AWC 同級会と長州旅行 (3-4)   /竹木 貝石


        
#97/598 ●長編
★タイトル (GSC     )  02/09/25  22:17  (104)
同級会と長州旅行 (3-4)   /竹木 貝石
★内容

 第3日目 8月6日(火)

 今日はメインの萩見物である。
 私は今回の旅行に際し、司馬遼太郎著『街道を行く』の第1巻〈長州路〉を、
名古屋ライトハウス経由で、新潟点字図書館から借りて読んだ。関ヶ原の合戦
で西軍に味方した毛利家は、石高を36万石に減らされ、城を萩に移転させら
れた。だから、幕末の長州藩の活動は萩が根拠地であり、歴史にまつわる建物
が多い。

 予定通り東萩駅に到着し、まずタクシーで、『高杉晋作の家』に来た。
 こじんまりした家で、老朽化のため畳に上がることは出来なかったが、風化
した柱や引き戸や敷居に触れ、玄関の小縁にも腰掛けて見た。
 母屋の横手には、植え込みや井戸や物置小屋があり、縁側の佇まいが懐かし
い。

 この辺り一体は城下町で、旧い町並や家々が保存されている中にも、人々が
住んで生活している。
 道路は舗装してあるが、車2台分の幅はなく、道の両側の塀や側溝にも情緒
がある。
 田中義一の銅像、他にどんな建物が在ったのか?

 『菊屋家住宅』を見学に入った。
 菊屋家は毛利氏の御用商人で、かなりの資産とそれなりの発言権があったら
しく、萩城下の町割りを任され、年寄り格の一員にもなっていたという。
 入場料500円で部屋に上がると、中年の女性が説明と案内をしてくれて、
貴重な品や部屋の作りを実際に触れてみることが出来た。
「この長押は半丸形といって、珍しい物だそうです。」
 なるほど、円柱を縦に切ったような木材が、襖の上の敷居に取り付けてある。
「ここの板の間は、総欅貼りの上に杉の板がかぶせてあります。何故かと申し
ますと、商人の身分で欅の板を使うのは贅沢ということで、お殿さまがお渡り
になるときは、遠慮して杉の板で覆って見えなくしたのです。」
 材質の違いを手触りで見分けることは出来なかったが、板敷きの上にざら板
のような物が乗せてあった。
「この家には手水鉢が二つございまして、大きな御影石をくり貫いてこしらえ
た物です。身分の高いお客様が手を洗う場合、縁の端に立って両手を伸ばすと、
接待係りが柄杓で水をおかけします。その際、水が跳ねて着物の裾を濡らすよ
うなことがあっては『無礼者』となるので、足下の地面を低く掘り下げて絶対
に水が掛からないようにしてあります。手水鉢のすぐ脇に〈お立ち石〉があり、
係りの者はこの上に立って柄杓で水を掛ける訳です。」
 私は縁の上から及び腰で手水鉢を観察していたが、思い切って〈お立ち石〉
の上に下りたってみた。丸みを帯びた岩で、上面は両足よりもやや広いくらい
の面積だが、底面はよほど広いらしく、微動だにしない。手水鉢の上面は、約
3尺×1尺5寸もあり、こちらも地面までどれくらいの高さがあるのか、調べ
ることは出来なかった。
「ここが畳廊下になっています。」
 板の廊下よりも畳廊下の方が高級なのだろうか?
 最後に、かわやの所から石段を下りて、米倉と金蔵も案内してもらった。壁
の分厚さもさることながら、地面(土間)が深く掘り下げてあって、その中に
蓄えを埋める方式になっているのは、火災のときの備えだそうだ。

 300メートルほど歩いて、『桂小五郎の家』を見物した。
 高杉晋作は130石取り、桂小五郎は僅かに20石取りの武士だったが、桂
の家の方がはるかに大きく部屋数も多いから、おそらく、明治以後の木戸孝允
の住宅を、東京から移築したものだろう。

 昼食は、すぐ向かい側の『がんこ亭』でソバを食べた。
 今日も大層暑いのに、この店にはクーラーが無く、扇風機だ。『出雲ソバ』
の特徴なのか、三つの小皿に種類の違うソバが盛り分けてあり、ソバ露も3種
類あった。

 萩の主な観光場所は二つの地区に分かれていて、午後は吉田松陰関連及びそ
の周辺地区を見物する。
 タクシーでホテルまで来て、荷物を預け、受け付けで案内地図をもらって、
歴史の跡を散策した。
 東光寺、松下村塾、吉田松陰が謹慎した家、松陰神社などを巡ったが、家の
中まで入ることは出来ず、説明を聞いたり建物の外壁を触るくらいしかない。
 ざっと一通り廻って、そろそろホテルへ帰る頃、突然雲行きが怪しくなり、
雷鳴とともに大粒の雨が降ってきた。あいにく傘を持ってこず、急ぎ足になっ
たが、このままではずぶぬれになる。
 丁度その時、A君の目にお寺の山門が見えたので、これ幸いとかけ込んだ。
 先に女性が一人雨宿りをしていたが、その人はまもなく携帯電話で自家用車
を呼んで帰っていった。
 一時雨足が強くなり、雷も近づいたが、30分くらいで雨が止んだので助か
った。


 国際観光旅館『萩本陣』は、部屋も食事も豪華で申し分ない。
 ただ、部屋係りの職員(昔でいう女中さん)は、早めにチップを渡さなかっ
たせいか、最初に顔を見せた後、二度と姿を表さず、翌朝の挨拶にも来なかっ
た。確かにチップを出しそびれたのは事実だが、いずれ手渡すつもりであった
から、女中さんとしては、短気を起こしたのが失敗だったろう。
 夕食の料理は『上』を予約注文しておいたから、料理に合わせて部屋のラン
クも決まるのだろうか? 広々として見晴らしも良く、すてきな部屋だった。

 このホテルで最も気に入ったのは、建物の一階からモノレールで露天風呂に
登っていけることである。モノレールにはスリッパを履いたまま浴衣掛けで乗
ればよく、こんなに便利で優雅な設備は滅多にない。
 3輌連結で、一つの車輌に5人掛けの椅子が2列あり、発車してなだらかな
坂を4分ほど登ると男性用露天風呂、もう3分ほど登ると女性用露天風呂、そ
こからモノレールを乗り換えて、さらに5〜6分くらい登ると展望台に達する。
展望台も良い景色だが、露天風呂は特に素晴らしい!
 手前に高温の岩風呂、その奥に微温の岩風呂があり、各々5×8メートルく
らいの長方形で、丸みのある大きな自然石が、湯船の中や周辺に多数配置され
ている。山の中なので、樹木に囲まれて空気は爽やかだし、鳥やひぐらしの声
も聴こえる。レールに沿った舗装道路を散策することも出来るが、盲人が一人
で歩いて、万一モノレールのプラットホームから転落すると、けがや骨折どこ
ろか命が危うい。
 今日はウイークデイで割合空いているので、浴後はのんびり、A君とモノレ
ールに乗って往復したりした。

 レストランで夕食を食べる。瀬アジの生き作りやカニの他、どんな料理が出
たのかすっかり忘れたが、何しろ品数が多くて、全部食べ終わるのに2時間近
くかかり、周りに誰も居なくなったほどである。





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