナ
になるね、と増田君が傍らで傘を広げながらいった。私はワープロで原稿を打っていた。家のパソコンに慣れてしまっているのでちょっと辿々しかったがようやく慣れ始めてき
た。さっきから人気の無い図書室で私達は入れかわりたちかわり、今度出すコピー本の
原稿を打っていたのだ。
がらりと音がした。つつつと歩いてくる音から誰が来るのか分かっていた。
「おぅ、早いな」増田君がこれから行われようとしている事を知らぬかのように彼女
に声をかけた。「でもまだ文芸部の先輩達、来てないんだよねぇ〜。待っててくれる?」 「はい」彼女の声は小さかった。
少し、苦しい沈黙があった後、彼女がそれを破った。
「先輩、ちょっとお話があるのですが」
声が私の背中に当たった。この図書室には3人しかいないというのに、全世界が注目
しているかのような感覚に襲われ、振り向くことが恐かった。私は、自分の弱さを知っ
ていたから、ここで私的感情をぶちまけてしまいやしないか、それを恐れた。今は文芸
部の部長なのだせ、公的な人間なのだ。そして人形劇部との抗争?!に終止符を打とう
としている今、それを徹底しなければ双方あわせて20人の生徒が再び苦しまなければ
ならなかった。
「ハシモッチャン、ちょっくら中柳さんなんかを探してくっから」
「お、おい!」
いきなり出し抜けに増田君がこの閉鎖空間から飛び出た。残ったのは………2人だっ
た。
清山さんを連れてきたのは中柳さんだった。4月の初め、新学期が始まった季節でこ
れからアメリカシロヒトリが出るかと思うと、私はゆううつであった。中柳さんは文芸
部では会計をやってもらっている。一時期、部員が本当にいなくて、私がまったくやる
気を無くしていた頃部をきりもったりして、部には無くてはならぬ存在である。
ところが彼女は文芸部だけのものではなかった。きっと運動部の人などには御理解願
えないだろうが、文化部には兼部ということが出来る。複数の部活に所属出来るのだ。
で、彼女は人形劇部に入っていた。なかなか忙しい部で、増田君と私と及川君とでやる
ことがたまにあった。もっともあちらは10人近い部、こっちは5人にみたないからそ
う文句は言えないのである。(やはり世の中、力量関係で決まることが多いのだ。)
その中柳さんがヒョコっと図書室に現れた。部活の日ではなかったので、図書室にい
たのは私だけだった。
「ねーねー、橋本君、ビックニュースよ。」そういって彼女は手を振り上げた。そし
て当然の事のように私の肩にそれを落下させた。なんか嬉しいことがあるとそれが体に
満ち満ちて、周辺の人に伝わってしまう………のである。「なんと進入部員。しかも2
年生よ!!」
「ほぉ、そりゃ大変だ。いつだったか、そういうのを連れてくるといってすっぽかし
たこともあるっけ。それは結局、貴方が未確認だったわけだぁね。」
「もう、意地が悪いのね。でも今度のは本当よ。−−−ほら、ちょっときなさい。」
中柳さんの威勢の良い声の後にそれはつつっと接近してきた。そしてぺこりと頭を下
げた。私の頬が自然に盛り上がってゆく。ほ、本当に進入部員らしい!!
「清山さんていうの。人形劇部の後輩なのよ。で、文芸部の事を話したら、この人も
個人的にやっているという話が出て、で、連れてきたわけよ。」
「それはいいが、急にねぇ。」
「橋本君、顔がにやけているわよ。」中柳さんの悪戯気な笑顔が視野にあった。
「フッ、あんた、背中が煤けているぜ」
「???」
「ま、とにかく、なんだ、頑張ってくれたまえ」
「は、はい。」
まったくもってして、この後、運命は暗転するというのに、私は大きな声でその時は
笑っていたのだった。
「座れよ。」私は背中を向けたまま言った。しかし、足音は聞こえなく、清山が以前
として立ったままであるようであった。
「立ったままでもいいが、なんか話があるのだろう」
「はい。」
「言ってみろよ。」かなりツッケンドンな言い方を私はわざとしていた。
「………どうもすみませんでした」
その瞬間主観図書室がまったく音を発しないように感じたのはきっと私だけでなく、
もう一人の存在者もそうであったに違いない。
後輩が出来たことで、私達の文芸部は活動内容を改めた。部活動を水曜と土曜として
1週間に一人係を決めて、作品を書いてくる。それを土曜に図書室のコピー機を使って
コピーして配布して、水曜にその作品についてディスカッションをする。これを繰り返
すのだ。
それと、もう一つリレー小説を始めた。これは3日間に2ページまでノートに書いて
次の人に渡して書いてゆくもので実験的に1ターンやってみようということだった。
こうやって活動内容を制定すると軌道に乗るのは早かった。そして我々文芸部は何年
かぶりに復活したのである。
私はそれでも振り向かなかった。
「本当にすいません………私が………文芸部の皆さんには迷惑かけてばっかりで……
…本当に、本当に………」
文芸部は最大の難関をこんなときに迎えた。
そのころからか、信じられないことに清山さんの繋がりでバカバカと進入部員が入る
ようになって、5月の始めには4人だった部活が10人にまで膨れ上がった。それに伴
って、活動の方も活発になり、まったくもって私が図書室で喉を枯らすという、異常事
態を起こしたのもこのころ。
とにかく、順風満帆で進み始めていたのである、文芸部は。
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