AWC クライノスチビッチの話−1− WriteSta


        
#988/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (FEC     )  88/ 5/ 5   6: 2  (100)
クライノスチビッチの話−1−            WriteSta
★内容

              《Story  of  CRYNOTHCHBITCH》

        1988:『不幸にしてこの年代に生まれた人々に捧ぐ
                                これは、真実をデータとして書かれている』

                          Write・Staff
                        Gakusyu  Hisui
                                 参考文献
                    『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』
                               『危険な話』
                             著者:広瀬  隆氏


  ガチャ。
  アー、アー。入っているな。……こんにちは、私はクライノスチビッチという者だ。
幸いにもこれを発見した君(この際、君がホモサピエンスだろうと他の星系からやって
きたよき隣人であろうと問わないよ!!)に、かつて起こった愚かしい悲劇について語
るとしよう。……おっと待った、つまらないからといって投げ出すことはやめてくれ。
私はこれに生涯をたくし、そして今、それがとりあえず完成したといってよい。とりあ
えずというのは、最後の完成を君がするのだ。なぁ〜に、簡単なこと、君が少々の私的
時間を持っていてそして好奇心があってなおかつ、このボイスレコーダーに吹き込んだ
老人のたわいない希望を汲み取ってくれる心さえあれば十分可能なのである。なに、ど
んなことをすればよいか、だって?それは簡単なことだよ、君。この話を最後まで聞い
てくれるだけで結構。
  では、よき親友よ、始めるとしよう。
  2205年2月9日    ファンゼント居住区にて        クライノスビッチ

  ガチャ。
  では、私が何物であるか、最初に言おう。いつの世でも自己紹介はやるべきだろうか
ら。もし、君らの時代にはそのような慣習はなく、またそれがマナーに反することにな
っていたら、ごめんなさい。私がこうして吹き込んでいる2205年以前にはそういう
ものがあり、相手にどんな奴かを簡単に理解させることが行われていたのだ。
  私はこの月の裏のファンゼントに生まれ、育った。父なる男はファイントという電力
局に勤める人間であった。母なる女、メアリーはごく普通の主婦であった。私が幸福だ
ったのは、ファイントが歴史に凝っていたという点である。幼いときから私は忘却のカ
ーテンの向こうに押し遣られた過去について、彼から教えられた。何故人類がここに住
むようになったか、それ以前の世界はどうだったか、どのような問題があったか、など。  ファイントはしかし、子供を喜ばせる性分があったため、脚色をしてしまった。ドラ
スドンやパワートリニシックといった都市を破壊した怪物の演出は彼によるものであっ
た。しかし、私は彼を恨んだりしてはいない。最初の学校のテストの時、みんなには負
けたことは事実だった。しかし、幼い頃からの【ファイント・アングル】を学んだ私は
好奇心が全身に満ち足りた人間であった。ドラスドンが破壊したとされる都市は誰が破
壊したのか?パワートリニシックが使った悪魔の魔術の変わりとなるのものは?
  私は中学に上がったとき、決心した。行政府が発表している事柄だけでは納得できな
い。(行政府が発表していた“核戦争”なんかより、ドラスドンの方がよっぽどましだ
!!)もはや、学校で教えることは意味はない、と考えた上で独自に調査することにな
った。
  クラスメイトは不思議がった。社会でトップの私が、社会は嫌いだと言い始めたから
である。当時2番であったマトリッシーニはある時、私の所へこのことを尋ねにきた。
私はそのとき、あらいざらいぶちまけた。その時以来である、彼と二人三脚で調査し始
めたのは。
  もはや、分かったでしょう。生涯の研究を支えあった仲間がいました。マトリッシー
ニ。彼とは最高の二人三脚でした。途中、私にはクリスチーナ、彼にはヘンダソンとい
う配偶者が加わったが、乱れひとつも起こさなかった。これにはこのご夫人2人が我々
という大きな子供をおっかけるように、これまた二人三脚でついてきてくれたからであ
る。大いなる理解者といってよい。
  さて、私の事はこれくらいでよいだろう。
  ふぅ、疲れた。ちょっと、茶をのまさせてくれ。

  ガチャ。
  まず、何故我々が本来住むべき所である地球に住んでいないか、ここから説明しよう
まったく、これには簡単に答えられるのだ。そこには、住めないからだ。
  こんなことを言うと、きっと君はフットボールの選手並みにボイスレコーダーを蹴飛
ばそうとするだろう。もっともこいつは遥か君の時代まで耐えられるように作られてあ
るので大層頑丈なのであるがね。しかし、蹴飛ばされては大変だ。君が高々とふり上げ
た足を降り下ろさないうちに話を続けるとしよう。
  何故、住めなくなったか。当局の発表+世間の話では、核兵器による最終戦争が行わ
れたからと言っている。しかしだ、どうもそれは考えにくい。何故、月にいる者だけが
生き残ったのか。国家間の争いにこちらは巻き込まれなかったというのか。当時宇宙に
は地球を取り巻く軍事施設がごまんとあったと予想されるのに、何故月だけが被害を受
けなかったのか。そして、人類はまったく生き伸びる見込みのないことを本当にしたの
だろうか………
  現在の地球は汚れている。これは事実である。死の灰によって生態系が完全に根底か
ら覆り、我々の方式とは違う生物がうごめいている。現在は2205年。2世紀前まで
はあそこに70億人がひしめいていたというのに、コロニーと月を合わせて確認出来る
最大人口3億5千余。激減したといっていい。しかもだ、現在まで順に増えてこうなっ
のではない。最初にこのくらいの数字で、それからは殆ど変化していないのだ。増加は
微々たるものだ。それが良いか悪いかは分からないが。
  現在、発電に使用しているのは太陽エネルギーによる物と温度差を利用して発電する
ものの2つである。この当時使用しているものは、火力・風力・水力と、当局は発表し
てきた。ところが八方手を尽くしてみると以外なことが分かった。
  原子力である。
  当局の発表には無かった原子発電が浮かび上がってきた。核兵器が調節のきかない物
であるとしたら、これはその荒馬を利用してしまおうというものなのだ。
  原理はいたって簡単で(とはいうが、私がその時代に生きていたわけではないので、
よくは分からない)ウラン・プルトニウムを用いて発熱させ、それで水を沸かしてター
ビンを回す、というものらしい。
  さて、当局が何故これを隠していたのであろう。おそらくはこの技術事態を否定する
ためであったろう。(どこかのコンピュータ・メモリには文献として残っているだろう
が、おそらく行政府の人もこの事は詳しく知るまい)それが世代交代を行う上で次第に
儀式化してついには奇麗サッパリ消え去ったというわけだ。
  核戦争とすればそれなりの説明がつくし、体裁もよい。
  私は基本的には楽観主義者なので、行政府初期のメンバーが後世の身を案じてこうし
たのだろうと考えている。マトリッシーニの方は月の裏側に住み着いたという点からも
まだ何かある、と考え込んでいるが、結論が出たらきっとボイスレコーダーのマイクを
握るだろうね。(と、いうことは君は2人の老人の話相手にならねばなくなるね。ご苦
苦労、ご苦労!!)

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