#391/566 ●短編
★タイトル (sat ) 11/04/20 01:14 ( 64)
カエル騒動 猫嶋犬彦
★内容 11/04/20 01:15 修正 第2版
雄二はいわゆる本の虫で、いつ何時も文庫本を手放さない。特に雄二が強く興味を持
ったのは世界中の童話で、その中でもお気に入りはカエルにされてしまった王が姫への
愛を貫く、カエルの王子の説話だった。
いつも教室で読書をし、一人でほくそ笑む雄二は当然の如く気味が悪かったし女子は
おろか男子でさえ近づかなかった。
そんな雄二にも恋の季節がやってくる。同じ講義を履修している花子。この娘に雄二
の心は鷲掴みにされた。花子は、ミスキャンパスといった感じで競争相手が多過ぎる。
スポーツ万能でサッカー部のエースの波山田、秀才で爽やかなエリートの枝嶋。
とにかく雄二の恋は前途多難だったのである。
そこで、雄二は考えた。秀才よりもスポーツのエースよりもかっこいいものはなんだ
ろう?花子を手にいてるために腐心した雄二の脳裏にある話が横切るのである。『カエ
ルの王子の説話』一人の女性を愛し続けて、たとえその姿が変わり果ててでも貫くその
姿は、雄二が想像するヒーローそのものなのである。
次の日、雄二はカエルの王子になった。近くのディスカウントショップで購入した真
緑ののタイツを全身に纏い、頭にはこれもまたディスカウントショップで購入したカエ
ルのマスクを被っている。
雄二は、このある意味前衛的過ぎる出で立ちを、愛する人を守る騎士のような、奮い
立つような気持ちで着ている。
早速、花子の元へ向かった。ちなみに、花子と雄二は初対面である。
「ひゃあ!」
と一度は驚いたものの、奇妙なその騎士に徐々に愛着を持った花子は声をかけてやるの
である。
「ねえ、誰なの?」
当然、内気な雄二が答えることもなく
「、、、、、、」
沈黙が帰ってくる。沈黙を破ったのは、波山田だった。
「おい、花子なにしたんだ」
サッカー部の後輩を引き連れた波山田は、いかにもといったヘアースタイルをしてい
る。
「なんかねカエルさんがいるの」
「カエル?なんだこいつ。おい、そのかぶり物をとれよ」
波山田は執拗にマスクを剥がそうとしてくる。雄二は走って逃げた。
その夜、雄二は悔しくて泣いた。そして雄二、いやカエルの変態の復讐劇が始まる。
雄二は、サッカー部の部室に忍び込んで波山田のスパイクの針を全て抜いた。恐ろし
いほど小さな復讐だが、雄二にとってはライバルを蹴落とすための猛攻撃だったのであ
る。
後日、波山田は試合の最中、全力疾走したところ滑ってゴールのコーナーに頭から激
突。脳内出血を起こし死亡した。
ライバルがいなくなったことで、雄二は意気揚々としている。花子を毎日そのカエル
のマスクの小さい穴から観察し、正に自分は『カエルの王子の説話』の王子になったの
だと、高揚感が抑えることができない。
いつも、騎士の名に恥じぬように花子を遠いところから観察し、夜は花子の行動を逐
一ノートのまとめ一人でふむふむと頷くことが好きだった。
そんな生活がしばらく続いたある日、雄二の下宿先のインターホンが鳴った。ドアを
開けると警察が立っている。わけのわからないまま雄二は連行された。
「部屋にはあなたの行動がまとめられた 大学ノートと真緑のタイツ。カエルのマスク
がありました」
警察官は花子に報告した。
そうなのだ。花子は大学の学生相談室に『カエルのマスクを被った男につきまとわれ
ている』と相談していたのである。予々、校内をカエルをマスクを被った男が徘徊して
いると報告を受けていた大学側は、そのまま警察に相談、迅速な対応をした。
起きてまた寝るまでの時間をカエルマスクと真緑のタイツという身なりで行動してい
る雄二の居所はすぐにわかり、この度の逮捕となった。
「男は大野雄二。あなたと同じ学部の3回生です。ご存知ですか?」
「大野?いや、全然しらないです」
「そうですか。この度の報告は以上です」
「ありがとうございました。本当に気味が悪くて」
「あっ。大野から手紙を預かってます。持って帰ってください」
部屋をでる花子。手紙にはこうあった。
『僕はカエルにはなれませんでした』
なんのことか花子にはさっぱり分からなかった。