AWC 「仏教高校の殺人」8    朝霧三郎


        
#584/598 ●長編    *** コメント #583 ***
★タイトル (sab     )  21/10/31  08:59  ( 88)
「仏教高校の殺人」8    朝霧三郎
★内容

 翌週、妃奈子はすぐに、教習所の卒検に合格した。
 週中には学校をサボって府中の試験場で試験を受けて免許が交付される。
 その週末には世田谷通りアルファロメオ正規ディーラーから、
アルファロメオ・ジュリエッタが届く。
 妃奈子の寺は、山門から参道を行くと左右に塔やら金堂、奥にでっかい講堂
のある法隆寺式で、裏に庫裏だのがあり、その裏の駐車場がある。
 そこに赤いジュリエッタが止まっていた。
 ピッカピカのジュリエッタにバーバリーのコートを着てエルメスのスカーフを
頭に巻いて、もたれかかる妃奈子。
「どう? 決まっているでしょう、写真撮ってよ」
「おお」
 俺は、スマホを出すと、数枚撮った。
 カシャカシャ。
 妃奈子は、ジュリエッタのドアを開けると、ハンドルからシートから
シフトレバーまで総革張りの“なまぐさ”のかたまりに乗り込んだ。
 ブランドロゴの型押しされているヘッドレストに頭をつけると、あーっと
伸びをする。
 それから、電動シートをいじくったり、インパネをいじくったり、
ギアシフトをなでたりハンドルにもたれかかったり、している。
「やっぱりイタリア製の曲線美というか、エロテックでさえあるわ」
 エンジンスタートさせて、2、3回アクセルを踏み込む。
 ファィ〜ン、ファイーーーン
 そしてにんまりと微笑。
「そんじゃあ、これからお前、試し運転してみろよ、オレが写真をとってやるよ」
 いうと俺はスマホを翳した。
「この望遠レンズで、あの急坂の真ん中の土手のところで構えているから」
 日野大阪上からの急な下り坂を俺は示した。
「その恰好で走り降りてこいよ、バーバリーのコートきて、エルメスのスカーフ
をまいて、こんな坂を下ってくるんじゃあ、モナコのグレース王妃みたいじゃないか」
「あら、8組のグレースケリーは蓮美なんじゃないの? でも、アルファロメオは
似合わないけど。
 チャリが似合いで」
「じゃあ、お前、グレースケリーとか言っても坂で事故るなよな。
 まだ免許取り立てだから気を付けて」
「分かってるって」
 そしてアクセルを更に2回、3回をふかした。
 ファイーーーン、ファイーーーン
「あっ、CD忘れた。
 曲がないのが寂しいなあ」
 と妃奈子。
「じゃあ、オレのダップ貸してやるよ」
 言うと俺は軽バンの助手席に行って、自分のDAPをとってきた。
「何、これ」
 とさっそく耳にイヤホンを突っ込んで再生する。
「普段俺が聞いているいい曲が入っているから。
 こんなイタリア車にばっちりな曲だよ。
 イタリア車だからってオペラじゃないよ。
 普段俺が聞いている、90年代2000年代の定番で、Hip Hop Hoorayとか
Cupid Shuffleとか」
「ふーん、いいじゃん」
 妃奈子は首を振ってのっている。
「じゃあ、俺が先に行って、カメラの準備が出来たらスマホで連絡するから、
そうしたらこいや」
 そして俺は、軽バンで坂を下ること、3分、この前妃奈子に抱き着かれて
転落しそうになった崖のちょっと先の、中腹の土手に停車。
 そして、スマホで連絡する。
「降りてこいや」
 そして俺はスマホを構えてアルファロメオを待った
 1分、2分…2分30秒、3分後、赤いジュリエッタが見えた。
 妃奈子は窓全開でスカーフをなびかせつつ、いい調子で運転している。
 俺はスマホをそっちに向けた。
 写真を取るんじゃない。
 DAPに『HiByLink』というアプリで信号を送って遠隔操作する為だ。
 このアプリで信号をおくればタップの曲を選択することが出来る。
 妃奈子が例の崖の手前数十メートルに来た。
 俺は『HiByLink』のボタンを押して、遠隔操作する。
 妃奈子の聞いているダップは曲が飛んでJ−WAVEのジングルが再生される筈。
 JJJ、J−WAVE
 JJJ、J−WAVE
 J−WAVE トラフィックインフォーメーション
 JJJ、J−WAVE
 JJJ、J−WAVE
 エイティーワン、ポイントスリ〜〜〜〜、ジェ〜〜〜イ、ウェ〜〜〜ブ
 JJJ、J−WAVE
 JJJ、J−WAVE
 今、妃奈子のイヤホンからはJ−WAVEのジングルがまとめて流れている筈。
 そして目を凝らして妃奈子を見ると、目を瞬かす妃奈子が見えたーーーー。
 そして目を押さえた、かと思ったら、ハンドルを右へ左へと切り出す。
 妃奈子は完全にパニクっている感じだ。
 車はどんどんと坂道を加速して降りてくる。
 わーーーーっていう顔をして両手をハンドルから離しちゃって耳を押さえた。
 そして、ブレーキ音もしないまま、ピッカピカのアルファロメオは、
錆びて朽ちかけたガードレールを突き破ると、崖から飛び出していった。
『テルマ&ルイーズ』のラストシーンみたいに綺麗な放物線を描いて落下していく。
 最後にガッシャーんという音が微かに聞こえた。
 あっけない最期だった。
 モナコでグレースケリーが事故った時もこんな感じ?




元文書 #583 「仏教高校の殺人」8    朝霧三郎
 続き #585 「仏教高校の殺人」9    朝霧三郎
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