#239/567 ●短編
★タイトル (dan ) 04/12/04 05:46 ( 31)
愛犬ミツ 談知
★内容
子供の頃犬を飼っていた。名前をミツという。秋田県の雌だった。
母親がどこからか貰ってきた犬だ。血統書付きの犬だという触れ込
みだった。そういわれてみるとどことなく品がありそうな犬であっ
た。
当時子供たちの世界では、犬の善し悪しを、犬の尻尾をを握って
ぶら下げて、鳴くか鳴かないかで決めていた。鳴く犬は駄目な犬で
鳴かない犬はいい犬なわけだ。ミツの尻尾を握ってぶら下げてみる
と、全然鳴かない。これはいい犬だとワタシは勝手に決め込んだ。
しかし、かなり大きくなって体重が重くなってからぶら下げても鳴
かない。ただ単に鈍感なだけだったんじゃないかと今にして思う。
九州の田舎のことである。犬は完全に放し飼いである。首輪は一
応つけていたが、ひもで結ばれるということもなく、ミツは自由に
動いていた。朝飯を食べてそれからどこかへいき、夕方帰ってくる
という感じ。どこで何をしていたのか知らないが、自由気ままに生
きていた。犬にとってはいい時代だった。
そしてある日、ワタシたちは大阪に移ることになった。行った先
では犬は飼えないといわれて、ミツは親戚のひとに飼ってもらうこ
とになった。大阪に出発する日、ミツも親戚のひととお見送りして
くれた。ワタシたちの乗ったバスが発車するとミツが追いかけてき
た。どこまでもどこまでも追いかけてきた。しかししだいにミツと
間があき、いつか見えなくなった。それきりミツとは会ってない。
引っ越した大阪では、何だかんだ大変で、ミツのことも思い出す
こともなく時間が過ぎていった。高校生くらいのときだろうか、ふ
とミツのことを思い出し、あれからどうなったんだと母親に聞いた
ことがある。そしたら、ミツは別れて一ヶ月くらいして死んだとい
う。全然ご飯を食べず、それで死んだそうだ。
我が家にはミツの写真が一枚だけある。ワタシと弟と一緒に写っ
ている写真だ。写っているミツの姿をみるたびに、ワタシはすこし
後ろめたい気持ちになる。この犬はワタシを忘れなかった。ワタシ
はすぐ忘れた。
これ以後、我が家で犬を飼うことはなかった。