AWC 今は大丈夫(上)   うちだ


        
#2438/5495 長編
★タイトル (TEM     )  93/12/19  20:21  (100)
今は大丈夫(上)   うちだ
★内容
これはボードが分割したころ連作にしようともくろんで書いたものです。で、
結局今に至るわけですが・・。
**********************************

 目覚ましで、起きた。正確に言うと目が覚めただけ。
午前七時だったので、もう一度寝た。

私。笹山桃子、二十一歳。幸も不幸もなくいろいろと人並みな毎日。
なんてね。何にも約束のない日曜日はなぜか憂鬱になる私なのだ。

午後一時。布団の中で、ぐぅ〜〜〜っ と、伸びをする。昨日は十時に寝たん
だから睡眠十七時間か? これ以上寝てられない、いくらなんでも。ものには
限度というものがある。まあ“どんなに遅くとも十時には起きている”父母に
は理解を越えた限度だろーけど、上には上が居て“夕日と共に起きる”という
のだから、それよりいいや。私はずるずるとベットからはい出る。なんか爬虫
類っぽいよね、こーゆー時の動作って。それからベットの足元のシャツをつか
むと、また布団をかぶる。今度は寝るんじゃなくて中で着替えた。

それにしても一人だとなかなか出掛ける気が起こらない。中学高校の頃は用も
なくふらふらとしてたんだけどなぁ、何だかどんどんなまけものになっていく
みたいだ。って思うくらいならどーにかしろよって言われたってどーにか出来
るものじゃないのはきっとみんな知っていて、だからどうでもいい人ともアポ
(約束)とって遊びに行ったりするんだろうな。さもなきゃ*ムウェイとかに
打ち込んだりするのか。それとも諦めちゃうのかな。

いきなり出掛けたほうがいいような気になってきたので、友達の家に電話して
みる。まずは高校からの友人の真寿美に。
「もしもし、鈴木さんのお宅・・・」
「あ・桃ちゃんでしょう?」
このの〜てんきな声は鈴木家の母君である。私のことは毎週かけるから覚えて
るみたい。
「ごめんねー。真寿美ねぇ、今日はお茶。初釜とかで着物を着て出掛けたから、
夜まで帰らないと思うわ。」
「あ・・そーですか」
いつも会社でつるんでいるユリはデートだって言ってたっけ。彼女ってつくづ
く恋愛体質。高校のときの連れの青柳と鈴子のトコは誰も電話に出なかった。
そういえば友達はみんなスケジュール表真っ黒状態だったんだよな。これは桃
子一生の不覚。(←大袈裟)

 そこからはもう思い付く限り、電話番号を知っている限り、かけまくる。
会社の後輩、先輩、中学の同級生、友達の連れ、コンサートで知り合ったぷー
の子、普段話もしない会社の同僚、去年ナンパされた男の子、スキー合宿で知
り合った奴、小学校でクラブが同じだった人、それから・・・・・それはもう
手当たりしだいに。なのに誰も居ないってどういうことだろ。当日約束しよー
とする私が悪いんだろーけど、ちぇ。トホーに暮れて受話器を抱え込んで目を
閉じる。もう一回寝ちゃおうかなー。テレビもマンガもカッタルイ。何にもし
たくない。

誰かとつながりたいのに誰もつかまらないとき、どうしようもなく辛くなる。
それで街に出たりすると沢山の人が居るんだけど、みんな関係ない人なんだ。
どうしてこんなに孤独になっちゃったんだろうと思う。

なんてしばらくうだうだと受話器を抱えてぼんやりしていると、電話が鳴った。
(あ・念の為、コードレスです)間発入れず、とる。
「はいっ、もしもし。笹山です」
イキナリ出た私に一瞬ひるんだ声。「あ・・・・・・桃子?俺・俺」
「“俺ぇ”??」
“俺・俺”なんて図々しい電話をしてくる男の人はたった一人しか覚えがない
けれど、腹がたつ。とりあえず。
「どなたですか?」
「・・・・ホントに分からない? 杉山だって」
「ああ・・・はいはい。で?」
「・・・こんな天気のいい日曜に家に居るとは淋しい奴だなー」
「じゃあ、アンタもうちに電話なんかすんな」
私はマジで怒る。でも間発入れず電話をとってしまった私に分が悪い。
「・・・だって私、さっき起きたトコだもん。」
「今から出てこない?」

ヒマだから遊んであげることにする。とはいえお互い給料日前でお金がないか
ら、ファミリーレストランでお茶する約束をした。

杉山くんは私の会社の同僚のユリの元彼氏だ。・・・ユリの元彼氏なんてのは
他にもいるか。ま、それは置いとく。杉山くんて人は、ルックスはまあフツー
だけどどーしよーもない人で、二股どころかタコ足配線みたいな付き合い方を
してそれが発覚したのが原因でユリと別れたらしい。どこがどーしよーもないっ
て言ったら、一応ユリの友達でもある私のところにこうしてたらたらと電話な
んか掛けてくるトコでしょ、やっぱり。

道でクラクションが鳴った。
「桃子ー、誰か来たみたいよー?」と母の声。支度をして二階から降りる。
杉山くんが車で迎えに来ていた。
「おう」と杉山くん。「どーもどーも」と私。一カ月ぶりくらい、かな。あい
変わらずいい車、キレーにしてるよなぁ。クレスタ、だったよね、それも最新
型だぁ。無理してるんだろうな、安月給なのに。男の人って自分の部屋はむちゃ
くちゃでも車だけはキレーにしてるっていうから、偉いよね。その情熱、どこ
から出てきてどこへ行くのか考えるとバカみたいだけど、高級車はクッション
良くて気持ちイイから許す。
「でもさぁ、この辺りにあのファミリーレストランて有ったっけ?」
車に乗りながら私は杉山くんに尋ねる。
「出来たんだよ」
「どこに?」
「ドムドムのつぶれた後だよ」
「ふーん・・・何得意そーな顔してんの? 流行の店に連れて行ってくれると
かならともかく、そんなもん知ってるからって一体・・・・」
「得意そーな顔なんかしてねーよ」
ムッとする杉山くん。

十分ほど車で走った後、くだんのファミリーレストランについた。

                              つづく




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