AWC そばにいるだけで 18−8   寺嶋公香


        
#4348/5495 長編
★タイトル (AZA     )  97/12/24  11:47  (180)
そばにいるだけで 18−8   寺嶋公香
★内容
「全員で何人来るのか、誰か聞いてる?」
 井口の問いに、勝馬が応じる。
「白沼さんを入れてちょうど十人が集まるんだってさ」
「てことは」
 指折り数え始めたのは富井。「私でしょ、純ちゃんに久仁ちゃんでしょ……」
という風に、右手の立てた指五本を左手の人差し指で丁寧に下げたり上げたり
する。
「相羽君が来れば八人。あと二人は?」
「長瀬と柚木だって」
「じゃあ、女子は私達だけ?」
「そういうこと」
 しばらくして、その長瀬と柚木が現れた。先ほどの純子達と同じように、白
の案内で部屋まで来ると、たちまちの内に空気に馴染む。
「もうそろそろなのに。誰か、相羽君から連絡でも聞いてない?」
 部屋を去る間際、手首内側の小ぶりな腕時計を見つつ、白沼が言った。
「なーんも聞いてないぞ」
 清水が言う。他のみんなも同様だ。
(どうしよう)
 朝方から昼間にかけて相羽と顔を合わせている純子は、その事実だけでも言
おうか言うまいか、いくばくか悩む。
(言ったからって、ここへ相羽君がいつ来るか、はっきりするわけでもないし
……困ったな)
 白沼の心ここにあらずといった態度が、気の毒に思えてくる。
 よほど言おうかと口を開きかけた折−−。
「絵里佳お嬢様。相羽信一さんがお越しです」
 お手伝いさんの呼ぶ声に、白沼は花が咲いたように表情を明るくし、スカー
トの裾を広げる勢いで振り返ると、廊下を走って行った。
「うわあ……何だか、見えてきたよね」
 純子の傍らで、井口が小声で言った。
「純や芙美が噂してる、白沼さんの凄さが……」
「うん、うん」
 富井も一緒になって、しきりと感心する。それから口元を引き締めた。
「でも、負けてられないよぉ」
 やがて白沼に腕を引っ張られる感じで、相羽が現れた。
「相羽君が最後よ。これで全員揃った」
「あ、遅くなって、ごめん」
 謝る相羽だが、今はそれ以上に、白沼に腕を抱えられて動きにくいのが迷惑
そう。
「いいのよ。ちょうど六時。じゃ、ダイニングの方に移って」
 白沼に従い、全員で部屋を出た。

 夕食のメインは七面鳥の丸焼き。本物の七面鳥料理を見るのは、テーブルに
着くほとんど全員にとって初めてだった。
 他には、オマール海老のグラタン。縦割りにした海老の殻を器に使っている。
(相羽君の好物だってこと、聞いたんだろうなあ)
 スプーンですくって食べながら、そう思う純子だった。
 左斜め前の相羽を見ると、特に意識した様子もなく、淡々と口を動かしてい
る。
 ただ、その左隣にいる白沼が、「味、気に入ってくれた?」とか「ジュース
のお代わり、いくらでもあるから」とか、いちいち話しかけるのが気になった。
 富井と井口に目線を向けると……。
「いいなあ。私の家でもパーティ、開けたらいいのに」
「そうしたら、相羽君を呼んで」
 などと話している。
(そんなに心配するほどじゃないみたい)
 呆れ気味の吐息をしてから、純子は最後のひとすくいを口へ運んだ。
「いい食べっぷり」
 右横の席に座る長瀬が、気取った調子で息をくすっとこぼす。
「女子の中では一番だ」
「こ、これは……他のみんなは喋ってるから。ほら、私、黙々と食べてた」
 口を覆い隠しながら、純子は顔を赤くした。見られてるなんて、全く意識し
ていなかった。
「そんな恥ずかしがらなくても、確かにおいしいんだから、仕方がない」
「ジュ、ジュース注ごうか、長瀬君。コップ、空っぽ」
 話題を逸らそうと、純子は長瀬の手前にあるコップを指し示すと同時に、開
けたばかりのペットボトルを持つ。
「ほんとだ。ありがたく」
 差し出されたコップに、純子はジュースを注ぎ入れる。縁ぎりぎりまで、オ
レンジ色の液体で満たされた。表面張力の働きが、はっきり見える。
「あ。入れすぎちゃった」
「いいって、いいって」
 口を付けて少しすすってから、長瀬は手で前髪を梳き上げた。
「涼原さんは、どうして今日、来たのさ?」
「どうしてって……成り行きかな」
 白沼の方を気にしつつ、抑えた調子で答えた。
「相羽君の関係で、調理部の一年三組はみんな誘われた。私はそのまたおまけ」
「そうか。白沼さんは相羽がいればいいってわけだな。僕らは、だし」
 言って、長瀬は柚木に話しかける。
 対する柚木は、のんびりとした口調で応じた。眼鏡を外しているのは、食事
中は湯気で曇るためだろう。小さな目が、りすかうさぎといった小動物のそれ
を想起させる。
「なるほどー、おかしいと思ったんだ。長瀬はともかく、自分みたいなのが呼
ばれるなんて」
 言い終わってから、からかうように長瀬を小突いた。
「僕だって、今じゃ似たようなものだ」
「……長瀬君て、ひょっとして、白沼さんと……?」
 会話の端々から微妙な違和感をかぎ取った純子。
 長瀬ははぐらかすように、小皿にあった肉の切れ端を口に入れる。それを飲
み込んでから、まだ純子が見つめているのに降参したか、仕方なさげに答える。
口に片手をやり、内緒話のように純子へ。
「小学校のときね。ちょっとだけ、つき合いみたいなものを……」
「へえ! それで?」
「僕も白沼さんも、自分のペースって物があって、噛み合わなかった感じ。そ
れで、ほとんど自然消滅みたいに別れて。まあ、今でも『お友達』だってのは、
今日招待されたことで確認できた」
 顔を遠ざけると、自嘲する長瀬。
「招待を受けてやって来たってことは、長瀬君は今、誰とも?」
「そうだよ。なに、涼原さん、デートしてくれるって?」
「何でそうなるのよっ。もう……第一小にいた子って、みんなそんな感じよね。
長瀬君も、唐沢君も」
「あいつと一緒にしないでほしい。今日も明日も、ハーレム状態じゃないか、
きっと」
 長瀬の推測は当たっている。
 ただ、今日の午前中だけは違った。
(西崎さんを見送りに来たときの唐沢君は、真面目だったのよね。見違えるぐ
らい。……西崎さん、元気にしてるかしら)
 少し思い出してから、頭を小さく振る純子。
(今、他のことを考えるのは、白沼さんに悪い……)
「おーい。何の話、してんだ?」
 純子の情動なんて一切知らず、清水がやたら大声で話しかけてきた。
「長瀬、馴れ馴れしいゾ」
 食べる方もお留守にする気はないらしく、むせかけながらも言い続ける清水
に、純子は苦笑いをしてしまう。
「大した話じゃないわよ。それより、初めて来た家で、そんな行儀の悪い食べ
方、よくできるわね」
「そんなこと言ってると、早く老けるぞー」
「よ、余計なお世話!」
 思わず声を高くしてしまうと、すかさず勝馬が突っ込んでくる。
「涼原さんも結構、行儀悪いんじゃない?」
 途端に、しおしおと肩を小さくする純子。合わせるようにして、笑いが起こ
った。

 食事のあと、場所を最初の部屋に移して、プレゼントの交換会。
「どうするんだ?」
 やけに大きな袋を両腕で抱え、その横から顔を覗かせるのは清水。
「輪になって、唄いながら回していくのかな?」
 長瀬が白沼に尋ねる。彼の手には、きれいに包装された小振りな箱が。
「それだと、誰の物がどうなっているか、途中で見えてるじゃない。面白くな
いでしょ。それで考えたんだけど、やっぱりこれが一番よね」
 白沼は、普通サイズのこたつぐらいありそうな紙を広げた。そこには梯子の
ような絵がいくつかマジックで描かれており……。
「あみだくじか、なるほど」
 相羽は納得したように、軽くうなずいた。
 白沼も嬉しそうにうなずくと、紙面を−−彼女から見て下の方を指差す。
「どちらにも名前を書くんだけど、下はみんなの持って来たプレゼントを表す
のよ。先に下を埋めてから、上を書くわけ」
 説明に、みなが首肯する。
「それでは……初めは相羽君からね。五十音順」
 白沼が言って、相羽に青のマジックペンを手渡す。
「その前に、聞きたいんだけど、当然、あとで何本か線を引けるんだよね?」
 キャップを取りながら質問する相羽に、白沼は「もちろんよ」と返事した。
 相羽は十本ある線の内、左から三番目へ名を記した。
 それを見ていた純子は、同じようにする白沼の視線が熱っぽいのに気付いた。
(白沼さん、じっと見つめてる……。あ、そうか。相羽君のプレゼントをもら
おうとすれば、ようく注意しとかなきゃ)
 そう思い当たってから、富井と井口に目を向けると、やはり同様に、相羽の
書き込む場所に並々ならぬ関心を示していた。
 もちろん、次に注目すべきは上の方に、相羽がどこに名前を書くか、である。
と言っても、いくら努力したって、最後に付け加えられる横棒数本が運命を握
っているのだが。
 五十音順と言いつつ、白沼自身は最後に回って、全箇所が埋まった。
 棒を書き加えていくのも、この順番で行われる。
(そっか、白沼さんが最後をやりたがるはずだわ)
 ここに至って、やっと気付いた純子。
(最後に線を引けば、自分が思う通りにできる確率が高いわけね。変だと思っ
た。私の前で白沼さんを飛ばしたのには、そういう……)
 あからさまではあったが、大胆さが白沼らしいとも、妙に納得した純子であ
った。
「斜めに引くのはかまわないけれど、隣の線を飛ばして引くのはなしよ。分か
った?」
 白沼の注意のあと、めいめい、引いていく。
(誰に当たるのかなぁ)
 純子の目下の関心事は、自分のプレゼントが誰に渡るのかということ。
(去年のクラス会みたいに、また清水に当たるのはごめんだわ)
 そうこうする内に、最後の白沼が線を引く番になった。彼女はたっぷり間を
取ってから、細い線を書き入れた。その直後の表情から、うまく行ったに違い
ないと推察できる。
「それじゃ、端から順番に……最初は柚木君。やってみてよ」
 指を当てて、線を辿っていく柚木。
「男からはもらいたくないけどなあ」
 そんな願いも空しく、彼が引き当てたのは清水の分。両者ともげんなりした
顔になる。
「ま、いいか。柚木にもぴったりだからな。部屋の片隅に置いてくれぃ」
「どういう意味だ?」
「開けてみろって」
 清水は柚木に大きな包みを渡した。
 皆が注目する中、柚木がやや荒っぽい手つきで袋を開ける。
「−−これを俺の部屋に置けって言うか?」

−−つづく




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