#1869/3581 ◇フレッシュボイス2
★タイトル (AZA ) 21/08/02 19:57 ( 47)
思っていたのと違ったけど 永山
★内容
WOWOWで放送の映画「罪の声」(二〇二〇年 日本)を録画視聴。ネタバレ注意
です。
有名な昭和未解決事件の一つ、グリコ森永事件を題材に取った作品。原作は塩田武士
の同名小説。ベストセラーになったそうですが、全然知らなかった(汗)。
令和になるまであと数ヶ月の頃。仕立屋の曽根(年齢三十前後)は、父親の遺品から
黒革の手帖とカセットテープを見付ける。手帖の方は英語でびっしり書かれていたので
後回しとし、一九八四とメモ書きされたカセットテープを再生してみると、幼い頃の自
分の歌声が流れて来た。懐かしさに頬を緩めるも、音は突然切れて、やはり幼い自分の
声が、何かを読み上げていた。手帖を見直すと、日本語でギン萬事件と記されているの
を見付け、ネット検索する。それは昭和最大の未解決事件ともされる誘拐及び連続企業
脅迫犯罪のことで、様々な情報がネットには転がっていた。その中にあった、脅迫に使
われた子供の声の一つを再生してみると、まさしく幼い自分の声。遺品のカセットテー
プにあった声と、一言一句同じ物だった。自分の声が犯罪に使われていたと知り、愕然
とする曽根。父親は何を知っていたのか。事件にどう関与していたのか……といった出
だしのストーリーです。この部分までは公開時にテレビCMなどでよく見て、印象に残
っています。面白そうと興味を引かれましたし。
ジャンルとしては一応サスペンスに分類されるのかな。このあと、阿久津という新聞
記者(令和になる前に昭和の未解決事件を洗い直そうという社の方針に従った、元社会
部で現在は文化部の記者)が登場し、物語半ばで曽根と顔を合わせます。興味本位で書
き立てられることを恐れ、取材を拒む曽根が、結局は阿久津と協力していくのですが、
その心の動きがちょっと飛躍があるような。曽根と同じく声を使われた二人の子供(1
5、6歳の女子と6〜8歳の男子)の消息を調べて欲しいというのが阿久津に対する条
件だったのですが、この段階では阿久津に対する警戒を解く要素はほとんどなく、一方
で曽根が単独で、二人を探そうとした描写もほぼない。物語を一歩進めるための強引さ
を感じてしまった。
その前段階、阿久津が曽根の存在に行き着く段取りも、手際が悪い感じ。何で最初の
時点でそこを突っ込んで聞かないの?という疑問がついて回った。
さらに言うなら、糸を手繰れば次から次へと新証言が出て来て、うまい具合に真相に
迫っていくのは、いささか出来過ぎでご都合主義を感じると同時に、全て同じ段取りで
芸がない。そもそも、昭和最大の未解決事件を今になって調べたら、ぽろぽろと新事実
が分かって解決に至った、というのも説得力を欠く。犯行グループが料理屋の個室に集
まって、犯行の相談をしつつ酒を飲み、途中で料理を運ばせる等、普通ならありそうに
ない状況にも首を傾げた。犯人はそういった痕跡をあちこちにぽつぽつと残しており、
それに気付いた人々もそれなりにいるのに、事件発生時点では誰一人として警察に情報
をもたらしていないというのも不可解。触らぬ神に祟りなしと思うのが大半であったと
しても、一人や二人は通報するものではないのかしらん。
全編こんな調子ですから、広い意味での推理物として見れば、正直言って平凡で退
屈。題材による吸引力によって魅せられた。
推理物だとかサスペンスだとかの枠を取っ払い、人間ドラマとしてみるのなら、とて
もよかった。知らぬ間に声を使われた子供達のその後の運命を描き、対比させることで
悲哀が浮かび上がってくるし、犯人に対してきっちり非難の声を上げている。大昔の未
解決事件の真相を突き止める意味・意義といった問題にも、一定の答を示している。“
逃げ”のない作品になっていたと思います。だから、ミステリ好きとしては、そこへ推
理物らしい仕掛けや驚きの真相が組み込まれていれば、なおよかったのになと惜しく感
じます。
ではでは。