#2489/5495 長編
★タイトル (AZA ) 94/ 2/ 6 10:21 (194)
祭 8 永山
★内容
(承前)
「これはエメラルドが本物やいう証拠や。エメラルドは合成石と本物との見分
けがつきにくいらしいんやな。見分ける手段の一つが、本物にはこのゴミみた
いな含有物が入ってるちゅうこっちゃ。含有物の特徴で、産地まで判別できる
いう話やからな。ここまで合成石で細工するんは、ちぃっと骨やで」
「なるほどなあ。あ、せやからか。エメラルドを偽物や思うて、捨ててしもう
た……」
「そんなとこやろな。念のため、ゴミの入っとるような宝石がなんぼぐらいで
売られとんのかを見るために、色んな宝石店に行って、品物を眺めとったんや。
そいで、そんな宝石、売っとらんかった。つまり、売り物にならんほど低級な
宝石やと思い込み、腹立ちまぎれに投げ捨てたんやな。さあ、これからが大変
やで。宝石、返したらなあかん」
「ぎょえー! それはないで。折角、俺の物になると思とったのに」
「何やて?」
「わ、こわー。冗談やがな。やけど、どうするんや? 名前だけ分かっても、
見つけるんはしんどいぞ」
「簡単なこっちゃ。新聞に人捜しの広告、出したらええ。そうやな、こんな文
面はどうかいな。『くりのみどりさん・かずひこくん 緑の石ひろうた。誤解
ときたいから 連絡待っとるで』」
「大阪弁で広告、出すんかいな」
「あほ、話言葉ゆうもんやろが。ちゃんとした文章にするわい。ま、『くりな』
なんて名前、珍しいからすぐにはっきりすると思うで。広告料金はちゃんと返
してもらうがな。
さあ、そろそろ忙しくなる時間や。大人しくしといてもらおか、林。話しか
けたら、どうなるか分かっとるな?」
「分かっとるって。せいぜい、頑張れや」
「お、来よった。おーお、いつもの女子高生や。うるさいんはかなわんけどな
あ、お得意さんやからしゃあない」
「難波さん、こんにちわー! また新しいお友達、連れて来ちゃった」
「これはこれはお嬢さん方。よく来てくれましたね。今日はハーブティにいい
物が揃っていますが、いかがなさいますか?」
−終わり−
犯人当て お似合い・解答編 奥原丈巳
「着目したのはやはり、マッチだったんだ」
みんなの前で、僕は話をこう切り出した。刑事はいなくて、部屋には僕に栗
畑、神田、水島、加藤だけ。
「マッチ? あれはもう、決め手にはならないと、刑事さんが……」
神田の言葉を途中で止めさせ、僕は言った。
「いいから聞いてくれよ。まず、単純な質問。マッチ七本で、井戸まで行くの
に足りるだろうか?」
「四十メートルぐらいだから、大丈夫じゃないのか? 六メートル歩くのを一
本で持たせれば」
栗畑は、自分の家の井戸を思い浮かべながら言ったらしい。
「四十メートルじゃない。八十メートルさ。犯人は往復したはずなんだから。
そうなると、一本のマッチの明りで十一メートル以上、歩かなきゃならない。
これは少し、無理があるんじゃないかと思う」
「走っては駄目なの?」
と、水島。少し間を取ってから、僕は答える。
「犯人は家にいる人達に気付かないようにしたかったはずだから、走らないと
思う。走ることで火を消してしまう危険を冒すより、無事に家にたどり着く方
が大事だと考えたろうしね。
それじゃあ、どうして七本で足りたのか? 栗が言ったように、行くか帰る
だけなら、七本で足りるだろうけど。ここで注目したいのは、マッチの軸だ。
みんなもあの刑事に見せてもらった通り、マッチの軸は白いままだった。これ
はおかしいんじゃないか?」
「どこが?」
みんなの声が上がった。
「考えてみてほしい。犯人は利き手の右手を血で汚してしまい、それを洗い落
とすために井戸に向かったはずだろう? それなのに、どうして血がマッチの
軸に付着していないんだ?」
「あ−−」
今度は、みんなのため息にも似た声。
「左手で擦ったのかもしれない。利き手でマッチを擦るとは限らないぜ。血が
べとべとして気持ち悪かったから、無理して左手を使ったかも」
しばらくの沈黙の後、発言したのは神田だった。しかし、これは神田らしく
もない。
「何を言ってるんだ。それなら、マッチの空箱の方に血が付くだろう? 刑事
に見せてもらった箱には、そんな痕跡はなかった」
「そうか……。だったら、片手で擦ったのかもしれない。片手に箱とマッチ棒
を持ち、器用に擦ったら火が着くだろう」
「そうだろうな。でも、どうして、そんなことをする必要がある? マッチの
軸に血が付着することを、犯人が嫌う理由がない」
「……」
ようやく、神田は反論をあきらめたようだ。
「じゃ、どう解釈すればすっきりするか。簡単なんだ。犯人はマッチを使った
とき、手はきれいだった。こう考えたら−−」
「どうして? 犯人は血を洗い落とすために、井戸に行ったんでしょう?」
加藤が疑問を口にした。
「そう。しかし、マッチを使ったときには、犯人の手はきれいだった。つまり、
手を洗い終わってから、マッチを使い始めたことになる」
「じゃあ、どうやって、井戸まで行ったのよ?」
「ライターを使ったに決まっている」
「どうしてなんだ? 行くときにライターを使ったのなら、帰りもライターを
使えばいい」
再び神田。
「だから、手を洗い終え、帰るときになって、ライターが使えなくなる何か、
アクシデントがあったんじゃないだろうか? 例えば、ライターを井戸の水で
濡らしてしまったとか。これじゃ、ライターは着かなくなる。
焦った犯人は、懐にマッチがあるのに気付いた。『風呂を焚くときにでも』
使ったのを、そのまま持っていたんだろう。これを使えば何とかなると思った
犯人は、大事にマッチを燃やしながら、家屋まで戻った……」
「よく分かったけど、それがどう、犯人の決め手になるんだ?」
栗畑は不審そうだった。
「竹久保さんが殺されたのは、早く見積っても午前二時。井戸で手を洗ったの
は、二時半ぐらいか。このとき、犯人はライターを水で濡らし、使い物になら
なくしてしまっている。最初の夜に竹久保さんがライターを濡らしてしまった
とき、分かったんだけど、このライターは一度濡れると七時間はまた着火する
ことはできない。それで殺人のあった朝の七時過ぎ、伊集院刑事が僕らに話を
聞いてきたとき、ライターの検査もしたよな? このとき、ライターが着かな
かったのは、おまえの持っていた物だけだったよ、俊」
「な、何を言ってるんだ!」
神田は、馬鹿々々しいという表情になった。
「武郎、見てただろう? あれは、あの朝、井戸の近くで落として濡らしたん
だ。それで着かなくなった。断じて」
「無駄だよ、俊。あの時点で他のライターはみんな、着いた。ということは、
それらのライターは濡れていないってことだ。おまえは、血を落とすときにラ
イターを濡らしてしまったことをごまかすため、あの朝、僕を無理に起こし、
顔を洗いに井戸へ行こうと誘った上で、もう一度ライターを落として濡らして
みせたんだ」
「……」
「付け加えるなら、俊。風呂を焚いたとき、マッチを持っていたよな」
「……ばれてしまった、か」
神田がそう漏らすと、僕以外のみんなは、血の気の引いた顔になった。やは
り、覚悟のないまま聞かされると、相当な衝撃だろう。今の今まで、友達だっ
た人間が、同じ友達を殺したんだとなると……。
「こうも早く、やられるとは思わなかった」
何故か笑い顔で、神田は続けた。
「自首してくれるな?」
「……ああ」
「待って。どうして殺したのよ、真理亜を。神田君、あなた、真理亜と凄く仲
よかったじゃない」
水島が言うと、加藤も同調し、声を揃えた。
「どうして加藤さんまで聞きたがるのかな? 言ってたじゃないか。君と武郎
があのとき話していた。真理亜が好きなのは栗だって」
「はあ?」
間の抜けた声を上げたのは、自分達全員だった。それはそうだ。僕は加藤と
そんな話をした憶えはないし、栗畑だって、自分が竹久保を好きだったことは
あっても、竹久保の方から告白を受けてはいまい。水島にしても、寝耳に水っ
て感じだ。
「そんなこと、話してないわ」
「嘘をつくなよ。聞いたんだ、あの迷路の出口で。先にゴールしていた加藤さ
んと武郎が、確かに言っていた」
「あ……。あれか」
僕には思い当たったことがあった。あのとき、僕は加藤と話をしていた。竹
久保が好きなのは誰か、という話題になったと思う。そして、僕はこう聞いた。
「他にも竹久保さんを好きな人、クラスにいる訳?」と。これに対し、「栗畑
君よ。真理亜が好きなの」と加藤は答えたんだ。この加藤の言葉だけを聞けば、
『真理亜が栗畑を好き』と受け取っても仕方がない。例え真の意味が、『栗畑
が真理亜を好き=栗畑はマリアが好き』だとしても……。
その結果、誤解した神田はあの夜、竹久保を問い詰め、何も知らないと言う
竹久保の態度をしらを切っていると思い、かっとなって……。
「俊……。どうして信じられなかったんだ」
僕は、この言葉の真の意味を神田に告げるべきかどうか、その考えで胸が一
杯になった。
−−解答編.終わり
<<−−執筆者の言葉−−>>
玉置三枝子(たまき みえこ)
再利用ブームにのっかった訳じゃありませんが、パッチワークキルトに凝っ
てます。端切れを新しい作品に仕立てるんですが、仲々創造的で面白いですよ。
香田利磨 (こうだ りま)
推理研以外の友達と話していて、話題について行けなくなることがたまにあ
る。これってコワイんだよー。ドラマの最終回だけでも要チェック?
剣持絹夫 (けんもち きぬお)
自分の身を削るような連載なので、毎回、頭を痛めております。こうして今
日も、剣持は街の玩具屋にネタを漁りに消えるのでした……。
本山永矢 (もとやま ながや)
高校の頃の癖が抜けきらず、どうも、学園祭のことを文化祭と言ってしまい
ます。他の人、そんなことないのかな? 文化から程遠いことはかわりない?
木原真子 (きはら まこ)
作品に合わせてイラストをってご意見がたくさん。できればそーしたいけど、
得手不得手ってもんがあるワケ。リアルな絵なんて短期間では描けないもん。
SATOMI(さとみ)
ども、お客さん扱いのSATOMIです。正社員になれるよう、のんびりと
頑張らせてもらいます。あ、うまい食べ物あったら、教えてください。
奥原丈巳 (おくばら たけみ)
(就職活動と卒論のおかげで超ハードモードにつき、コメントはいただけませ
んでした)
編集後記
素人物書きのいいところは、締め切りを気にする必要なく、作品を気に入る
ように仕上げられる点だと信じたいものですが、この時季はそうもいきません。
という訳で、いつもよりせっぱ詰まった状態で書かれたはずである、学園祭用
の本号、いかがでしたでしょうか? これまでと比べてレベルダウンしていな
ければ、幸いです。
あ、学園祭に来られた学外の皆さん、感想をお待ちしています。よろしく。
さて、今号から頼もしいお仲間が一人、加わってくれました。SATOMI
氏は関西弁を駆使する面白い人です。これからも参加したいということですか
ら、どうかごひいきに。
最後に私信。奥原部長、早く復活できるよう、願っています。就職活動と卒
論、頑張ってください。 部員一同
−続く−