AWC お題>エロ小説>モノ   永山


        
#166/569 ●短編
★タイトル (AZA     )  04/05/12  22:09  (189)
お題>エロ小説>モノ   永山
★内容
 夕方、喫茶店を出て、車の中でする話にしては生々しかった。
 別れる前にもう一度だけ。
 こんなことを言うのは、男ばかりかと思っていたが、現実は違った。
 できたてのほやほやの元カノ、みさきが言ったのだ。小さな声でだがはっき
りと。
「別れる前にもう一度だけ……というのは、別れる前にもう一度抱け、ってこ
とか」
 適当なアクセントをつけて聞き返すと、それは充分に伝わったらしく、みさ
きは黙ってうなずいた。
 何かあるんじゃないか。自然にそう感じた。
 俺は俺の手順にあほみたいな自信を持っちゃいない。ノーマルかどうかは調
べようがないので棚上げするが、超絶技巧なんて持ち合わせちゃない。舌が心
持ち長いらしいが、だからと言って胸と背中を同時に舐める芸当ができるはず
もなし。尤も、著しく乳房の垂れ下がった女が相手なら、同時に舐められるか
もしれないけどな。
 一物だって人並みの自負はあるが、大きい部類ではなかろう。今まで付き合
って交わった女を色狂いに変えた経験もないし、そりゃあ、済んだあとに「よ
かった」と言われたこともなくはないが、リップサービスの類さ、どうせ。み
さきだって、最初は「よかった」と口にしていたものの、仲がぎくしゃくし始
めた頃からは、行為が終わっても特に何も言わなくなった。
 そんなのが、最後にもう一度だけやりたいとは、怪しみたくもなる。
 不審に思うなら、すっぱりと断ればいい。それは分かっているのだが……み
さきはこれまでの女の中では断トツにいい、のだ。本心をさらけ出すなら、俺
の方こそ、「別れる前に一回だけ!」と手を拝み合わせたくなるほど、みさき
はいい身体の持ち主だ。そうしなかったのは、みっともないという意識があっ
たからで。
 だから、彼女からもう一度だけと言ってきたのは、渡りに船なのだが。
 まさか、やったあとしばらく経ってから、子供ができたなどと言い出して、
俺を困らせるつもりなのか?
 ふと、そんな想像が浮かんだが、冷静になって考えるとありそうもない。
 別れると言い出したのは、みさきからである。綺麗に別れることに同意して
いるのに、こじれさせても無意味だろう。俺や俺の家族に莫大な財産でもあれ
ば、赤ん坊ができたと言えば金を取れるかもしれないが、幸か不幸かそんな財
産は見当たらない。
 だめ?と、みさきが小声で催促してきた。
 据え膳食わぬは何とやら。古臭いフレーズが目の前をちらつく。
「当然、今から、だよな」
 後腐れがないようにするには、そうすべきであろう。案の定、みさきは首を
縦に振った。
「分かった」
 えーい、ままよ、って心境になったのは数年ぶり。俺は車を走らせた。

 みさきがホテルを拒否したので、どこがいいのかと尋ねたら、俺の家を指定
された。下宿している中古のマンションだ。意外に防音がしっかりしているし、
セックス目的で何度か使ったことがある。問題点を挙げるなら、ムードのなさ
とベッドの狭さか。一度、床に毛布やらバスタオルやらを敷き詰めてやってみ
たが、下になった方が痛くてたまらず、すぐに懲りた。
 先にシャワーを浴び、続いてみさきがシャワーを浴びる。その間、俺は念の
ための準備をした。物理的に襲われて、なすすべもなくやられてはたまらない
からな。眠っているときに包丁か挟みで一物をちょんぎられたのは、イタリア
だったかブラジルだったか。自分の住処で修羅場に陥るのは避けたいが、みさ
きが強固に主張したのだから致し方ない。
 そんな対策をする一方で、俺のモノはいつでも役立つぞと元気に主張してい
る。不思議であり、不思議でなし。
 みさきが浴室を出た気配があったそのとき、俺の携帯電話が光って着信を知
らせた。俺とみさき共通の知り合いからのメール。
 みさきに気を付けた方がいいよ、危険だよ、とだけあった。
「ここまで来て教えられてもな」
 思わず呟く。危険の大きさについてもう少し具体的に書いてくれれば、気が
変わったことにするのだが。
 俺は下を向き、俺のモノと相談した。
 変わりそうになかった。
 準備もしたのだからと、自身を納得させて、俺は臨むと決めた。
 出て来たみさきは、いつにも増して積極さがストレートに現れていた。これ
まではシャワーを詫びたあとも一旦服を着ていたのだが、今回はバスタオルを
巻いただけの姿だ。
 ……これを積極さと捉えるのは、間違いかもしれない。さっさと終わらせよ
うという意思の表れかもしれないじゃないか。ま、どっちでもいい。今日で最
後なんだからな。こちらはあらゆる意味で準備万端。開始の合図のごとく、明
かりを二段階落とす。
 一番激しく。そんなリクエストを囁いてきたみさき。まず乱暴にタオルを剥
ぎ取って応える。
 仰向けになるようにベッドへ押し倒すと、かすかな日焼け跡と白い肌のコン
トラストが目に飛び込む。汗が引ききっていないのか、早くも髪がうなじにま
とわりついていた。それだけのことで鼻息が荒くなるのは、ラストだと分かっ
ているためか。
 そのうなじに繰り返し口づけし、たまに舐めながら、髪を払っていく。敏感
になっているのか、彼女が短い悲鳴を上げる。音量は普段の喋りより三割はア
ップ。
 左手を下げる。指で肩や腕、脇、お腹と撫でながら経由して、際どいところ
でUターンさせると、尻の方に逃げる。みさきの口から漏れた吐息が、じらさ
れて不満そうだ。
 右手は彼女の乳房に。先っちょを攻めるのは後回し。単調になりかけたとき
に初めて乳首を刺激するのが、みさきには効果的だと学習した。こんな知識、
今後は全く不必要になるだろう。
 俺は口を彼女の耳元に持って行き……戸惑った。
 みさきに限らず、セックスするときには相手に言葉を時折囁く。まあ、好き
だよとか愛してるとか、そういった意味の言葉だ。けれども、現状でそんな台
詞も変だと気付く。何も言えなくなってしまった。
 手も止まる。
 半分閉じていたようなみさきの目が、どうしたの?という風に開かれる。
 俺は急ぎ、再開した。揉み、撫でてやりながら、耳にも舌を這わせる。噛む
のはこれも後回しだ。刺激云々ではなく、単に早すぎる。
 いつの間にか喘ぎ声や呼吸が荒く、激しく。みさきの方はまだ大して体を動
かしていないのに、汗が浮いてきていた。いや、これは俺から滴ったものか? 
最後なんだと思うと、奇妙なまでに冷静に観察してしまう。最前の戸惑いのせ
いに違いない。
 別れたばかりの相手とセックスに意味を強いて求めるなら、思い出と快楽し
かあるまい。切り換えねば。
 俺はみさきの上になると、左右の手で彼女の両手首を強く握り、押さえ付け
た。激しくと言われたんだっけなという回想が、脳裏をよぎる。激しくイコー
ル乱暴に、ではないかもしれないが、最早恋人同士でなくなったんだから、レ
イプに近い交わりになってもいいはずだ。俺自身のモノは既に充分いきり立っ
ている。
 段取りをすっ飛ばし、突然かつ無理矢理の挿入を試みる。さすがに嫌がられ
たが、完全な拒絶ではない。声を上げるみさきの唇を自分の唇で塞ぎ、そのま
ま下半身の運動も続行。
 が、慣れない形はするもんじゃない。バランスが悪く、狙いがすぐに外れる。
 両手を自由にしてやり、今度は強引に相手の腰を持ち上げた。浮かせたまま
にさせて、今度こそとばかり、照準をしっかり合わせる。間違いなく濡れてい
ると確認できて、やっと落ち着けた。同時に、今夜は随分早いじゃないかと思
わないでもない。いつもなら、もっと手でいじってやらなくちゃならなかった
はず。
 俺は頭を振った。考えるのはよそう。邪魔なだけだ。
 しばらくピストン運動をする内に、発射された。いつもより早かった感覚が
あるのは、今夜のこれが特別なシチュエーションだからだろう。

 決まり事のように、今度はみさきが俺の上になる。奉仕してもらう番だ。み
さきの前の恋人にも同じ手順でやっていたら、野球の先攻後攻みたいで流れに
意外性がなく、すぐに飽きるというような意味のことを言われた。みさきはこ
の点について文句一つ言わなかったから、飽きてないんだろう。
 みさきの舌や細い指が、俺の身体をくすぐる風に刺激し始める。声を出すの
が気恥ずかしいってのが俺の性格。それで我慢していると、みさきの長い髪が
肌を撫でて、追い討ちをかけてくる。俺はくすぐったがり屋ではない。ただ、
みさきは俺の身体のこと知り尽くしているからな。ちなみに俺がみさきの身体
を知り尽くしているのかどうかは、分からない。
 唐突に動きが収まった。力を抜く。一物をくわえられた。完全に不意を突か
れ、油断していた俺は声を上げた。
 関係の切れた仲で尺八はさすがにないはずと高を括っていたのだが、予想は
あっさり裏切られた。彼女は俺の考えた以上に最後のセックスを満喫したいら
しく、最高に積極的。よりを戻したい訳じゃないだろうに、そんなによくされ
たら、俺が未練を持ってしまう。無論、そういう気分に仮になったとしても、
口にはしないが。
 自分の名誉のために断っておくと、尺八されなくとも楽に復活可能だった。
みさきのサービスがよすぎる。
 大きくなった俺のモノが、子宮の割れ目に吸引されていく感覚。強烈だ。内
臓にまで影響が及ぶかのような小刻みな震え、そして快楽。
 俺は意地になって堪えながら、先ほどよりも時間を掛け、二回目を終えた。

 一旦ズボンを穿き、短い休憩を取った。そして三回戦に入ろうかという矢先
に、また携帯電話が反応しているのに気が付いてしまった。三回戦に入ってい
たのなら無視したが、このタイミングではそうも行かない。それに、さっきの
警告めいたメール自体、気掛かりではある。
 ベッドを離れ、彼女から見られない位置で、着信メールの内容を確かめた。

           *           *

 俺は部屋の明かりを完全に落とし、代わりにカーテンを開け放った。レース
カーテン越しに、街の灯が見える。夜景と呼べるほど立派なもんじゃないが、
なかなか綺麗だ。
 好きだの愛してるだのとは言えなくても、ロマンティックな台詞なら吐ける。
二回もやったあとで今更ムード作りなんて、変に思うかもしれないな。まあ、
最後なんだし、特別だ。
 一段と暗くなった部屋。俺とみさきは横たわった。お互い、側面をベッドに
つけて、向き合う格好。ともに相手の身体を愛撫する。手も口も、足すら使っ
て。
 吸う。弄る。噛む。絡める。溢れ出る液体。痺れたような感覚が全身を貫き、
快楽に打ち震える。
 じっくりと時間を掛け、みさきの肉体を堪能した。多分、彼女も満足したん
じゃないか。そう言えるだけ、俺もサービスしてやった。
 さあ、そろそろフィニッシュにしよう。前戯に力を入れすぎたせいでもある
まいが、全身に倦怠感が宿りつつある。早くした方がいい。
「ラストぐらい、生でいいだろ」
「だめ!」
 即答による明確なだめ出し。当然だろうな。
 今ので気分を害されてもつまらない。俺はもう一度、みさきに前戯を施す。
やったことのあるもの全部を繰り出したと言っていいかもしれない。指と舌だ
けでみさきは失神もどきにまでなった。
 身体を海老に反らせるみさき。恍惚の表情ってこれのことかと思う。半眼で
とろんとしている。もしかすると、誰とセックスしているのかも分からなくな
っていたりして? まさかな。
 俺はみさきの足下に腰を据えた。彼女の足を開き、自らの身体を定位置に。
それから自分自身の物を手に取ると、そのサイズを改めて感じる。
 そうして、俺は俺の物を、みさきの中に突き入れた。
 今日、入れたのは、初めてだった。

           *           *

 葛西みさきを刺殺した凶器は文化包丁と見られる。この凶器は、現場たる部
屋の借り主であり、容疑者でもある宍戸剛史の持ち物であることを、本人自ら
が認めている。

 宍戸の主張する通り、彼の携帯電話には、被害者加害者共通の知り合いであ
る尾花理香子からの警告のメールがあった。そしてその内容に従い、葛西の用
意したというコンドームを検査したところ、内側にニコチン毒が塗布されてい
た。正確な濃度はまだ不明だが、半数致死量は軽く超過すると見込まれる。事
実、宍戸には臓器不全の兆しが出始めている。

――終





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