#867/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (FEC ) 88/ 3/ 1 19: 1 ( 82)
再発表]《南シナ海上の武士》【12】 ひすい岳舟
★内容
南シナ海上の武士(12)
「船長,砲撃をやめさせたまえ.」
「しっしかしラブダ様,それでは・・・」
「連射していては賭けができないのだよ.」
「はぁ?」
「つまりだ.右側23門が1発1発を同時に発砲する.1回に,23発の弾が奴
らに向かってゆくわけだ.それがあたるかどうか・・・賭けるのだ.」
「わっ・・・分かりました.ラブダ様.」
「では,ギュンダァー,どうする.」
「俺は当たるほうに,1ポンド.」
「フフ,小さな塵には当たりにくいんだぜ.もらったな.俺ははずれに1ポンド.」
ザウエルは思った.日本についたら解雇してもらおうと.何故かといえば,殺し
を楽しむ首領やそれが仕事のマフィアでは,彼の望みである長生きや安眠ができそ
うになかったからである.
暗闇の中で,小さな赤い火種は,一生懸命に食べていた.
“そのうち,僕はとてつもなく大きくなるんだ!!”
「弾,装填せよ!!」
蓋が開けられ,重く黒光する砲弾が砲内にさし込まれた.ゆっくり,蓋が閉めら
れた.今 ゲアリス号の砲は,うなり声を上げる前の静けさを不気味に漂わせてい
た.
その小さな赤い点は少しづつ前進し,今食べている物などより比べ物にならない
ほど美味しく,彼をとてつもなく成長させる食べものまであと少しとなった.
彼らは,2日前にこの世に生まれ,もうすぐ大人になりつつあった.
「装填完了!」
「目標約90メートル.」
「てぃ!」
ドドッドドゥン!
一時に強力な閃光が,ストロボのごとく昼のように照らす.そして同じ筒から出
た雲のような硝煙の中を,23の輝点が掻い潜り抜け老船めがけて空をきった!!
ドガァーン!ドボドボォォンドボォォン!
幕船の船尾に鮮やかな閃光が起こった.たった1発だけだったが先程の弾跡と繋が
り,船尾左の上中部が消し飛んだ.炎のついた断片が吹き飛んでしまったため火災
は起こらなかったが対馬号は凄い揺れに襲われた.
「ふふ・・・ラブダ,勝ったな.」
「くそ!そら!−−−−今度はどうする.」
「当たるほうに1ポンド」
「そんなにたて続けに当たるか?ギュンダァー?」
「当たるさ−−−おい,さっさと沈めてくれよ.小銭が足りなくなっちまうぜ.」
甲板上では第2砲撃にそなえ,弾の装填が始められていた.
対馬号甲板−−−
第2砲頭の影に隠れる野多と荒井.
野多がすまなそうに,話しかけた.
「なぁ,あれ以来言えなかったのだが,ここで死ぬ前に言っておこうと思う.」
「なっ・・なんだい.」
荒井はいきなりの野多の言葉に驚いた様子だった.
「この前の喧嘩のことだ.君や薩摩藩を見下したようなことをいってしまった.
しかし,今では恥とる.心から.・・・・・・もし君が腹を切ってわびよと言うな
らば,その覚悟は出来ておる.」
「おいおい,よしとくれ.俺達の敵は野郎達だけで,ほかにはいないんだぜ.そ
れに覚悟することは,腹切りでなく,奴らの砲に撃ち抜かれた時のことさ.」
「あ・・・・・・ありがとう・・・・・・」
荒井はにこっと笑い,急に立ち上がった.そして,うしろの箱より砲弾を抱え持
ってきたのである.今度は野多の驚く番だった.驚いた野多は,しばらくのち彼に
質問した.
「なっ何を・・・・・する気なんだ?」
「敵の野郎にぶっ放すのよ.当たり前だろ?奴らは今,休んでいるらしいからな
!さぁ,蓋を開けてくれ,こいつは案外重いんだぜ・・・」
「分かった!!」
すぐさま筒の中に弾は装填された.しばらく,船の揺れを待った後,巨大戦艦中
部に,狙いを定めた.
「発射!!」
景気ずけに叫んだ荒井の声と同時に,ひさびさに,対馬号から轟音がうなり出て
,オレンジ色の輝点が狙い通りにゲアリス号にむかって飛び出た.
その一発が勝利に導くものであるとは,誰も思っていなかった.
赤い点は,御馳走のもうすぐ手前まできていた.
“早く食べたいなぁ”と思った.
巨大戦艦,中央簡易食糧庫,りんご樽の中で・・・・・・・・・
対馬号より発射された光弾はギュン!!と飛び,砲撃を賭けの道具として使おう
とする船主の船,バーク・ゲアリス号に命中し,激しい閃光と爆音を放った.が,
しかし,外壁を焦がしたにすぎなかった・・・・・・
火の子は,かぶりついた.
.