#4349/5495 長編
★タイトル (AZA ) 97/12/24 11:48 (185)
そばにいるだけで 18−9 寺嶋公香
★内容
柚木が素っ頓狂な声を上げるのも道理で、中から出て来たのはピンク色の固
まり−−大きな豚のぬいぐるみだ。かなりデフォルメされており、ウィンクが
愛らしい。当然のごとく、純子達第三者は大笑い。
「おお。せいぜい、かわいがってやってくれたまえ。結構、かかったんだし」
清水は笑いが取れたことに満足したか、胸を張った。
「こんなギャグのために、金をかけるなよ」
ばか負けしたみたいに柚木は言って、ぬいぐるみの鼻を突っついた。
「面白いね。触っていい?」
純子が聞くと、戸惑ったように「あ、ああ、いいよ」とぬいぐるみを放り出
す柚木。
純子、富井、井口の三人で、ぬいぐるみの鼻や耳やら手足やらを、引っ張っ
たり押し込んだりする。
「この尻尾、かわいい! くるくる渦巻き!」
なんて言いながら、尻尾を引っ張って放すと、バネのように戻った。
「やっぱ、女子に当たった方がよかったみたいだぞ」
「そうだな、うん」
大谷と清水がそんなやり取りをする。
と、白沼が待ちきれないように口を開いた。
「次は富井さんなんですけど」
語尾を高くした言い方に、富井はすぐさま反応。
「はいはぁい。では……どっこへ行くのっかなあ」
鼻歌混じりに指を進める富井。やがてその指が止まり、富井のふっくらした
笑顔が曇る。
「がっくり。久仁ちゃんだよぉ」
「私もがっくりだわ」
頭を抱える井口。
落胆したのは二人だけではない。一部の男子も感情を−−冗談ぽく−−露に
した。
「少ない女子同士で組み合わさっちゃうと、もったいない。ボク、凄く寂しい
気分」
勝馬が言って、首を折って下を向いた。
「泣くな。まだチャンスはあるぞ」
長瀬が笑って勝馬の肩を叩くと、勝馬は「気休め、どーもどーも」と返す。
こんな風に笑いを交えながら、あみだくじは進んでいった。そしていよいよ、
白沼が辿る番が巡ってくる。
(当然、相羽君のところに……)
白沼の横顔を見ながら、純子はそう信じ込んでいた。ところが、実際は違っ
たものだから、びっくりして、思わず「えっ」と声を上げた。
「何が『えっ』なの?」
「う、ううん。何でもない」
井口から指摘されたので、慌てて首を振ってごまかす。
「柚木君は、何を用意してくれたのかしら?」
白沼は笑みを絶やしていない。ということは、失敗ではないのだろう。純子
は心中、首を傾げながら事態を見守る。
柚木の持って来た平べったい包みは、三十六色の色鉛筆。それも単純に赤や
青といった名称ではなく、「学校帰りの秋の夕焼け色」とか「南極の流氷越し
に見た空色」といった奇妙に凝った名前が付いている。
「使わなくても、これなら面白いかと思って」
「いいわねえ。見てるだけで、楽しい……と言うよりも、笑っちゃいそう」
白沼が指差したのは、「役目を果たし終えた枯れ草色」。確かに、凄いネー
ミングセンス……。
純子の疑問は解消されないまま、あみだくじは続く。やがて涼原の番が回っ
てきた。さすがに自分のこととなると、どきどきの度合いも一段と高くなる。
「−−大谷」
行き当たった名前を口に出し、振り返る純子。
大谷はVサインを作って応える。その笑顔が怪しい。
「変な物じゃないでしょうね」
「うーん。どちらかと言うと、よくある物だよな」
大谷が答えるその横で、清水が「そうそう」と言って、やっぱり笑っている。
「何か、ありそうな……」
「いいから、開けてみろって」
大谷から渡されたのは、直方体をした箱。包装紙の上からでも、固い感触が
伝わってくる。両手を揃えればちょうど載るぐらいの大きさで、重さはさほど
ない。純子は慎重な手つきで、紙を取り去った。
木箱が現れた。上部は蓋になっているらしくて、花や蔦のイラストが施して
ある。なかなかきれいな外観と言えた。
(オルゴール? それにしてはゼンマイを巻くつまみがないわ)
純子は警戒の眼差しを大谷と清水に向ける。
「どうしたー? 蓋があるだろ。早く開けろー」
「うるさあいっ、今開けるったら!」
右手を蓋に掛けようとしたその瞬間。
「あ」
ほとんど肩越しに手が伸びてきたかと思うと、純子の左の手の平から箱を持
ち去った。
相羽だった。
「あ、あんた、何を」
「待ちきれなくて」
ふっと笑みを見せると、相羽は小さな木の箱を持った左手を、いっぱいに前
に突き出してから、右手の指先で蓋を開けた。
と、突然、機械的な音声があふれ、同時にハロウィンのかぼちゃみたいな赤
色の物体が飛び出してきた。
「こんなことだろうと思った」
相羽は左手を引き寄せ、赤い球の部分を指で弾く。
バネの先端にお化けらしい丸っこい顔が付いていて、蓋を開けるとそれが飛
び出し、連動して意味不明の音声が流れ出す仕組みになっているようだ。蓋を
閉じると音が止まる。
「びっくり箱なの? よくもまあ、こんな子供だましな物を……」
純子自身、唖然としてしまって、開いた口が塞がらない状態。
「そんな風に言わないでくれよ。これでも必死に考えたんだぜ。誰にでも通用
するプレゼント」
言い訳しながら、大谷は清水の後ろに逃げる体勢。もっとも、清水の方も若
干及び腰であるようだ。
「プレゼントねえ。びっくり箱もらって、どうやって使えって言うのよ、全く」
「そんなことよりも、何故分かったのよ、相羽君?」
白沼が言って、相羽の右腕を揺すっている。
相羽は小刻みに揺れながらも純子にびっくり箱を返し、のんびりした口調で
答えた。
「別に……二人の態度がいかにも怪しかったし、そういう形のびっくり箱、お
もちゃ屋で見かけた記憶があったからさ」
彼の答に、白沼は「なあんだ、びっくりした」とわざとらしく驚いてみせ、
おもむろに涼原に向かって小さな声で言った。
「こんなことなら、私が大谷君のに当たればよかったわ」
純子は何も返せず、白沼と富井、井口の二人を交互に見やって、ただただ冷
や汗混じりの笑みを浮かべるしかない。
くじは大詰めを迎え、相羽の番。
そして。
「−−ああ、よかったわ!」
相羽のもらう相手が決まった瞬間、その当人である白沼が声を上げ、手をぱ
ちぱちと叩いた。
「相羽君に当たってくれたらいいなって、ずっと祈っていたのよ。クリスマス
の神様が、願いを叶えてくれたのかしら」
白沼の弾んだ口調に、相羽は圧倒されている様子。
(そっか、やっと分かったわ。白沼さん、これを狙ってたのね)
相羽にプレゼントの包みを渡す白沼を見、その考え方に呆気に取られてしま
う純子。
(白沼さんは相羽君のプレゼントがほしかったんじゃない。ううん、ほしかっ
たでしょうけど、それ以上に、自分自身の物を相羽君にあげたかったわけね。
それのために、くじに最後の一本を書き加えた……凄い。よくやるぅ)
そうなると、白沼が一体何を用意したのか、少なからず気になるところだが。
「お家に帰ってから開けて、ね」
と白沼に念押しされては、相羽も従うしかなく、他の者は中身を知ることが
できなくなった。
さて、純子のプレゼントに行き着く者は最後までなく、結局、勝馬があみだ
くじを辿らずして、その該当者と分かった。
「女の子からプレゼントをもらうのって、初めてだから、感激だなぁ」
どこまで本気で言っているのか、表情が緩みっ放しの勝馬に、純子は「はい
はい、どうぞ」と手渡しした。
「開けようぜ」
関係ない清水と大谷が主張するのを、横目でにらむ純子。
「こら。一応、私に断りなさいよね」
「いいんだろ、どうせ?」
清水は相変わらずの調子だったが、もらった当人である勝馬は、
「あ、開けてもいい?」
と、いつになく丁寧な物腰で聞いてきた。
「どーぞ。慌てて割らないようにね」
相羽や長瀬らも注目する中、箱から出て来たのはペアのマグカップ。暖色系
を帯びたクリーム色と言えばいいのだろうか。とにかく、何も注いでいない状
態でも、見た目で温かい感じのする色合いだ。カップの表面にはほのぼのとし
た風情のイラストがあって、一つはピンクの髪をした女の子、もう一つは水色
の髪をした男の子と一目で分かる。ともに真正面を向き、背伸びした格好で、
目は細いと言うよりもむしろ、閉じられているらしい。
「ありがとう」
さも嬉しそうに、カップ二脚を取り出し、眺める勝馬。
「子供っぽいの」
例によって清水がけなすが、それに対して純子が反発する前に、また相羽が
口を開いた。
「−−なるほど、ちょっと面白いな」
「何が?」
「勝馬、そのカップ、並べてテーブルに置いてみて。引っ付ける感じで」
「変なこと言う……。こうか?」
不思議がりつつ、言われた通り、二つのマグカップをぴたりと近接させた勝
馬。取っ手の部分が、ちょうど正反対に向く形である。
「これがどうしたって?」
「横から見れば分かる」
相羽の言葉に誰もが−−買ってきた純子も−−しゃがんで、横方向からカッ
プを眺める。美術館の目玉ショーケースに群がる入場者といった感じだ。
「あ」
全員の反応は全く一緒。短く叫んで、程度の差こそあれ顔を赤くする。
イラストの二人は、口づけをしているのだった。
「並べると、こういう絵になるように描いてあるみたいだね。知ってたの?」
純子を流し目で見やってくる相羽。その目元に、ちょっとした笑みが浮かん
でいた。
「し、知らなかったわよ。お店に並べてあったときは、同じ方角を向いていた
から、この絵」
急いで答える純子。
その背後から、大谷が意地悪く指摘する。
「とか言って、やらしいこと考えて……」
「大谷クン」
一八〇度、くるりと向きを換え、純子は半眼を作った。両手首を腰に当て、
首を心持ち傾げるのも忘れない。
「そう言う自分は、何を持って来たんだったかしら」
「う」
たちまち縮こまる大谷。今度は清水も助け船を出さない。
「びっくり箱持ってくるような人には、そういう単純な思い込みしかできなく
ても、不思議じゃないけれど」
「も、もう、謝ります。ごめん、悪かったです」
ついには、ぺこぺこし始めた大谷。
「全く、最初から、余計なこと言わなきゃいいのに」
「それは……涼原さん、怒ると恐い」
「何よ、それっ?」
純子が一喝すると、大谷は猫から逃げる鼠のごとく、物陰−−清水の背−−
に隠れた。
プレゼント交換会は、笑いの渦の内に終了した。
−−つづく