AWC 再発表]《南シナ海上の武士》【13】 ひすい岳舟


        
#868/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (FEC     )  88/ 3/ 1  19: 4  ( 84)
再発表]《南シナ海上の武士》【13】    ひすい岳舟
★内容
                           南シナ海上の武士(13)
  次の瞬間,食糧庫にあった奴隷達のプレゼントが大爆発を起こした.甲板をぶち
破り,火柱は一気にマスト中部まで吹き上がった.爆発は船の側面を消し飛ばし,
炎が中部中央部の側面,甲板,船内に広がる.ゴォゴォと炎上する.その炎の凄さ
は,酷い扱いを受け,自由を望んで勇敢にマフィアに戦いを挑んだ人々の怒りが爆
発したかのようにみえた.
  船員達は再びパニックに陥った.
  先程の“寝耳に水”の奇襲で肝がつぶれる思いをした彼らは,対馬号を攻撃する
ことによりしだいに“負けるはずはない”という自尊心を取もどしつつあったから
だ.しかし,弱いと侮っていた敵艦から発砲された弾が船をも揺らす大爆発を起こ
した(と,思ったに違いない.まさか,奴隷達のわながしかけられていたなど気が
つかないだろう)のだ.まず,甲板に出ていた砲手達が我先へと争ってボートへ押
しかけた.戦闘参加をしていない大部分の乗員は,事を見ていた砲手と違い,恐怖
心をつのらせながら目隠しの状態であったため,船を激しく震わせた突然の大爆発
にびっくりし,砲手達が逃げ出した事を知ると一気に階段へと殺到した.
 「もう沈むぞう.」
 「どきやがれ!」
 「奴らが乗り込んできたぁ」
 「船体が折れたぁ,もうだめだぁ!!」
  デマが飛び交う中,人々は甲板に出ると数少なくなったボートを争った.
 「おい,俺も乗せろ!」
 「てめぇなんぞ乗るところはこれっぽっちもねぇ!」
 「乗せろ!乗せろ!」
 「うるせぇ−−−かまうこたぁねえ!おう,出しちまえ!」
  数少ないボートを争い,銃撃戦が始まった.そのかたわら,樽を見つけ出し海へ
飛び込む者が現れると今度はそっちへ押しかけた.そして小さな樽1つをめぐって
殺し合いが行われた.
 「よこせ!!」
 「こいつは最初に俺が手をつけたんだ.」
 「そんなこと知ったことか.てめぇには,50シリング貸しがあるんだ.今,この
樽で返してもらおう.」
 「ふ,じゃぁその清算はあの世でたのむぜ.」
  男は先程まで親しかった友人の眉間に,引金を引いた.
  バーク・ゲアリス号は,今や燃えさかる地獄となったのである.

  初めは船体の一部,中部中央部だけだった火の域も,人々が消化活動をしないた
めどんどん広がり,中部全体が炎に没してしまった.火の海は風に扇がれて,甲板
を走り,放置されたままの弾薬箱を包んでいった.もはや,誰も手のつけようがな
くなった炎達は,今度はメインマストに取り付いた.火はマストを伝いぐんぐんの
ぼり帆に飛火した.
  ボッボワァァ・・・・・・・・・
  火のついた白い帆は,みるみるうちにクリスマス・ツリーのごとく鮮やかに燃え
上がった.ロープを伝って火は走り,フオアマストやミドルマストへと向かった.
  一方,船内では,風が吹き激しくうごめく炎とは違い,めらめらとゆっくり燃え
ていた.しかしながら,その火の域は着実広がり,船の骨格を灰にしていった.
 「おい,ザウエル!早くどうにかしろ!!」
  拳銃を胸にねじり込んで  凄んでくるギュンダァーを見て,ザウエルは理性を失
い,逃げ出そうとタックルでなぎ倒した.
 「貴様ぁ!!」
  自分の体にのしかかっているザウエルの顔に拳銃を突き出した.
 「このぉ・・・役たたずめがぁ・・・!!」
  ボォン!ボンボン!ボン!
  ギュンダァーは4回連発した.ザウエルの顔は1発ごとに裂けてゆき,4発目に
は脳が飛び散り,頭の原形はとどめていなかった.
  その横で異常な光景を見つめていたラブダは,自分の友人を宥めようと必死で説
得し始めた.
 「ギュンダァー,俺達の目的はイギリスの奴らをひざまづかすことだろ!」
 「そうだ,当たり前だ」
 「じゃぁ,今回は諦めるんだ.そして,再度,船で・・・・・・・・・」
 「なにぃ.お前にはこれが失敗したと目に写るのか.全て順調にいっている・・・
・・・・・・10年も前からのちみつな計画が失敗するわけがなかろうが!」
 「お,お前は・・・・・・狂っている!!」
 「何だとぉ.狂っているのはどっちだ.国王になりたくないのか!奴らにしっぺ
い返しをしたくないのか!!」
  ラブダは狂ってしまった友におびえながら,無言で首を振りながら,甲板へ飛び
出していった.
 「そうだ!貴様はいつでも,土壇場になると逃げ出すのさ!お前なんぞ朝鮮の国王
はおろか,村長にさえなれやしないさ!」
  全てを失った首領は,燃えさかる甲板に踏み出した.
火の高さは身の丈ほどあり,その中をギュンダァーは薄笑いを顔に浮かべ,歩んで
いった.
 「奴ら金持は,俺の親を殺したのさ.少ない金を稼ぐため,俺達は何でもやった.
靴をなめろ,ひざまづけ,雨の中で踊れ,ものごいをしろ・・・・・・ひでぇこと
やらせて,蹴飛ばして終りさ!−−−−−−神なんて信じちゃぁいねぇが,もしい
たとしてもろくでなしに決まっている.あのイギリスの野郎は,“報いを受けなけ
れば”ならねぇっていうのに天罰が下らないばかりか報復も許されないとは!!」
  彼の右手がスルッと上がり,真上に拳銃をかざした.
  ダァン  ダン!
  弾倉に残っていた2発を誰かに知らせるためのようにギュンダァーは撃った.
 「息子よ,たのむぞ!!」
  すぐ近くで大砲の弾が誘爆し,首領は輝ける紅蓮の光に包まれ,宙に舞った・・・
・・・・・・

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