AWC            愛子(桜雪)     (12)


        
#2508/5495 長編
★タイトル (MMM     )  94/ 2/11  16:37  (168)
           愛子(桜雪)     (12)
★内容




 愛子へ
 愛子。僕はやはり全てに敗れ去った。遂に天使さまが現れてたという期待も、虚し
く崩れ去った。愛子、僕は失恋した。やっと天使さまが現れたと思ったのに酒を飲み
すぎて嫌われてしまった。バカな僕だ。本当に僕はバカだ。
 それでまた“死のう”という思いが強くなってきた。僕はホントにダメだ。
 愛子。希望が消えた。ふたたびクリスマスごろの、そして正月ごろの、どん底に逆
が戻りだ。灯が消えた。やっと灯を見つけたと思っていたのに。
 愛子。僕はこれからどうしたらいいのだろう。どう生きてゆけばいいのだろう。
 愛子。僕はまた布団の中でもがき苦しむようになった。布団の中は地獄だ。まっ暗
い地獄だ。





 愛子へ
  今度留年したら死のう、今度留年したら死のう、と考えていたら本当に留年してし
まった。やっぱり僕には死神が憑いているような気がする。
 僕はよくこの頃愛宕の町並みを見下ろしながらもの思いに耽っているけど、やっぱ
り死のうという気持ちは強いです。ここ一ヶ月ほど愛宕の精神病院に毎日アルバイト
に来ているけど。死にたいという気持ちはやはり強いです。

 青春って何だろう。僕の命や青春はこの愛宕の町の坂を下って長崎港に流れ込んで
ゆく。そして青い青い海底に沈んでゆく。沈んでゆく。一人淋しく。一人淋しく沈ん
でゆく。


 愛子へ。
 僕の思いは届かない。もう君の胸には届かない。僕の思いは長崎の空に虚しく消え
果てて、福岡の君の胸には届かない。


 愛子へ。
 僕がまた留年したこと知っているかい。僕たちの青春はそしてもう戻って来ない。
僕の顔のこわばる対人恐怖症のために、この奇妙な病気のために。

 僕の顔はこわばり、君を傷つけた。そして君をものすごくものすごく苦しめた。君
は今、僕を呪っているだろう。君の呪いが福岡の空から長崎の空の下の僕の元まで届
いて僕は留年したんだ。呪われたように不運な留年の仕方だった。
 僕は清純だった高校の頃の君を傷付け、君に苦い思い出を、たぶん初恋だったよう
な気がするけど、作ってしまった。僕に巣喰っている悪魔がそうさせたんだ。たぶん
、僕に小さい頃から巣喰っていた悪魔が。





 ごめんね、愛子、ごめんね。

 愛子。でも僕は今泥沼だ。僕を救ってくれる天使さまは現れて来ない。僕は昨日、
OKホームセンターに農薬を買いに行こうとした。もちろん自殺するために。
 愛子。僕は以前もよく自殺を口走っていたけど、あの頃の自殺の話は冗談に近いん
だ。今に比べればあの頃の自殺の話って冗談のようなものだ。
 僕は3度目の留年を迎え、もう身も心も泥沼のようだけど、きっと生ききって見せ
るつもりだ。なんとなくこの頃(この2、3日ごろ、もちろん昨日はOKホームセン
ターに農薬を買いに行こうとしたほどだけど)力が湧いて来てるんだ。でもこれが自
殺の力と言おうか衝動になることが心配だけど。
 不気味な気もする。この2、3日の力の沸き上がってきていることが。とても不気
味な気がする。地獄のマグマの胎動のような気がして。僕を地獄へ引きずり込もうと
いう悪魔の想念のうごめく峻動のような気がして。
 愛子。もしかしたらこの2、3日のうちに死ぬかもしれない。そのときはさような
ら。さようなら。
 愛子。本当ならもっと罪悪感に打ち沈まなければならないのだけど、君のことを思
うと、





 僕は大事な宝物を喪った。愛子の手紙という大事な宝物を喪った。僕をあんなに勇
気づけてくれた手紙の束を。愛子の愛情のこもった宝物を。
 あの頃が僕の大学時代で最高の青春のときだったのかもしれない。愛子と文通した
り電話したり何回か会ってたあの頃が。
 僕にはあの頃の愛子とのことがとても懐かしく思い返されてくる。思えば僕はあの
頃とても元気だった。よく手紙には暗いことを書いたりしてたけど、でもあの頃はと
ても僕は元気だった。そして愛子が福岡へ行った頃から僕は次第に元気を喪くしかけ
てきた。
 そして僕は愛子の手紙を捨てた頃、僕が小学5年の頃から書きためてきた日記帳を
も捨てたのだった。自分の過去を美しく虚偽で彩りたいためにそうしたのだった。
 そして僕の過去の宝物箱は空っぽにな里、本当に自分の存在が宙に浮いているよう
な虚しさと寂しさの入り混じった気持ちに陥っている。
 これは罪悪感なのだろうか。僕をやるせなさでいっぱいにするこの気持ちは。

 ああ、僕の体が宙に浮いてゆく。僕の体が宇宙のまっ暗い空間に浮かんでゆっくり
と飛んでいってる。何処へ飛んで行ってるのだろう。いったい何処へ。いったい僕は
何処へ向かっているのだろう。

 もう取り戻せない過去なんだ。僕の過去はゴミ棄て場の巨大な山の中に埋もれてい
る。僕の過去は。


 何かが聞こえてくる。うず高く積もらされたゴミの山を夕陽とともに眺めつつ、何
かが聞こえてくる。何なのだろう、それは。
 それは愛子の嘆きの涙(滴り落ちる涙の音と)愛子の泣き声のようだった。そして
僕の少年時代、あの純情だった少年時代の僕の日記帳の束も一緒に泣いているようだ
った。でも僕も一緒に声をたてて泣き出したくてたまらなかった。


 僕は泣きながらゴミの山を登る。そしてゴミだらけになって汚れ果てて僕は頂上に
辿りつく。そして僕は叫ぶ。福岡にいる愛子に向かって。そして僕の純情だった少年
時代に向かって。『ゴメンネ、愛子。ゴメンネ、愛子。』





 愛子へ
 僕は今、2ヶ月半ほど精神病院で心理テストや知能検査のアルバイトをしてきまし
たけどここもうやめようかな、と思います。仕事はとても楽で勉強にもなりますけど
日給3200円ほどだから。でも半分は本を寝転んで呼んだりして遊んでます。
 それに共産党系の病院の月5万円の奨学金を貰おうかどうしようかとても迷ってい
ます。
 給料のいいタクシードライバーや長距離トラックの運転手のアルバイトをしようか
な?とも考えています。そして100万ほど貯金したら2年くらい何のアルバイトを
しなくても大学生で暮らしてゆけます。
 でも僕はこの頃つくづく自分は何のために生きているんだろうなあ?…辛いなあ…
と考えてしまいます。僕は筋肉がとても硬い異常体質でそのために対人恐怖症になっ
ているから。
 僕がこの前、心理検査した人が一週間ほどして外泊のとき首吊り自殺しました。そ
の人はウツ病で『自殺するのは勝手でしょ。』とか言ってました。ウツ病というより
分裂病だったのだと思います。
 僕はなんだかみんなから『亡霊のようだ』と言われます。愛子とはもう長い間会っ
てないけど僕は体重は変わらないけど顔だけ痩せました。そして前からとんがってい
た顎がますますとんがって僕の顔は亡霊に似てきたようです。でも自殺したら地獄だ
というから、自殺するよりも辛い厳しいアルバイトでもして生きていた方がマシだか
ら僕は必死に生きています。
 愛子と会ったり文通していた頃の僕は元気だったのに年をとってきたためかもう何
事にも興味を持てなくなったというか、僕は一年ほど前からウツ病ぎみです。
 僕は自分の部屋に自分専用の電話線を付けました。ダイアルは39ー4557です
。るす番電話(PIONEERのTF-A5です)を付けました。だからいつ電話してもいいです
。
 今度帰ってきたときは電話でもして下さい。バイクで野母崎まで行きましょう。
 ではお元気で。

                高見敏郎
           長崎市界町9の2





 愛子へ
 僕は思うけど僕の憂愁の思いがこんなに強くなったのは留年したからよりも愛子の
手紙を捨ててしまったことに由来する気がする。
 留年したってそれだけ青春時代が延びた訳だからそんなに悲しまなくてもいいと思
います。
 青春が捨てられて、そして僕の過去がすべて悲しみの色に変わること、僕はこの頃
だからとっても落ち込んでいるんだとやっと気付きました。
 僕の憂愁の思いは夜見る病院からの愛宕の町並みのように重いです。
 思えば僕は一人っきりで愛子が長崎を去ってから3年余り過ごしてきたんだなあ、
と少し残念がってます。僕は昨夜F1グランプリを見たあと眠れなくて睡眠薬とそれ
に胃薬までたくさん飲みました。もしバルビタール系の薬かカルモチンがあったら一
気に飲んで自殺を図っていたことでしょう。それほど最近の僕の憂愁の思いは強いで
す。





 僕と愛子の青春は、スーッと愛宕の坂を舞い降りていって消えてしまった。もう悲
しい悲しい3年半も前の出来事だけど、僕らの思い出はすべてすべてもう消えてしま
った。そうしてもう永遠に戻ってこない。






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