#167/569 ●短編
★タイトル (CWM ) 04/06/10 01:36 (383)
お題>エロ小説>暗黒神のくちづけ 憑木影
★内容
彼女は、城の大広間へと続く長くて暗い階段をゆっくりと昇ってゆく。もちろん、こ
こは彼女が生まれ育った城なのだから当然この階段は何度も昇ったことがあった。
ただし。
今のような。
今、彼女が味わっているような気持ちでこの階段を昇ったことは一度たりともなかっ
たはずだ。彼女は、少し唇を歪める。
(あの時とは、なんて違うのだろう)
あの時。
それは決して遠い過去ではなく、つい昨日の夜に起こったことであった。しかし、彼
女にとっては遥か遠い過去の出来事である。
それにしても、皮肉なことに昨日の夜と共通していることが二つあった。ひとつは、
彼女が純白の婚礼衣装を身に纏っているということ。そして、もうひとつは大広間で待
っているのが彼女を妻として迎えようとしている男であるということだった。
昨夜と違うことも、ふたつある。まず、大広間で待っているのが彼女の許婚を殺した
男であるということ。そしてもう一つは。
彼女の身体。
彼女のその穢れなく美しい肢体の中で、激しく渦巻いている欲情。その欲情は純白の
衣装に包まれた身体を容赦なく蹂躙していた。
果実のように膨らんだ彼女の胸、その先端は今まさに咲こうとしている蕾のごとく膨
らんでおり、硬くとがっている。そして、彼女の草原を駆ける獣のようにしなやかな両
足の付け根にある最も秘めやかな部分は、熱病に取り付かれたように熱く疼きそして濡
れそぼっていた。
彼女はそっと下腹へ手をあてる。そこには確実に何か異質なる存在がいた。その存在
が彼女の中で官能の波を沸き起こしている。
階段を一歩進みたびに、彼女の身体の中に渦巻いている熱が出口を求めて号泣するよ
うだ。ほんの僅かな刺激、そう、衣服が彼女の胸の先端にこすれる刺激や、歩いている
太ももの肌がふれあう刺激すら、彼女を官能の渦へ引き込もうとする。彼女は後ろに続
いている侍女たちに聞かれぬよう、そっと熱い吐息を漏らす。
彼女は皮肉な笑みを浮かべた。
おそらくこれは、草原の蛮族たちとの戦い以上に骨がおれ、強い意思を必要とする作
業である。しかし、今の彼女を突き動かしているのは戦場で剣を握っているときと同じ
感情、つまり復讐への深い激情であった。
彼女は、自らの身体が要求する熱い欲望を忘れるため、昨夜の出来事へ思いをはせ
る。
その時、彼女は今と同じように純白の衣装を着てこの階段を昇っていた。その手には剣
を握って。
彼女は夜の闇よりも遥かに暗くて果てしない怒りに突き動かされ、その階段を駆け昇
っていた。既に、戦闘は決着がついており叫び声や剣を打ち合わせる音も聞こえない。
彼女の手には剣が握られている。いわゆる戦場刀であり分厚く重い剣だ。白い花嫁衣
裳は身体に纏わりつき多少動きにくかったが、彼女の中で業火のように燃える怒りは着
替えるゆとりを与えない。
協定は成立したはずだった。
同盟の調印は終わり、その後の婚礼である。全く予測していなかった卑劣な裏切りに
より、彼女の城は攻め落とされた。
彼女の夫となるはずであった男が率いる軍隊によって。
彼女は、大広間の扉を力任せに開いた。
そこに待ち受けていたのは、兵士たちである。彼女の、ではなく彼女の城を討ち滅ぼ
した兵士たち。彼女の兵たちは、血に塗れ床に倒れていた。その死せる兵士たちが彼女
の視界を怒りで真っ赤に染める。
大広間の最奥。
そこには、彼女の夫になるはずだった男が大きな椅子に腰掛けている。
眠るように目を閉じて。
彼女は絶叫しながら、大広間をかける。剣を手にした敵兵が止めようとして、前に出
た。
彼女は足を止めずに、剣を振るう。敵兵の剣が腕ごと斬り飛ばされ、絶叫と血飛沫が
あがった。純白の衣装に、真紅の飛沫が散る。それは真冬の雪原に咲く、赤い花のよう
であった。
彼女は無造作に、剣を振るう。重い戦場刀は、立ち塞がる兵の頭蓋骨を断ち割り胴を
薙いだ。宴の用意がなされていた大広間のテーブルに、脳漿が撒き散らされる。そし
て、
緋色のカーペットの上で臓物が生き物のようにのたうった。
血と戦いが、彼女を酔わせる。
しかし、彼女の動きが突然止まった。
ごとりと。
彼女を妻にするはずだった男の首が床に落ちたためだ。
既に死んでいたらしく、血飛沫があがることもなかった。椅子の後ろからゆっくりと
一人の男が姿をあらわす。
「貴様、」
彼女は絶句する。その男は許婚の副官であった。北方の蛮族らしく、全身に緻密な紋
様の刺青を施し、その身体は獰猛な筋肉に覆われている。無数の刀傷と色鮮やかな刺青
に覆われたその顔に野獣の笑みを浮かべた副官は、袋を背負い片手に戦場刀を持ってい
た。そして、許婚の生首を無造作に蹴飛ばす。
ボールのように。
その生首は広間の床を転がって彼女の足元へ来た。許婚の端正な顔は、何の感情も浮
かべておらず彫像のように静かである。それを支配しているのはただ、無慈悲で絶望的
な死であった。
「なぜ、こんな」
彼女が言葉を続けようとして時、蛮族の副官は獣の笑みを浮かべたまま袋から何かを
取り出し、彼女のほうへ投げる。
それは、生首であった。
かつて父であった者の。
かつて母であった。
そして、かつて兄であったその生首は、無造作に床へ転がる。それは物として。ただ
の物体として。
そのあまりの無惨さに彼女は哀しみの感情すら忘れ、茫然と立ち尽くした。
「おれのものとなれ」
蛮族の副官が発した言葉を理解できず、彼女は一瞬凍りつく。しかし、その言葉を理
解したとたん、我を忘れた彼女は副官めがけて剣を振るった。
「もう一度言おう。おれのものとなれ。そうすれば、おまえの家臣は殺さない。そし
て、
この国もおまえの好きにさせてやってもいい」
蛮族の男は、森の奥に棲む獣だけが持つ静かだが破壊と殺戮の意思を秘めた瞳で、彼
女
蛮族の男は、あっさり剣を受けると逆に一撃を彼女へ討ち返す。彼女の剣はへし折れ
跳ねとんだ。を見下ろしている。そして、口元は飢えた獣が持つ笑みを湛えていた。
男は、肉食獣だけが持つ派手で獰猛な美しさを備えている刺青で飾られた顔を彼女へ
寄せた。
「かんたんなことだ。おれに抱かれさえすれば、おまえとおまえの家臣は生き延びられ
る」
「馬鹿な」
彼女は引き込まれそうな深く青い副官の瞳から目をそらして、後ずさった。
「おまえは、父と母と兄、そして許婚を殺したのに。そのおまえに抱かれるなど」
蛮族の男は笑った。凶悪な、しかし見るものの心を深淵へと引きずり込みそうな笑み
である。
「おれはおまえを解き放ってやったというのに、判らないのか」
彼女の瞳が怒りに燃え、蛮族の副官を見据える。男は冷静に剣を彼女の首筋へ当て
た。
「朝まで時間をやる。そのときに気が変わっていなければ、おまえの家臣の首を跳ね
る。
おまえが死ぬのは一番最後だ。よく考えろ」
兵たちが彼女の腕を押さえる。
「地下牢で待て。夜明けとともに迎えにゆく」
そして今再び。
彼女の手は、大広間の扉にかかった。
彼女は夢中でその扉を開く。
身体の中では、無数の熱い疼きが蠢いている。彼女の身体のもっとも奥深い部分は、
狂おしいばかりに熱く震えていた。熱い涙を流しながら。
宴の支度が整えられたその広間に揃った兵たちは、一斉に彼女を見る。しかし、彼女
の目に写っているのはただひとりの男。そう。蛮族の戦士。
刺青に彩られた顔の男は、その深く暗い湖を思わせる青い瞳でじっと彼女を見る。彼
女は全身がぞくりとした。男に全てを見通されたようだ。
彼女が欲情していることを。
胸の蕾のような膨らみが、はちきれそうに硬くなっていることを。
彼女の奥深いところが濡れて蠢いていることを。
男の眼差しの前で彼女は丸裸にされ、すみずみまで、最も秘めやかな部分まで剥き出
しにされ、その欲情をさらけだされていた。
男は、ふっと唇を歪める。満足げに。
彼女は恐ろしかった。自分が自分の欲情に屈することが。自分の意思が身体の疼きに
飲み込まれることが。
それほどまでに。
まるで灼熱の砂漠で水を欲するように、激しい欲望を彼女は感じていた。
胸は激しく打ち、目の前が幾度か暗くなる。腰のあまやかな疼きが、胸の熱い欲情が
彼女を跪かせようとした。しかし、純白の衣装に身を包んだ彼女はもう一度心の中で剣
を握る。復讐という名の燃え盛る剣を。
大広間を蛮族の男へ向かって歩きながら、彼女は再び追憶の中へと戻ってゆく。
地下牢の扉が開かれた。扉を開いたのは、老いた司祭である。彼女が幼いころの教師
であり、誰よりもこの城を知り尽くした男であった。この城にある無数の秘密の通路
や、
異世界へと繋がる迷宮の通路までも思うが侭に行き来できる。血に染まった花嫁衣裳を
着たままの彼女は、牢の中で立ち上がった。
彼女は鍵を持つ司祭の前に歩み出る。司祭は落ち着いた声でいった。
「お逃げなさい」
「馬鹿な」
「あなたの家臣たちは、あなたがあの蛮族に抱かれるよりは死を望むはずです」
「逃げるところなどない」
「生き延びて、機会を待つのです」
「私が望むのは今、この場での復讐だ。地下の封印を解く」
「おやめなさい」
絶句する司祭の胸を、彼女は掴む。
「そう言うのならば、私を解き放つべきではなかった」
「あなたは、無垢なかただ。汚されるということばの、本当の意味を知らない。地下の
封印を解くということは」
彼女は無造作に司祭の首を掴んだ。老いた男の口から苦妙が漏れる。
「ごたくはいい。死か復讐だ。おまえもこの場でえらべ」
彼女は手を離す。司祭は咳き込む。そして、哀しげに彼女を見つめた。
「ではゆきましょう」
司祭は石の壁を触る。何箇所かを押さえるうちに、がくんと音がすると隠し扉が開い
た。彼女と司祭は秘密の通路へと入り込む。
天窓から月が見える。蒼白い光に満ちたその空間は、礼拝堂であった。真夜中を少し
すぎたくらいの時間だろうか。礼拝堂は湖の底深いところのように蒼ざめた静寂によっ
て満たされている。
彼女はその礼拝堂の最奥に安置されている、磔にされた巨人の木像を見上げた。十字
架に磔にされた巨人の肌は、骨のように白く塗られている。そして、胸には槍が刺さり
真紅の血が描かれていた。
巨人の瞳は明けの明星を思わせる赤色に塗られており、槍に貫かれた胸と同じように
真紅に描かれた血の涙を流している。司祭はその巨人が磔にされた十字架の根元に触れ
た。何箇所かに触れているうちに、床に隠し扉が開く。
彼女は満足げに頷くと、一歩その隠し扉の下にある階段へ足を踏み入れる。ふと、ふ
りむくと司祭に向かって言った。
「夜明けまでには、戻る。待っていてくれ」
司祭は無表情のまま、静かに言った。
「無事を祈りますといいたいところですが。おそらく地上に戻られぬほうがあなたにと
って幸せであるやもしれません」
彼女は苦笑の形に唇を歪める。そして無言のまま階段を下って行った。
彼女は追憶より現実へ戻る。
ようやく。
彼女は蛮族の男の前に立った。
宴の席についた兵士たちは皆静かに、二人を見守っている。純白の衣装に身を包んだ
彼女は、欲情という旋風の中で揺れている小さな蝋燭であった。蛮族の男は、獣の笑み
を浮かべながら彼女を見下ろしている。
彼女は微かに喘いだ。
今、目の前にいる極彩色の刺青によって飾られた獰猛な筋肉を持つ男の眼差しに貫か
れ、彼女の意識は肉欲という無限の闇へ突き落とされる寸前であった。彼女の足の付け
根の間にある秘めやかな部分は、別の生き物のように蠢き熱く息づいている。その部分
は飢えていた。獣のように。
熱く甘い息が彼女の口から漏れる。
彼女はもう全裸でいるのと同じような気になった。
目の前の蛮族の戦士は、彼女の身体奥深くを眼差しによって蹂躙してゆく。それは肉
体により犯されるよりも深く、彼女の身体を責め苛んでいた。
もう既に、彼女の身体の濡れそぼった部分は肉体を結合しているときのように間断な
く強い快感を生み出しており、彼女は自分のその部分がかってに動いて脈動しているの
をはっきりと感じる。彼女は蛮族の戦士によってもう、貫かれているのと同じであっ
た。
彼女を肉欲の闇に落ちる寸前の状態にかろうじて繋ぎ止めているいるのは、復讐の意
思だけである。その鋼鉄の意志が、崩れ落ちそうになる腰を辛うじて支えていた。
彼女はようやく、口を開く。
「二人きりにして頂戴」
蛮族の男は頷く。花束を掲げるように彼女を抱き上げると、肩に担いだ。腕に抱かれ
た刺激により、また深く快感が押し寄せてくる。彼女は耐えるように目を閉じた。
闇が落ちてくる。
訪れた闇は再び彼女を追憶へと誘う。
彼女は階段を下ってゆく。闇の中であった。次第に闇は濃く深くなってゆき、階段は
角度が急になってゆく。
彼女は階段から足を踏み外した。しかし、既に階段はなくただの竪穴となっているよ
うだ。彼女はその竪穴をまっすぐ下へ下へと落ちてゆく。
思ったより速度は緩やに感じる。ただそう感じるだけかもしれない。全くの闇の中を
垂直に落下していっているため、暗黒の宇宙を浮遊しているようにも感じる。
やがて。
その竪穴しは次第に傾斜してゆき、緩やかに螺旋を描き始める。彼女は闇の中を螺旋
状に滑りながら落ちて行った。
突然、彼女は水の中に放り出される。そこは地底湖であった。彼女は夢中で水面へと
泳ぎでる。
水面から顔を出した彼女は息を呑んだ。そこは薄暮の世界だった。水晶の岩盤によっ
て造られたドームの中に彼女はいる。その巨大な水晶のドームは、白夜のように微かな
光を放っていた。
彼女はあたりを見回すと、岸のあるほうへと泳いでゆく。やがて地中湖は浅くなり、
彼女は湖面を歩いていった。彼女は水晶でできた地面に上がる。
彼女は心の中で、そっと呟いた。
(本に書かれていたとおりだ)
かつてこの地下へと下り戻ってきたものがいる。その者は自分の体験を本に記してい
た。彼女にとって遥かな先祖となる本の著者が書いていたとおりの空間が目の前に開け
ている。
彼女は水晶の地面を歩いていった。
やがて、円形に水晶の柱が立ち並ぶ場所へと出る。円形に水晶の柱によって囲まれた
広場の中心には、丸い舞台のような場所があった。
その舞台の上にはたおやかな百合の花束をまきちらしたように、全裸の少女たちが寝
そべっている。熱い眼差しを彼女へ向かって投げかける少女たちの中心に立つものがい
た。
それは、彼女自身である。
いや、彼女と同じ顔と身体を持った女が少し笑みを浮かべて、淫猥な生き物のように
蠢いている少女たちの中心に立っていた。その女と彼女は瓜二つであったが違う部分も
ある。
それは瞳の色。
その瞳は明けの明星のように真紅に染まっていた。
赤い瞳の女は、静かに言った。
「姉さん、私とってもうれしい。私に会いにきてくれたのね」
彼女には双子の妹がいた。が、生まれてまもなく死んだと聞かされていた。しかし、
そうではない。彼女の妹は地下深くへと封印されたのだ。真紅の瞳を持って生まれたと
いう理由によって。
彼女は真紅の血飛沫に染まった花嫁衣裳の姿のまま、その円い舞台へと昇る。白百合
のような少女たちが、彼女の身体へと纏わりついてきた。少女たちはそっと彼女の身体
を服の上から愛撫する。春のそよ風のように。やさしく。暖かく。
彼女は自分の身体の中で、ぞくりと官能が目覚め始めるのを感じた。彼女は知ってい
る。目の前にいる少女たちがただの幻覚に過ぎないことを。
彼女の一族には、時折赤い瞳を持った女が生まれる。赤い瞳のものは、生まれつきふ
たつの能力を持っていた。
ひとつは、人に幻覚を見せる力。
もうひとつは、人の心を読む力。
赤い瞳のものは、他人の心奥深くにあるものを引きずり出し目に見える形を与え、人
を惑わす。その能力はとても危険なものではあるが、それが赤い瞳を持つものたちが封
印される理由ではない。
彼女たちが封印されねばならない理由は別にある。
真紅の血に染められた花嫁衣裳を纏った彼女は、少女たちの執拗な愛撫を受けながら
赤い瞳の女の前へと向かう。少女たちの愛撫はまるで彼女の心と身体を縛っていた氷を
溶かしてゆくように、彼女の身体の中から官能を引き出してくる。
彼女は自分の身体が快感に目覚めつつあるのを感じた。しかし、それは十分抑制でき
るものであったし、それは下腹部を覆うあまやかな疼きといった程度のものである。
赤い瞳のものは、少し唇を舐めると彼女に語りかける。
「姉さん、夜明けまではまだ時間がある、ゆっくりやりましょうよ」
幻覚の少女たちは、服の上からそよ風のような愛撫を続けている。それは彼女の乳房
を、背中を、太ももを、鼠剄部を、そしてより深く秘めやかな部分を目覚めさせ、ざわ
つかせた。身体じゅうがより新しく強い刺激を求めて疼いている。
赤い瞳のものは、彼女をじっと見つめた。そして、彼女の記憶に触れ始める。彼女
は、
はじめて恐怖を感じた。
「だめよ、それは。やめて」
彼女の顔が歪むのを見て、赤い瞳のものは満足げに微笑む。
「これは必要なの。あなたが望むものを手に入れるためには、どうしても必要なことな
のよ」
一人の少女が彼女の前へと立つ。その姿は溶けるように変化していった。そしてそれ
は、一人の男性のものとなる。彼女はその顔を知っていた。それは許婚の姿である。
「いや、やめて」
彼女の言葉を無視して、赤い瞳のものはより深いところに隠された彼女の記憶を掘り
起こしてゆく。彼女の許婚は、彼女の身体を愛撫してゆく。そして、その行為は彼女の
記憶どおり彼女のより奥深い官能を掘り起こしていった。
許婚の繊細な指先は、彼女の最も秘めやかな部分を楽器を演奏するようにリズミカル
に愛撫してゆく。そして、彼女もまた許婚の熱く充実した部分を狂おしく愛撫する。記
憶のとおりに。二人は指先で互いの欲望を掻き立ててゆく。
いや。
記憶とは少し違う。
それは、より深い快感と欲情を彼女へともたらすため、造りかえられたものだった。
しかし、それはそれでも記憶のとおりといえた。その脚色を行っているのは彼女の無意
識に眠る欲望であり、願望でもあった。
「お願い、これ以上は」
彼女の言葉はあっさり無視された。
「さあ、はじまるのはこれからよ」
もう一人の少女が立ちあがる。その少女は許婚の隣に立つと、その姿を変えてゆく。
少女は蛮族の副官へと姿を変えていた。
あたりの情景が一変する。
それはあの運命の日。
許婚の支配する隣国との同盟が調印されるその儀式の場であった。正装した父と母、
そして兄がおり、儀礼用の鎧を身に着けた蛮族の副官もいる。
彼女の傍らに許婚がおり彼女の腰に手を当てていた。彼女はその手の温もりから、昨
夜の快楽を反芻している。許婚の指によって奏でられた快感を。
そしてなぜか彼女は全裸だった。
「違う、やめて」
硬く乳首を勃起させた彼女の前で、その儀式は進められてゆく。鋼の瞳を持った蛮族
の副官は、欲情した彼女を見つめていた。
彼女は絶叫する。
「嘘だ、私はそんなこと、考えていない」
許婚の指は全裸の彼女の秘めやかな部分に向かって伸ばされる。儀式の進行を見つめ
ながら、その指は快楽の音楽をリズミカルに奏ではじめた。
「違う、違う、違う、嘘だ、でたらめだ」
議場にある大きな革張りの椅子の上で彼女は、腰を少しつきだす。欲情して熱い涙を
流している彼女の秘部が、蛮族の副官からもっとよく見えるように。
「やめろ、やめろ、やめろーーーー」
突然、景色が元に戻る。全裸の少女たちが彼女の周りで蠢いていた。赤い瞳のもの
は、
少し嘲るような笑みを見せる。
「まさか、なんの犠牲も払わずに望むものを手に入れられると思っていたわけではない
でしょうね」
彼女は首を振る。
「いいこと、私のくちづけを受けるためには、あなたはもっともっと、欲望を高めなけ
ればいけない。地上にはもっと卑劣で邪悪な想念を持ったものがいるし、そうしたもの
たちの思念は時折この封印された地下まで届くことがある。それにくらべれば姉さんの
夢想なんて穢れのないものといってもいいくらい」
赤い瞳のものは、残忍な笑みを見せた。
「さあ、続けましょう」
少女たちは姿を変えてゆく。
男に。
女に。
そして、万華鏡のように彼女の記憶から淫猥な映像が溢れ出しあたりに展開されてゆ
く。彼女は堕ちた。自分のより深いところにある欲情の中に。
彼女の身体は別の生き物になってしまったかのようだ。
彼女は自分の身体から溢れて行く欲情と疼きを制御できなくなっていた。
赤い瞳のものは、涙を流しながら快感にもだえ苦しむ彼女を見て、満足げにうなず
く。
「姉さん、それではあなたの欲したものをあたえる」
伝承ではこう語られている。
遠い昔、天空より暗黒神が落ちてきた。
一人の少女が暗黒神と出会い、くちづけをうける。暗黒神はくちづけの際、自らの卵
を少女の身体へと植え付けた。
少女の身体の中で卵は溶けていく。そして、それは何世代にも渡って伝えられていっ
た。少女の子から子へと。
そして赤い瞳のものは、彼女にくちづけを与えた。
彼女は自分の身体奥深くに、何か異質の存在が落ちてゆくのを感じる。
彼女は気がつくと、蒼い月の光がさす礼拝堂に立っていた。全ては夢であったような
気もする。しかし、自分の身体を炎のように包んでいる欲情は、紛れもない現実であっ
た。そしてまた、下腹の中に潜む異質な存在もまた現実である。
彼女は老いた司祭が自分の前に立っているのに気がつく。司祭は堪えきれない欲情で
瞳を濡らした彼女を、冷酷といってもいい瞳で見つめるとそっとため息をついた。
「なるほど、あなたはやりとげたようだ。そのことは賞賛に値するといえましょう」
下半身で渦巻いている強い快感と戦っている彼女は、その言葉を理解できていない。
司祭はそれを気にすることもなく、彼女の手をそっととると再び秘密の通路へと戻って
いった。
彼女は血まみれの花嫁衣裳に包まれた熱い身体を抱きしめ、地下牢で夜明けを待つ。
彼女の意識を連れ去ろうとする欲情の大波と戦いながら。
彼女は追憶から戻る。
目を開くと、そこは寝室だった。彼女は花嫁衣裳のままベッドに横たえられている。
彼女の上にまたがった蛮族の男は、彼女の服を剥ぎ取ろうとしていた。
彼女はそっと呟く。
「お願い、まずくちづけを」
蛮族の戦士は、頷くと彼女の顎を手で掴む。舌を噛み切られるのを用心しているよう
だ。そして、蛮族の男は強引に彼女の唇を奪った。
闇が落ちてくる。
伝承ではこう語られている。
暗黒神のくちづけを受けた少女の子孫に、ときおり赤い瞳のものが生まれる。そのも
のは、体内に暗黒神の卵を持つ。しかし、生命力の弱い赤い瞳のものは、その卵を孵化
させることができない。
赤い瞳のものは、そこで欲情した女の身体へと卵を植え付ける。卵は女の精神から発
せられる快楽の波動を受けながら成長してゆく。体内に植え付けられた卵は、赤子が母
親の乳房から母乳を吸い出すように効果的に女の心と身体から快楽を引き出してゆく。
そして卵は孵化する。
ただ、孵化するときには男の身体が必要だ。
卵から孵化した幼生は男の身体へと入り込み、目覚める。新たな暗黒神として。
彼女はかつて蛮族の男だったその物体を見下ろしていた。もう彼女を責め苛んでいた
欲情は去っている。しかし、変わりに恐怖が彼女を捕らえていた。
復讐はなった。
しかし、本当に拷問がはじまるのはこれからだ。
暗黒神は目を開いた。自分の身体をかつて支配していた男が精神の奥底で、恐怖と絶
望の絶叫をあげるのを聞きながら。