AWC 謎の空白時代  談知


        
#240/566 ●短編
★タイトル (dan     )  04/12/05  06:30  ( 59)
謎の空白時代  談知
★内容
 中谷彰宏の本を読んでいたら、「成功したひとには謎の空白時代
がある」という文章がでていた。つまり誰にでもすっきり説明でき
るように生きてきてきたひとは成功できない。誰にも説明できない、
自分でもいったい何をしていたのかよく分からないような時代を持
っているひとほど成功できる。というわけだ。
 なるほど、これはいえてるなと思うね。順調に来たひとは、自分
のすべての時代すべての時間をちゃんと説明できるだろう。でもそ
れだけでは、思い切った飛躍というものはないと思う。ひとはしゃ
がみ込むから飛び上がれるのだ。小さく身を屈めていた時代がない
と飛び上がれない。飛躍できない。そういうことはいえると思う。
 実はワタシにも謎の空白時代というのはある。今のワタシが成功
しているのかはよく分からないが、空白の時代はあるのだ。それは
30歳で精神病を発病してからの10年あまりである。その10年
は、引きこもり、閉じこもりの10年だった。一日一度は外にでて
本屋や喫茶店などにいっていた。だから完全な閉じこもりではない
が、しかし、外との交渉がほとんどなかったことは確かだ。ひとと
の交渉もほとんどなく、他人と話をすることもほどんどなかった。
家族以外と話をすることといったら、月に一度病院にいったとき、
知り合いとちょっと話すくらいだった。
 20代は東京にいってたり海外をほっつき歩いていたりで、自宅
周辺に知り合いがまったくいなかった。友人知人はおろか、ちょっ
と話すようなひとさえいなかった。そして精神病にかかっていると
いうことで、新たな知り合いも作りにくかった。作れば、病気のこ
とをいわなければならないし、それはやはりストレスだった。
 閉じこもりの原因は、病気からくる生命力の衰退だと思う。とに
かくしんどくて、外にでかけるような気力がわかなかった。とにか
く、最初の数年はそうだった。そのあとは、もう習慣というか、惰
性というか、そんなもんだろう。ひとは人間関係がまったくないと、
どこかへいくという気分になれないものらしい。それに金もなかっ
たから、どこかへいく交通費もなかった。だいたい月1万円くらい
小遣いを貰っていたと思う。一日300円である。そうなると、喫
茶店にはいってコーヒーを飲んだらもうそれで終いである。あとは
もうどこへ行くこともできないし、何をすることもできない。今思
うと、この金の問題は大きかったと思う。少なくとも10年のうち
の後半は病気によるしんどさもかなり改善していたはずで、それで
も閉じこもりが続いたのは、やはりこの金のないことによって移動
できなかったことが大きいように思う。ちなみに今は障害年金を月
6万貰っているので、どこへでもいける状態である。これが今の行
動力を生み出していることは確かだろう。
 家に閉じこもって何をやっていたかというと、ほとんど本を読ん
でいた。この病気にかかると本を読む気力もなくなるひとが多いの
だが、幸いワタシは本を読むことができた。図書館から本を借りて
きて読んだ。限度いっぱいの10冊借りて数日で読んでしまう。と
にかく、家にずっといて本を読むしかすることがないのだからそう
なる。一日2冊3冊と読んだ。5冊くらい読んだときさえあったと
思う。この10年でどのくらい読んだだろう。一日3冊平均で読ん
だとして、月100冊、年1000冊、10年で10000冊か。
とにかくよく読んだ。
 現在ワタシはけっこうおしゃべりである。元々はそうしゃべるほ
うではなかったが、今はダジャレもぽんぽんとびだすし、よくしゃ
べる。これは明らかにこの読書による知識の増大のせいである。そ
のせいで、ひととの関係も良好になったと思う。ワタシと周囲の人
間関係はいい状態を保っている。そのせいで楽しい毎日を送ってい
る。これを成功というなら、確かにワタシは成功していると思う。
 閉じこもりの10年。外からワタシをみたら何しているかわから
ない10年である。空白の10年。しかし確かにその10年は現在
のワタシのありかたを準備していたと思う。
 謎の空白時代。そんな時代のある奴のほうが面白く生きていける
のではないかと思うね。





前のメッセージ 次のメッセージ 
「●短編」一覧 談知の作品 談知のホームページ
修正・削除する コメントを書く 


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE