#207/569 ●短編
★タイトル (dan ) 04/11/02 06:32 ( 52)
大富豪 談知
★内容
大富豪といっても大金持ちのことではない。トランプのゲームの
大富豪のことである。大貧民ともいう。麻雀の簡単なものみたいな
ゲームである。ワタシは麻雀はできなが大富豪はできるのである。
このゲームを覚えたのはユースホステルにおいてであった。ユー
スホステルをご存じだろうか。若者向けの安い宿である。大抵二段
ベッドの4人部屋とかいったもので、その代わり料金は安かった。
ワタシがよくいっていた30年前で素泊まり1000円くらい。現
在でも3000円くらいではなかろうか。
ユースホステルではミーティングという集まりをする。いろんな
ことを話したり歌ったりゲームをしたりするわけである。今の若者
ならそんなのうざったい感じで拒否するかもしれないが、当時はそ
んなのが流行っていてみんな熱心にやっていたものだ。そのなかで
よくやったゲームが大富豪だった。
ワタシはこれをたしか礼文島のユースで覚えたのだと思う。あそ
こにはよく行っていたし、何しろ何もない島なのでゲームでもして
時間をつぶすしかない。4、5人集まるとかならずやっていたよう
な気がする。
それ以上にやったのが沖縄の先にある西表島だった。そこのユー
スに1週間ほど泊まっていたことがある。ちょうど正月を挟んで泊
まった。ここもまた礼文島以上に何もない島である。トランプでも
するしか時間のつぶしようがない。正月ということでひともけっこ
う泊まっていたので、すぐ人数は集まった。それで連日連夜大富豪
をやっていた。
あれはつきがほとんどのゲームなんだよね。いいカードが来れば
勝しこなければ負ける。運のいいものが勝つゲームである。となる
と、変に意識しない子供とかが強かったりするのだよな。そのとき
も、ひとりの子供がめちゃくちゃ強くて、ほとんどその子が大富豪
だった。
ワタシは平民とかいうときが多かった。強くもなく弱くもない。
運もないが不運もない。何とも中途半端な感じの位置である。まあ
ワタシの人生もそんなもんだったしな。それに似合っている。
ユースホステルは健全な若者の宿ということになっていたから、
女性も多く泊まっていた。一緒に大富豪をやる仲間に背が高くて可
愛い女性がいた。ワタシはその女性目当てに大富豪をやっていたよ
うなものだ。その女性にいいとこ見せたいとずいぶん頑張ったのだ
が、めったに大富豪にはなれなかった。まあワタシの人生そんなも
んかもしれない。
大富豪ばかりして一週間がすぎ、ワタシは島を離れた。それ以来
25年はたつが、めったに大富豪をすることもなかった。あのとき
やりつくしてしまったのだろうか。
最近はインターネットのゲームサイトで大富豪をやったりすると
きもある。まああのときほどの熱心さではなく、たまにであるが。
ふと思うのだが、もしあのとき大富豪が連続してできていたりした
ら、思い切ってその女性を口説くことができたのかもしれないな。
その勇気をもてたかもしれないなと思うときがある。大貧民ではな
いが、大富豪にもなれず、可もなく不可もない中途半端な人生を送
っていたワタシには、その彼女を口説く勇気がどうしてもでなかっ
た。大富豪がどんどんできていたら、その勇気がもてて、その後の
人生も変わっていたのじゃないか。でももうそれもすべて過去のこ
と。今となっては夢のまた夢だな。
インターネットで大富豪をするとき、ふとそんなことを考えたり
する。あの女性は今頃どうしているのだろうか。